講演情報

[15-O-G001-01]移乗用具を不安なく適切に活用するための検討

*川村 富美1、出井 沙織1、土井 敏之1、武田 郁子1 (1. 大阪府 介護老人保健施設 八尾徳洲苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
A老健にて移乗用具(フレックスボード・スライディングボード)導入後3年がたち、現在正しく不安なく活用できているのか、入所フロアの介護・看護職員にアンケート調査を実施した。その結果、8割の職員が介助時の負担軽減を実感するも、3割の職員が使用時の不安を抱えていた。使用マニュアルに関するテストを行った所、正答率が6割であり、マニュアル把握が不十分で、使用時の不安に繋がっているのではないかと考える。
1.背景
A老健では、動作介助量の多い利用者を3名の介護、看護職員で移乗することや、経験のある職員に限定して行うことがあり、介助者の負担が多い状態であった。
森永らは、「スライディングボードの使用が、移乗介助動作の持ち上げ力を減少させ、腰部負担を素手による介助よりも軽減させる」と述べている。A老健でも介護負担軽減のため、3年前より移乗用具(フレックスボード、トランスファーボード)の導入を開始した。導入時には、使用方法のマニュアルを作成し、介護・看護職員への伝達を行った。
その後、新入職の職員も増え、職員一人一人が使用上の注意点を認識し実践できているのか実態が把握できていない状態である。
2.目的
移乗用具を正しく不安なく活用できているか、介護負担軽減につながっているかを調査し、課題を抽出し、今後より安全に活用できることとする。
3.対象と方法
A老健に勤務する入所フロアの介護、看護職員34名を対象とした。アンケート用紙を配布し、自記による回答を求めた。回答は無記名、選択式とし、その理由を自由記載とした。調査期間は令和6年4月8日~4月19日で、調査結果は統計処理し、自由記載については筆者と共同演者の2名で個別に分類をした後、互いの分類について議論の上で内容の分類を行った。また、A施設で作成した、フレックスボードを使用しベッドからリクライニング車椅子へ移乗する際の使用方法のマニュアルより10問テストを作成し、○×形式で実施した。
4.倫理的配慮
本研究に先立ち、所属施設の教育委員会に研究目的、方法について研究計画書を用いて説明し、実施許可を得た。対象職員に研究の主旨及び対象職員の質を評価するものではない旨と、個人が特定されないことを文書で説明し、アンケートへの回答をもって同意を得たものとした。
5.結果
アンケートの回収率は78%(29名)であった。
(1)移乗用具を使用することで介護負担が軽減したか
軽減した23名(73%)、変わらない4名(14%)、未使用2名(7%)であった。
未使用の2名は今年度入職した職員であった。変わらないと答えた4名に関して、勤務年数で内訳をみると、1~5年が3名、11~15年が1名であった。
軽減した理由は、複数の理由を回答した者がいるが、持ち上げなくて良いため腰・身体の負担が軽減した17名、移乗時の転落や骨折リスクが軽減した6名、利用者の負担が軽減した4名、未記載3名であった。変わらない理由は、上手く使用できないので使っていない、使用しても介助量の変化を感じない、使用しない方が介助しやすいため使っていない、であった。
(2) 移乗用具を使用する際に不安な点はあるか
不安あり9名(31%)、不安なし20名(69%)であった。勤務年数による不安の有無の比率は、未回答の1名を除き、1~5年は不安あり4名(31%)、不安なし9名(69%)、6~10年は不安あり2名(25%)、不安なし6名(75%)、11~15年は不安あり1名(100%)不安なし0名(0%)、16~20年は不安あり1名(20%)、不安なし4名(80%)、21年以上は不安あり1名(100%)、不安なし0名(0%)であった。不安な理由は、上手く使用できていない5名(56%)が最多で、使用方法が不明瞭2名(22%)、正しく使えているか不安2名(22%)であった。
テストの結果は、4点1名(3.5%)、5点6名(21%)、6点10名(34.5%)、7点5名(17%)、8点7名(24%)の、平均6.4点であった。勤務年数による平均点を比較すると、1~5年が6.2点、6~10年が6.6点、11~15年が5点、16~20年が7点、21年以上が6点であった。また、10問中4問が正解率50%以下であり、その項目は、ベッド側の車椅子アームサポートを外す、ベッドの高さを車椅子座面より高くする、移乗用具は強く差し込まず隙間に入る分だけ入れる、ベッドを車椅子の背もたれの角度に合わせるようギャッジアップする、であった。
6.考察
移乗用具を導入することで利用者を持ち上げずに移乗でき、介護負担軽減につながっていることがわかった。
一方で、テストの平均点が6.4点という結果よりマニュアルが十分に理解されていないことがわかった。そのため移乗用具を上手く使用できず、不安を感じている職員がいると考えられる。また問2で不安ありと答えた割合が高い年数の者ほど、テストの平均点も低い傾向にあった。これはマニュアルの理解不足が不安につながっている可能性が考えられる。
移乗用具導入時にマニュアルを作成し各部署へ共有しているが、その後の運用については各部署任せになっていた。そのため時間経過とともにマニュアルの伝達がなされておらず使用方法の詳細が不明瞭になり、不明瞭なまま伝達されている状態であると思われる。つまり、日常業務において、マニュアルが活用されず、移乗用具を正しく使用できていない部分があることが示唆された。マニュアル自体、導入時に作成したものであり、日々の業務では活用しにくいものである可能性も考えられ、今後見直しの検討も必要と思われる。
7.まとめ
移乗用具を使用することで介護負担軽減ができており、一定の効果はあったと考える。今後は、マニュアルの見直しも検討し、再度使用方法を各部署に伝達するとともに、特にテストで点数の低かった4項目に関して周知できるよう、実践や動画を用いるなどわかりやすい方法を取り入れ、より安全に移乗用具が使用できるように取り組んでいきたい。