講演情報

[15-O-Z001-02]多職種で行うアドバンスケアプランニングの実現可能性

*西川 満則1、大谷 緑1、荒川 碧1、山本 梨恵1、田中 貴美1、小島 秀樹2 (1. 愛知県 介護老人保健施設相生、2. 国立長寿医療研究センター)
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多職種で行うACPは重要である。令和6年2月から行われている、老人保健施設相生における、目標達成スケールを用いた多職種ACP実装の実現可能性を調査した。多職種ACPを行う上での、4つの阻害要因と、4つの促進要因が抽出された。多職種でACPを試みることで、阻害要因を乗り越え促進要因に変えることができる可能性や、無理のない実施計画の重要性が示唆された。
【背景】多職種で行うアドバンスケアプランニング(ACP)は重要である。ACPの考え方が盛り込まれた厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」においても医療ケアチームでの多職種協働の重要性が述べられている。また、近年の研究でも、ACPを実装する際、最大の障壁の一つとされる時間の不足についても、多職種協働がその障壁を乗り越える鍵とされている。しかし、日本の介護老健施設において、本人を中心とし、多職種で行うACPについての論文は少ない。PubMedで、Geriatric Health Services Facility、Advance Care Planningで検索しても、同様に医学中央雑誌で検索しても、本人にとっての最善を念頭に、多職種で行うACPの論文はヒットしなかった。そこで、我々は、介護老人保健施設における多職種が協働して行うACPの実装効果の評価(単施設パイロット前後比較試験)[UMIN000053702](以下多職種ACP研究)を実施している。多職種ACP研究では、実現可能性の評価とともに、主要評価項目を目標達成スケールのTスコアに設定した。このスケールを選択した理由は、1)日常ケアと合わせて行うACPを評価でき、2)意思決定能力が低下した利用者にも応用でき、3)日本語でも利用でき、4)R4システムと親和性が高いスケールだからである。なお、介入方法は、多職種による目標達成スケールの作成、2名の高齢者施設相談員と利用者と家族が行う1回60分以内のACPコミュニケーションである。令和6年7月19日現在、目標症例数30例のうち、4例が登録完了している。【目的】この発表の目的は、多職種ACP研究の実現可能性を中間評価することである。【方法】デザインは、記述的研究である。調査手順は、令和6年2月26日から令和6年6月26日までの4ヶ月間、介護老人保健施設相生に入所中の、介護サービス利用者4人およびその家族に対して、研究が実施された際、研究者がフィールドノートに記載した内容を、この研究におけるACP実施の阻害要因と促進要因に分類して記述した。国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会で承認された(No.1747)。【結果】阻害要因としては、以下の4つがあげられた。1.誰が目標達成スケールを作成するか決まらなかった。2.目標達成スケールを作成しても測定可能性が低かった。3.目標達成スケールの項目は、必ずしも、利用者や家族にとって重要なものばかりではなかった。4.日常業務の負担が大きくなる時期には、研究への登録組み入れが進まなくなった。促進要因としては、以下の4つがあげられた。1.作業療法士が、目標達成スケール作成のために、利用者・家族・専門職の意見を取りまとめるリーダーシップを発揮した。2.目的達成スケールの測定可能性を評価する役割、目標達成スケールの達成可能性を見積もる役割など、多職種の役割分担が明確化した。3.初期段階において、目標達成スケールの各項目は、身体機能、日常生活動作、食支援、疾患の再発予防に加え、人生会議の進捗状況など、一般的なものが多かったが、しだいに、利用者と家族の関係性の強化などの目標設定もなされるようになり多様性が認められるようになった。4.リーダーシップを発揮する作業療法士の日常業務の負担が様々な事情で増加した際には、一時的に、多職種ACP研究への登録や組み入れが止まったが、業務の優先順位を検討することができるようになった。【結論】多職種で行うACPは実現可能と思われる。多職種でACPを試みることで、阻害要因を乗り越え促進要因に変えることができる。また、無理のないサンプリング方法を選択するなど、研究の実現可能性を高める必要があると思われた。この研究の限界は、たった4例の経験に対して、様々な意見を記述したのみの調査に過ぎないことである。【謝辞】本発表にあたり、多大なるご支援をいただいた、中戸洋行さん、荒木 慎太郎さん、杉村 哲悠さん、山本静香さん、手嶋恵子さん、杉浦修崇さん、湯浅修治さんに、心よりお礼を申し上げる。【問い合わせ先】nishikawa-m@aikouen.jp (西川満則:愛光園)