講演情報
[15-O-Z001-05]支援相談員の役割に関する一考察入所に関わる職員への聞き取り・アンケート調査から
*本山 潤一郎1 (1. 北海道 介護老人保健施設セージュ新ことに)
入所に関わる支援相談員の役割を明確にする目的で、職員へ聞き取り調査とアンケート調査を実施した。聞き取り調査からは5つのラベルが抽出された。アンケート調査からは施設における役割の多くについて、支援相談員は重要と思うほど実行していないと言えることが明らかとなった。これらの結果の分析を通し、当施設で支援相談員は、その役割遂行促進のためにフロアに入ったり会議で話し合うことが期待さていると考えられた。
【目的】
令和6年度の介護報酬改定により、在宅復帰・在宅療養支援等評価指標について、支援相談員(以下、相談員)の社会福祉士配置を評価する仕組みとなった。このことは老人保健施設の運営において、相談員の専門性が重要視されているものと捉えることができる。当施設では入所定員100名、通所定員90名に対し、相談員を5名(常勤換算入所:3.9名、通所:0.5名)配置し、研修参加などを通して自己研鑽を重ねながら日々の業務に当たっている。一方、相談員は『「何でも屋」とやゆされることも少なくない。さらに近年は、多様な取り組みのなかでその職務はより一層、多様化・複雑化しているものと考えられ』1)、果たすべき役割を明確にする必要性は一層増している。そこで今回、当施設の入所に関わる相談員の役割を明確にする目的で、入所に関わる(1)管理監督職への聞き取り調査、(2)職員へのアンケート調査を実施した。
【方法】
1.聞き取り調査:管理監督職5名を対象に(1)相談員について現場の職員から寄せられる声、(2)日ごろ相談員との関わりを通して感じていること、(3)相談員に期待したいこと、について聞き取りを行った。
2.アンケート調査:看護・介護・リハビリ職員並びに相談員、計63名を対象に、(1)基本属性、(2)聞き取り調査より得られた施設における役割14項目の重要度、(3)同14項目の相談員の実行度、(4)同14項目の自身の実行度、(5)各項目を誰が行うか、について調査した。
【分析・結果】
1.聞き取り調査:発言内容を質的統合法2)により分析、得られた79のラベルのグループ編成を繰り返し、最終的に5つのラベルに集約された。これら5つのラベルのシンボルマークは、「ご利用者への対応:繰り返し見られる帰宅願望や暴力行為への対応の難しさ」、「ご家族への対応:攻撃的なご家族への対応の難しさ」、「一緒に検討:ご利用者のケアやリハビリ、ご家族への対応、方向性を一緒に検討」、「計画的な退所調整:方向性や退所先、退所時期の明確化による確実な退所」、「強化型の維持:退所するタイミングのコントロール」であった。
2.アンケート調査:63名中、56名より回答(回収率:88.9%)を得、HAD3)を用いて分析した。
(1)施設における役割14項目の対応した項目間でのウィルコクソンの符号化順位検定
・重要度と相談員の実行度間:項目14.を除く13項目において5%水準で有意差が見られ、平均順位は全て相談員の実行度より重要度の方が高かった。
・重要度と自身の実行度間:全14項目において5%水準で有意差が見られ、平均順位は全て自身の実行度より重要度の方が高かった。
・相談員の実行度と自身の実行度間:14項目中8項目において有意差(項目2.6.11.~14.:1%水準、項目1.9.:5%水準)が見られた。項目1.「ご利用者の帰宅願望への対応」、項目2.「ご利用者の暴力行為への対応」の平均順位は相談員の実行度より自身の実行度の方が高く、項目6.「ご家族への相談」、項目9.「ご家族について話す」、項目11.「方向性や退所先、退所時期を決める」、項目12.「ご利用者の状態が悪化する前に退所調整する」、項目13.「ご利用者がターミナル期を迎える前に退所調整する」、項目14.「強化型維持のために退所するタイミングをコントロールする」の平均順位は、自身の実行度より相談員の実行度の方が高かった。
