講演情報

[15-O-Z001-01]あなたの夢を叶えるために一人ひとりの希望に沿ったACP

*藤内 めぐみ1、山本 恵子1、牟田 隆宏1、湯田 健一1 (1. 宮崎県 介護老人保健施設みずほ)
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新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類へ移行後、様々な制限が緩和されたことで一人ひとりの希望に寄り添いたいと当施設で以前行っていた「あなたの夢叶えます」をリスタートした。入所者、ご家族へ企画を説明し、多職種連携で取り組んだ。結果、入所者の施設入所中の笑顔やリハビリ意欲が高まり、またご家族の距離が近くなったことでのモチベーションが向上したと考えられたので報告する。
【はじめに】令和2年1月から日本に初めての新型コロナウイルス感染が発表され4年が経過した。現在では、新型コロナウイルス感染症の位置付けが2類相当から5類へ移行はしているが、5類へ移行する前は、外出や外泊、面会制限を余儀なくされたことで、これまでの家族同席のイベントも中止となり、個別でのレクリエーション活動へと移行した。そのため利用者と家族との関わりが減り一人ひとりの希望を叶える機会が少なくなっていた。5類へ移行後、新型コロナウイルス感染症がなかったときの以前のような家族との関わりを増やす機会や一人ひとりの希望に沿える事は無いかと考え、以前当施設で行っていた「あなたの夢叶えます」プロジェクトをリスタートした。【目的】イベントやレクリエーションの再開、外出や面会で家族と関わりを持つことが大きな刺激となり、脳機能の活性化に繋がる。また、一人ひとりを尊重し意思決定を支援することで、人生観や価値観が具体化し施設生活に生きがいを持ちADL・QOLの向上を目標にすることができる。【方法】利用者、家族へアンケートを実施し対象者を定め企画立案し多職種の協力も得てプロジェクトを実行する。家族の1週間の健康観察と帰設後、抗原検査を実施する。・「家に帰りたい、奥さんの仏壇に手を合わせたい」と外出、外泊・自宅へ外出し娘の手作りデザート試食と飼育していた和牛の見物・「着物を着て職員にお披露目したい」「息子に筑前煮を作ってあげたい」と誕生日会への参加と料理教室への参加・「玄孫を会わせたい」と面会で娘、息子、孫、ひ孫が集まり玄孫を抱き写真撮影・帰宅願望が強く興奮もあり試験外出今回、その中の2つの事例を紹介する。事例(1)A氏 86歳 男性 要介護1 肺癌 HOT療法 ターミナル期「家に帰りたい、墓参りに行きたい。」外泊と外出を希望される。家族の協力を得て1泊2日の外泊と外出の実施外泊当日は、雨天の為予定していた墓参りは出来ず納骨堂へ行き自宅に帰り、亡くなられた奥様へ自宅に戻った報告をされる。家族と過ごす中、遠方に住む孫とリモートで会話を楽しまれる。2日目、天気も回復し念願の墓参りと温泉へ行かれる。帰設後、職員に「楽しかった。気持ちよかった。」と感想を言われていた。普段、施設での生活では遠慮がちな性格であったが、外泊、外出で家族との充実した時間を過ごされた結果、外泊以降の施設生活での活動意欲が高まり、レクリエーション参加も増えた。その後徐々に病状悪化が進み、居室での生活が増えた。「もう一度家に帰りたい…。」と口にすることが増え、医師や多職種と在宅へ外出の機会を作れないか検討し再度実施した。家族とのひと時を過ごすことが出来、帰設後の満面な笑顔は、前回の外出時よりも輝いていた。事例(2)B氏 88歳 要介護4 敗血症性ショック 膀胱結石症 尿閉「リハビリして早く家に帰りたい。」外出を実施する。敗血症性ショックにて入院。入院中より「死にたい。」など悲観的言動や興奮があった。精神科医へ相談しドネペジルが開始となった経緯がある。施設入所後1ヵ月が経過し、帰宅願望が強く「俺は家に帰ることを決めている。帰れないならリハビリはしない。」とリハビリを拒否し自暴自棄になられる。外出では、家屋状況の確認やADL状況を踏まえた介護保険サービスの検討を本人及び家族と協議を行った。帰設後、思っていた外出ではなかったと悲観的言動や自殺企図も見られた。「家族とゆっくりした時間を過ごしたい。」と本当の意思が吐露され、本人を主体に家族、支援者で繰り返し話し合いを行って、希望に沿った外出を計画。家族とゆっくりした時間を過ごし、帰設後も笑顔が増え心身の状態も良く施設生活が楽しいと満足されている。そして在宅復帰に向けたリハビリを以前より意欲的に取り組むようになった。【考察】今回の取り組みで、コロナ禍で外出や面会、行事などが制限され、家族との距離が遠くなったことで寂しさや孤独感が強く、住み慣れた家に帰りたい、自宅で過ごしたいなどの利用者の希望が家族との時間を過ごしたい、大切にしたいに変化した。「あなたの夢叶えます」のプロジェクトを実施した事で、利用者の笑顔や発語が増え感情豊かになり在宅復帰への意欲にも繋がったのではないかと考える。施設生活でどのような介護を受けたいか、個人の考えや希望を聞き取り、意思を尊重する支援が必要で、今回のアンケート調査での一人ひとりの要望を聞いて実行していくことの大切さを改めて感じた。【まとめ】今回のプロジェクトで協力いただいた家族から「こういう機会があったら是非また計画してもらえると嬉しい。」「介護が分からないなかでスタッフさんに協力してもらえると諦めていた自宅への外出が叶う。」などの言葉を頂いた。一人ひとりの要望を聞き実行することで制限されていた日常から充実した日常へと変化し、コロナ禍での施設生活の中では見られなかった感情や表現にも気づかされた。一人ひとりの意思を尊重した質の高いケアを実践するためにはACPは重要な手段である。それぞれの価値観を反映した意思決定を行うことは複雑で、価値観を共有しながら話し合い、本人にとって最善のケアを考えることが重要である。今後もプロジェクトを継続していくことで、利用者・家族が快適に自分らしい日常生活を送れるように多職種協働で支援していきたい。