講演情報
[15-O-G001-06]ポジショニング研修による看護・介護職員の意識の変化拘縮予防への取り組み
*松浦 貴久海1、田坂 麻子1 (1. 山口県 小野田赤十字老人保健施設あんじゅ)
看護師・介護職員のポジショニングに対する意識を向上する目的で、拘縮予防のためのポジショニング研修を実施した結果、明らかな意識の変化が見られたため報告する。研修後には正しいポジショニングを実践し、その後行ったアンケート調査では、ポジショニングの知識や観察についての項目の点数が向上した。しかし一方で、拘縮の軽減は実感できず、ポジショニング技術の難しさなどの課題も抽出された。
【はじめに】
A介護老人保健施設は、要介護度3以上の割合が50%、平均年齢が90歳以上の利用者が約30%を占めている。床上での生活を主とする利用者は、関節拘縮予防の観点から、看護師や介護職員が適切なポジショニング技術を提供することが求められる。
しかし職員はポジショニングについて系統的な知識を得る機会がないまま、画一的な体位変換を行い、話し合う機会もあまりなかった。
そこで、ポジショニングの知識を学んで実践することで、意識を高め、拘縮予防に取り組むことが必要ではないかと考えた。先行研究では見当たらなかったため、本研究において、ポジショニングに対する意識の変化を明らかにすることを目的とした。
【目的】
看護師・介護職員にポジショニングの研修を実施し、その後実践することにより生じた、意識の変化を明らかにする。
【方法】
A施設に勤務する看護師・介護職員計17名を対象に、ポジショニング研修を実施した。
1.研修内容
1)理学療法士を講師として、ポジショニングの知識を学んだ。
2)体験学習として、利用者に行っているポジショニングと同様の臥位姿勢をとり、「不動の時間」体験してもらう。
3)筋緊張・拘縮が強い利用者3名に適切なポジショニングを実施する。
2.調査内容
1)ポジショニングの研修と実践をした後で、研究対象者にアンケートを実施した。アンケートは「観察」「拘縮の原因」「学習」「ポジショニング後の評価」「ポジショニングの効果」「教育マネジメント」の6つの視点からなる自作の質問紙調査とし、それぞれの視点には2~6項目を設けた。回答は5段階のリッカート尺度を用いて評価した。
2)「不動の時間」を体験した後で、どう感じたかを自由記述形式で回答してもらった。
3.データ分析方法6つの視点からなる質問紙調査の分析は、単純集計で行った。「不動の時間」体験後の自由記述式アンケートは、身体的苦痛と利用者に対する思いに分けて整理した。
【結果】
6つの視点からなる質問紙調査の結果で、平均点が最も高かった項目は「ポジショニング後の評価」項目2「ポジショニング後の姿勢を確認するようになった」で4.29だった。次に高かったのは「拘縮の原因」項目5「利用者の特性に応じて声かけの仕方を考えるようになった」、「学習」項目4「ポジショニングでどのクッションが適切であるか考えるようになった」、「ポジショニング後の評価」項目4「ポジショニング後の筋緊張を確認するようになった」で、4.21であった。平均点が最も低かったのは、「ポジショニング後の効果」項目1「オムツ交換時、筋緊張が減り、陰部洗浄など清潔の援助が楽になった」と、「教育マネジメント」項目1「(後輩・同僚に)ポジショニングの情報共有、教え合うようになった」で、2.79であった。
視点の平均点では「観察」の平均点が全項目4.0点台で最も高く、「拘縮の原因」は5項目中3項目が4.0以上、「学習」は4項目中3項目が4.0以上であった。一方で「ポジショニング後の効果」の平均点は全項目3.0点台以下と低かった。
また「不動の時間」の自由記述式アンケートでは、同一姿勢を保持することで体の痛みを感じたと答えた対象者は4名、体位変換クッションの必要性を感じると回答した対象者は2名であった。
【考察】
6つの視点の集計結果において、「観察」の平均点が全項目4.0点台で最も高かったことから、対象者がポジショニングの観察について学び、意識の変化が起こったと考えることができる。
