講演情報

[15-O-A009-07]自立支援介護の取り組み~水分摂取ケアの重要性~

*大谷 和雅1、小山田 裕一1、橋阪 清貴1 (1. 大阪府 松下介護老人保健施設はーとぴあ)
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2021年度の介護報酬改定で、高齢者の寝たきり予防や重度化防止のために「自立支援促進加算」が創設された。竹内らが提唱する自立支援介護では水分摂取が最も重要な基本ケアとされている。入所利用者を対象に、水分摂取量が1500ml以上と未満の間に自立度に差が認められるか、「排泄」「食事」「歩行」の面から検討した結果、1500ml以上摂取群で有意に自立度が高かった。
【はじめに】
2021年度の介護報酬改定で、高齢者の寝たきり予防や重度化防止のために「自立支援促進加算」が創設された。そこで当施設は竹内孝仁氏(日本自立支援介護・パワーリハビリ学会顧問)が考案した介護理論である自立支援介護に着目した。自立支援介護は、「水分1500ml/日」「食事1500kcal/日」「歩行2km/日」「3日以内の自然排便」の4つの基本ケアからなり、特に水分摂取は高齢者の意識レベルを向上させ、他の基本ケアを進める上で最も重要なケアであるといわれている。水分摂取量1500mlが高齢者の自立に対して有用であるか、「食事」「歩行」「排泄」の面から自立度を評価し検証したので報告する。                   
【取り組み内容・結果】
1.自立支援介護のプロジェクトチーム(自立PJ)の立ち上げ
(1)2021年11月多職種から構成される自立PJを立ち上げた。自立支援介護・パワーリハビリ学会の研修に参加して、基本ケアの理論を学習し、実践を開始した。
(2)自立支援介護を進めるにあたり職員対象にアンケート調査を施行した。水分提供の機会が増えたことによる業務負担感や1500ml以上飲ませることへの不安感をもつ職員がいると分かった。そこで、全職員が理論を再度理解し納得して進めていくことが必要と考え、4つの基本ケアの理論について再度PJメンバーからレクチャーを行い、取り組みの成果をPJニュースとして毎月発信した。
2.水分1500ml/日の提供の実際 
(1)高齢者では体内水分量が1-2%減少すると脱水状態となり覚醒度が低下するといわれている。身体から失われる水分を考えると1日1500ml以上の水分が必要である。そのため1日1500ml以上提供できるように水分の種類、量、提供時刻を記載したケアプランを作成した。
(2)心不全や腎不全等を持つご利用者には医師、看護師と連携し、適切な水分提供量を設定しリスクマネジメントを行いながら水分提供した。
3.取り組み開始前後の水分摂取量の変化  2021年11月、自立支援介護開始時の1日1人当たりの平均水分摂取量は1134mlであったが、2024年5月には平均1460mlに増加した。
4.自立度の評価方法 
別表参照
5.水分摂取量と自立度の関係
(1)対象・方法
2024年2月1日時点で入所している利用者98名(平均年齢87.6歳、男性21名、女性77名)の利用者を対象とし、表(自立度の評価方法)に示したような評価方法を用いて自立度を検討した。統計的な解析にはカイ2乗検定を用い、p値0.05以下で有意差ありとした。
(2)結果  
ア.水分摂取量と自立度    
1日の水分摂取量1500ml未満の内訳は、重介助5名、軽・中介助12名、自立27名であり、1500ml以上では、重介助0名、軽・中介助15名、自立39名であり、水分摂取量1500ml以上の方が、1500ml未満より有意に自立度が高かった。  
イ.水分摂取量と食事(常食率)
1日の水分摂取量1500ml未満では、常菜が26名(59.1%)、1500ml以上では38名(70.3%)であり、水分摂取量1500ml以上で、有意差は認めなかったが、常食率は高い傾向を示した。  
ウ.水分摂取量と歩行率
1日の水分摂取量1500ml未満では、車椅子を利用しない自力あるいは見守り歩行は23名(65.9%)、1500ml以上では、43名(79.6%)であり、水分摂取量1500ml以上で、有意差は認めなかったが、歩行率は高い傾向を示した。  
エ.水分摂取量とトイレ排泄率(終日トイレで汚染無く排泄する利用者の割合)
1日の水分摂取量1500ml未満のトイレ排泄率は52.3%、水分摂取1500ml以上では72.2%であり、1500ml以上の方が、有意にトイレ排泄率が高かった。
【考察】
自立支援介護の取り組みとして、まずは1日1500ml以上の水分摂取量を確保することが、高齢者自立のための最も重要な基本ケアであると考えられた。「食事」「歩行」「排泄」という個々の基本ケアと水分摂取の関係については、水分摂取1500ml以上の方が自立度は高い傾向にあったが、排泄以外は統計学的に有意な結果は得られなかった。今後は、さらに水分摂取量を増やす努力をするとともに、積極的な咀嚼・嚥下リハビリに取り組むことやコロナ禍でできなかった施設外の歩行リハビリを再開することが可能となれば、水分摂取の重要性を示唆する結果が出るものと考えている。
【終わりに】
1500ml以上の水分摂取量は、高齢者が自立した生活を獲得するうえで必要なケアと考えられ、他の基本ケアの目標達成のためにも最も重要かつ基本となるケアである。今後も高齢者の自立した生活に向けて、施設全体で自立支援介護に取り組んでいきたい。 
参考文献:(1)新版 介護基礎学-高齢者自立支援の理論と実践- 竹内孝仁著