(2)度数分布
14項目中、主に行うのは誰かについて回答を得た項目1.~3.5.10.11.14.の度数分布は、項目1.では相談員と介護でほぼ半々の度数、項目2.では介護、項目3.「ご利用者への病状の説明」では看護が半数以上の度数、項目5.「ご家族への報告や連絡」、10.「退所後の方向性について話す」、11.14.では相談員が多くの度数を示した。
【考察】
・当施設では繰り返し見られる帰宅願望や暴力行為への対応、攻撃的なご家族への対応に困難を抱えている。これらに対処するため、(1)ケアやリハビリ、(2)ご家族への対応、(3)方向性を相談員と一緒に検討したいとする。特に帰宅願望への対応は、相談員と介護職員で協力した対応が期待されている。一方、ご家族へ相談したりご家族の状況を共有することは相談員固有の役割であり、特にご家族への報告や連絡の遂行が期待されている。
・(1)方向性や退所先、退所時期を決めることや(2)利用者の状態が悪化する前に退所調整することも相談員固有の役割であり、計画的な退所調整において重要であるが、その遂行は不十分であると言える。これら相談員の役割遂行を促進するために、相談員にはフロアに入ったり会議で話し合うことが期待されていると考えられた。
・当施設の職員は相談員の役割遂行が不十分とする一方で、それぞれの役割を誰が担うかという認識は多様である。このことは、(1)相談員に対する役割期待と役割遂行の間に齟齬が生じている、(2)職員間で相談員の役割期待に相違があることを示している。役割期待と役割遂行に係る齟齬や相違の蓄積は、意欲低下やバーンアウトにつながる危険性を秘めており、相談員の役割に限らず、各職種の役割を一定程度明確にする必要性を示唆している。
【参考引用文献】
1)和気純子(2006).介護老人保健施設における施設ソーシャルワークの構造と規定要因-介護老人福祉施設と介護老人保健施設の相談員業務の比較分析を通して-.厚生の指標,53,21-22.
2)山浦晴男(2012).質的統合法入門,考え方と手順 医学書院
3)清水裕士 (2016).フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案 メディア・情報・コミュニケーション研究,1,59-73.
令和6年度の介護報酬改定により、在宅復帰・在宅療養支援等評価指標について、支援相談員(以下、相談員)の社会福祉士配置を評価する仕組みとなった。このことは老人保健施設の運営において、相談員の専門性が重要視されているものと捉えることができる。当施設では入所定員100名、通所定員90名に対し、相談員を5名(常勤換算入所:3.9名、通所:0.5名)配置し、研修参加などを通して自己研鑽を重ねながら日々の業務に当たっている。一方、相談員は『「何でも屋」とやゆされることも少なくない。さらに近年は、多様な取り組みのなかでその職務はより一層、多様化・複雑化しているものと考えられ』1)、果たすべき役割を明確にする必要性は一層増している。そこで今回、当施設の入所に関わる相談員の役割を明確にする目的で、入所に関わる(1)管理監督職への聞き取り調査、(2)職員へのアンケート調査を実施した。
【方法】
1.聞き取り調査:管理監督職5名を対象に(1)相談員について現場の職員から寄せられる声、(2)日ごろ相談員との関わりを通して感じていること、(3)相談員に期待したいこと、について聞き取りを行った。
2.アンケート調査:看護・介護・リハビリ職員並びに相談員、計63名を対象に、(1)基本属性、(2)聞き取り調査より得られた施設における役割14項目の重要度、(3)同14項目の相談員の実行度、(4)同14項目の自身の実行度、(5)各項目を誰が行うか、について調査した。
【分析・結果】