また、「拘縮の原因」は5項目中3項目が平均点4.0以上、「学習」は4項目中3項目が平均点4.0以上であったことも、ポジショニングの必要性について意識が高まり、知識、技術の向上に繋がったと考える。アンケート全29項目のうち、「そう思う」「ややそう思う」を合わせた回答が50%以上を占めたのは22項目であり、「あまりそう思わない」「そう思わない」を合わせた回答が50%を超えた項目はなかったことから、ポジショニングに対する意識の変化が起こったことが明らかとなった。
しかし一方で「ポジショニング後の効果」の平均点が3.0点台と低かったことは、効果について実感できていないことを示している。また「ポジショニング後の効果」項目1「オムツ交換時、筋緊張が減り、陰部洗浄など清潔の援助が楽になった」と項目2「ベッドから車椅子への移乗の際、筋緊張が減り移乗が楽になった」の「そう思う」「ややそう思う」の平均点が、全項目中最も低かった。これは、ポジショニングの開始から1か月という短い期間でアンケートを行ったため、効果が表れるには時間が十分でなかった可能性が考えられる。
また、ポジショニングを実施した利用者にはアンケートを行っていないため、筋緊張が軽減しているのか検証することが難しかった。さらにポジショニングの技術に個人差があったこと、十分な数の体位変換クッションがなかったことも、効果を実感できなかった要因の1つと考える。
【まとめ】
1.今回、A施設の看護師と介護職員を対象に、ポジショニング研修と実践、「不動の時間」を体験した。それらの取り組みを行うことで、ポジショニングの6つの視点における意識の変化が見られた。
2.本研究は実施期間が短く、利用者の拘縮の改善は実感できなかった。また、ポジショニングに対する意識の変化は見られたが、技術の向上については不明である。よって今後はポジショニングの意識化を持続し、技術の向上を目指すことも検討する必要がある。
3. 本研究を実施する過程で、体位変換クッションの不足やポジショニング技術の難しさなど、様々な課題が抽出された。今後はケアカンファレンスにて話し合い、理学療法士の助言を求めることが望ましい。さらに継続した取り組みのためには、ケアマネージャーに相談して、ケアプランに組みこむことが課題である。
A介護老人保健施設は、要介護度3以上の割合が50%、平均年齢が90歳以上の利用者が約30%を占めている。床上での生活を主とする利用者は、関節拘縮予防の観点から、看護師や介護職員が適切なポジショニング技術を提供することが求められる。
しかし職員はポジショニングについて系統的な知識を得る機会がないまま、画一的な体位変換を行い、話し合う機会もあまりなかった。
そこで、ポジショニングの知識を学んで実践することで、意識を高め、拘縮予防に取り組むことが必要ではないかと考えた。先行研究では見当たらなかったため、本研究において、ポジショニングに対する意識の変化を明らかにすることを目的とした。
【目的】
看護師・介護職員にポジショニングの研修を実施し、その後実践することにより生じた、意識の変化を明らかにする。
【方法】
A施設に勤務する看護師・介護職員計17名を対象に、ポジショニング研修を実施した。
1.研修内容
1)理学療法士を講師として、ポジショニングの知識を学んだ。
2)体験学習として、利用者に行っているポジショニングと同様の臥位姿勢をとり、「不動の時間」体験してもらう。
3)筋緊張・拘縮が強い利用者3名に適切なポジショニングを実施する。
2.調査内容
1)ポジショニングの研修と実践をした後で、研究対象者にアンケートを実施した。アンケートは「観察」「拘縮の原因」「学習」「ポジショニング後の評価」「ポジショニングの効果」「教育マネジメント」の6つの視点からなる自作の質問紙調査とし、それぞれの視点には2~6項目を設けた。回答は5段階のリッカート尺度を用いて評価した。
2)「不動の時間」を体験した後で、どう感じたかを自由記述形式で回答してもらった。
