講演情報

[15-O-Z002-02]業務継続計画の策定過程における利点と課題

*森山 由紀1 (1. 神奈川県 レストア川崎)
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令和6年、3年間の経過措置期間を経て介護事業所における感染症および自然災害の業務継続計画(以下、BCP)策定が義務化された。令和5年度中の感染症BCP完成を目標に活動した作成委員会メンバーに対し、BCP策定に携わる中で感じたことについてアンケート調査を行った。この調査結果を基に、BCP策定過程における利点と課題について報告する。
【はじめに】 令和3年度の介護報酬改定にて「感染症や災害への対応力強化」の方針が示され、「感染症対策の強化」と「業務継続に向けた取組の強化」が求められた。3年間の経過措置期間を経て、令和6年より感染症および自然災害等に備える業務継続計画Business Continuity Plan(以下、BCP)の策定および研修・訓練が義務化された。厚生労働省が公開しているBCPのひな形は「新型コロナウイルス感染症編」「自然災害編」に分かれており、このひな形に準じて策定している施設もある。今回、令和5年度に感染症BCPを策定した施設で行ったアンケート調査結果を基に、BCP策定過程における利点と課題について考察する。【対象・背景】 対象は、一般棟100床、認知棟50床の入所150床、定員60名の通所リハビリテーションを有する老人保健施設の感染症BCP作成委員会のメンバー(以下、委員)である。委員会は、介護福祉士、理学療法士、相談員、管理栄養士などを含む管理者10名で構成、月1回(2時間程度)開催した。 感染症BCPの策定にあたっては厚生労働省のガイドラインを参考にしつつ、新型コロナウイルス感染症クラスターの経験を踏まえて、感染者数および職員の就業可能人数(人員想定)から施設内フェーズを設定し、業務内容を検討した。また、平時の業務・サービス内容を書き出し、各部署の業務や他部署と協働している業務を整理しながら、平時に使用する備品と緊急時の備蓄品について検討を進めた。検討する内容によりシミュレーションを取り入れながら、完全復旧までのBCPを約1年かけて策定した。【調査方法】 4月より継続して携わった委員7名を対象に、質問紙を用いて行った。【結果】 BCP策定に携わる中で得られたこと(良かったこと等)では、業務内容に関しては「平時の業務を明文化することの重要性がわかった」「業務が多いことに改めて気づいた」「必要な業務、優先すべき業務を考えることができた」「がむしゃらにやっていることを整理することも重要だとわかった」「自部署の役割がより明確になった」等、他部署との関係については、「他部署と業務についてすり合わせながら話し合い、良い交流ができた」「信頼関係が築けた」「他部署がどのように考え、どのように動くことができるのかを考えることができた」等、その他では「シミュレーションを通して、自身がどのように動けばよいのかイメージを持つことができた」等があった。 課題(大変だったこと等)では、「日常業務に追加しての活動となった」「次の会議までに検討すべき課題を時間外で行わざるを得なかった」「他部署や法人本部への確認等が進まず停滞した」等があった。その他では「想定する状況の捉え方は人によってさまざまで、考える状況や場面のすり合わせから必要だった」等があった。【考察】 BCP策定過程における利点として、以下が考えられる。 1.平時の業務を改めて書き出し、整理することによって所属部署の役割や日々行っている業務を明確に示すことができる。同時に平時の業務スケジュールやケア手順などを見直す機会ともなり、業務改善につながる可能性がある。 2.他危機を乗り越えるという共通の目的に沿った話し合いを通じて部署の業務を知ること、信頼関係を築くことができる。これにより平時の部署間の連携がよりスムーズになり、危機的状況における円滑な意思の疎通や協力を得やすい環境の構築にもつながる。 3.シミュレーションは、設定された状況における自身の役割や行動を具体的にイメージさせ、「自分事」として考えることを促し、より実効性の高いBCPの作成につながる。 一方、課題としては以下のことが考えられる。 1.他部署との話し合いは信頼関係を築くことに寄与したが、業務の合間や時間外での実施となり委員の負担となっていた。厚生労働省介護給付分科会資料(第28回令和6年2月28日資料1-1)においても、「策定のための時間を確保すること」がBCP策定における課題の一つとして示されている。BCP策定にあたっては多岐にわたる内容を検討するため、委員会の時間だけで行うことは難しい。今後のBCPの見直し・修正においても時間の確保や職員の負担軽減について検討する必要がある。 2.BCP策定過程での検討やシミュレーションを通して、複数の委員が設定された状況(事例)の捉え方が人によって異なること、各人が捉えている状況を確認しなければ適切な解決策を検討することは難しいということを感じていた。感染症の発生など危機的状況は混乱を招くが、そのような中にあっても迅速に情報や状況を共有し、施設全体で対応していく体制を構築しなければならない。すべての職員が自身の役割を理解し、他部署の職員と協働して危機を乗り越えるための行動を考えられるような研修や訓練を考えていく必要がある。【結論】 さまざまな検討やシミュレーションを通して得られる気づきや信頼関係は、危機的状況だけでなく平時の業務改善や協力体制の構築につながり、感染症に限らず危機的状況に対する施設の対応力を向上させる。一方で、BCP策定にあたっては委員の時間的・業務的な負荷がかかった。今後も委員の時間の確保や業務調整等について考慮しつつ、すべての職員への研修や訓練を実施し、継続的なBCPの修正・改善を行っていく必要がある。