1.聞き取り調査:発言内容を質的統合法2)により分析、得られた79のラベルのグループ編成を繰り返し、最終的に5つのラベルに集約された。これら5つのラベルのシンボルマークは、「ご利用者への対応:繰り返し見られる帰宅願望や暴力行為への対応の難しさ」、「ご家族への対応:攻撃的なご家族への対応の難しさ」、「一緒に検討:ご利用者のケアやリハビリ、ご家族への対応、方向性を一緒に検討」、「計画的な退所調整:方向性や退所先、退所時期の明確化による確実な退所」、「強化型の維持:退所するタイミングのコントロール」であった。
2.アンケート調査:63名中、56名より回答(回収率:88.9%)を得、HAD3)を用いて分析した。
(1)施設における役割14項目の対応した項目間でのウィルコクソンの符号化順位検定
・重要度と相談員の実行度間:項目14.を除く13項目において5%水準で有意差が見られ、平均順位は全て相談員の実行度より重要度の方が高かった。
・重要度と自身の実行度間:全14項目において5%水準で有意差が見られ、平均順位は全て自身の実行度より重要度の方が高かった。
・相談員の実行度と自身の実行度間:14項目中8項目において有意差(項目2.6.11.~14.:1%水準、項目1.9.:5%水準)が見られた。項目1.「ご利用者の帰宅願望への対応」、項目2.「ご利用者の暴力行為への対応」の平均順位は相談員の実行度より自身の実行度の方が高く、項目6.「ご家族への相談」、項目9.「ご家族について話す」、項目11.「方向性や退所先、退所時期を決める」、項目12.「ご利用者の状態が悪化する前に退所調整する」、項目13.「ご利用者がターミナル期を迎える前に退所調整する」、項目14.「強化型維持のために退所するタイミングをコントロールする」の平均順位は、自身の実行度より相談員の実行度の方が高かった。
(2)度数分布
14項目中、主に行うのは誰かについて回答を得た項目1.~3.5.10.11.14.の度数分布は、項目1.では相談員と介護でほぼ半々の度数、項目2.では介護、項目3.「ご利用者への病状の説明」では看護が半数以上の度数、項目5.「ご家族への報告や連絡」、10.「退所後の方向性について話す」、11.14.では相談員が多くの度数を示した。
【考察】
・当施設では繰り返し見られる帰宅願望や暴力行為への対応、攻撃的なご家族への対応に困難を抱えている。これらに対処するため、(1)ケアやリハビリ、(2)ご家族への対応、(3)方向性を相談員と一緒に検討したいとする。特に帰宅願望への対応は、相談員と介護職員で協力した対応が期待されている。一方、ご家族へ相談したりご家族の状況を共有することは相談員固有の役割であり、特にご家族への報告や連絡の遂行が期待されている。
・(1)方向性や退所先、退所時期を決めることや(2)利用者の状態が悪化する前に退所調整することも相談員固有の役割であり、計画的な退所調整において重要であるが、その遂行は不十分であると言える。これら相談員の役割遂行を促進するために、相談員にはフロアに入ったり会議で話し合うことが期待されていると考えられた。
・当施設の職員は相談員の役割遂行が不十分とする一方で、それぞれの役割を誰が担うかという認識は多様である。このことは、(1)相談員に対する役割期待と役割遂行の間に齟齬が生じている、(2)職員間で相談員の役割期待に相違があることを示している。役割期待と役割遂行に係る齟齬や相違の蓄積は、意欲低下やバーンアウトにつながる危険性を秘めており、相談員の役割に限らず、各職種の役割を一定程度明確にする必要性を示唆している。
【参考引用文献】
1)和気純子(2006).介護老人保健施設における施設ソーシャルワークの構造と規定要因-介護老人福祉施設と介護老人保健施設の相談員業務の比較分析を通して-.厚生の指標,53,21-22.
2)山浦晴男(2012).質的統合法入門,考え方と手順 医学書院
3)清水裕士 (2016).フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案 メディア・情報・コミュニケーション研究,1,59-73.