3.データ分析方法6つの視点からなる質問紙調査の分析は、単純集計で行った。「不動の時間」体験後の自由記述式アンケートは、身体的苦痛と利用者に対する思いに分けて整理した。
【結果】
6つの視点からなる質問紙調査の結果で、平均点が最も高かった項目は「ポジショニング後の評価」項目2「ポジショニング後の姿勢を確認するようになった」で4.29だった。次に高かったのは「拘縮の原因」項目5「利用者の特性に応じて声かけの仕方を考えるようになった」、「学習」項目4「ポジショニングでどのクッションが適切であるか考えるようになった」、「ポジショニング後の評価」項目4「ポジショニング後の筋緊張を確認するようになった」で、4.21であった。平均点が最も低かったのは、「ポジショニング後の効果」項目1「オムツ交換時、筋緊張が減り、陰部洗浄など清潔の援助が楽になった」と、「教育マネジメント」項目1「(後輩・同僚に)ポジショニングの情報共有、教え合うようになった」で、2.79であった。
視点の平均点では「観察」の平均点が全項目4.0点台で最も高く、「拘縮の原因」は5項目中3項目が4.0以上、「学習」は4項目中3項目が4.0以上であった。一方で「ポジショニング後の効果」の平均点は全項目3.0点台以下と低かった。
また「不動の時間」の自由記述式アンケートでは、同一姿勢を保持することで体の痛みを感じたと答えた対象者は4名、体位変換クッションの必要性を感じると回答した対象者は2名であった。
【考察】
6つの視点の集計結果において、「観察」の平均点が全項目4.0点台で最も高かったことから、対象者がポジショニングの観察について学び、意識の変化が起こったと考えることができる。
また、「拘縮の原因」は5項目中3項目が平均点4.0以上、「学習」は4項目中3項目が平均点4.0以上であったことも、ポジショニングの必要性について意識が高まり、知識、技術の向上に繋がったと考える。アンケート全29項目のうち、「そう思う」「ややそう思う」を合わせた回答が50%以上を占めたのは22項目であり、「あまりそう思わない」「そう思わない」を合わせた回答が50%を超えた項目はなかったことから、ポジショニングに対する意識の変化が起こったことが明らかとなった。
しかし一方で「ポジショニング後の効果」の平均点が3.0点台と低かったことは、効果について実感できていないことを示している。また「ポジショニング後の効果」項目1「オムツ交換時、筋緊張が減り、陰部洗浄など清潔の援助が楽になった」と項目2「ベッドから車椅子への移乗の際、筋緊張が減り移乗が楽になった」の「そう思う」「ややそう思う」の平均点が、全項目中最も低かった。これは、ポジショニングの開始から1か月という短い期間でアンケートを行ったため、効果が表れるには時間が十分でなかった可能性が考えられる。
また、ポジショニングを実施した利用者にはアンケートを行っていないため、筋緊張が軽減しているのか検証することが難しかった。さらにポジショニングの技術に個人差があったこと、十分な数の体位変換クッションがなかったことも、効果を実感できなかった要因の1つと考える。
【まとめ】
1.今回、A施設の看護師と介護職員を対象に、ポジショニング研修と実践、「不動の時間」を体験した。それらの取り組みを行うことで、ポジショニングの6つの視点における意識の変化が見られた。
2.本研究は実施期間が短く、利用者の拘縮の改善は実感できなかった。また、ポジショニングに対する意識の変化は見られたが、技術の向上については不明である。よって今後はポジショニングの意識化を持続し、技術の向上を目指すことも検討する必要がある。
3. 本研究を実施する過程で、体位変換クッションの不足やポジショニング技術の難しさなど、様々な課題が抽出された。今後はケアカンファレンスにて話し合い、理学療法士の助言を求めることが望ましい。さらに継続した取り組みのためには、ケアマネージャーに相談して、ケアプランに組みこむことが課題である。