講演情報

[15-O-A010-02]座位保持困難な脳卒中患者の症例報告スタンダード車椅子への移行に向けた取り組み

*真栄里 智仁1、金城 留利1、知念 正子1、山里 將仁1 (1. 沖縄県 介護老人保健施設おおざと信和苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
今回、長期臥床による廃用症候群から座位保持困難を呈した症例に対して、リクライニング車椅子からスタンダード車椅子への変更に向けた取り組みを行ったので報告する。リハビリや日常生活での関わり方、車椅子のシーティングなど環境調整を行った事で、スタンダード車椅子への移行や自走獲得に繋がった。環境アプローチを行った事で、座位機能の向上に繋がったと考える。
【倫理的配慮、説明と同意】 症例および家族に症例発表の意義を説明し書面にて同意を得た【症例紹介】 年齢60歳代 男性 要介護4 現病歴 令和4年11月22日から蜂窩織炎で急性期病院に入院し、全身状態改善に伴い易怒性や興奮など認められ、12月8日一般精神病院に医療保護入院となり臥床傾向となる。家族からリハビリ希望あり、令和5年3月29日に当苑入所となった。急性期入院前は車椅子自走自立し、移乗動作は修正自立既往歴 脳出血(平成28年、ブローカ性失語)、器質性精神障害、脳血管性認知症、胆嚢炎、低ナトリウム血症【リハビリ評価】日常生活自立度 C2 認知症度IIIa 身長 170cm、体重 65.6kg、BMI 22.7kg/m2Brunnstrome stage (右上肢II、手指II、下肢II)  感覚障害 精査困難筋緊張亢進 ( Ashwasスケール ) ハムストリングス3、下腿三頭筋4関節可動域 ( 股関節屈曲70/80,伸展-30/-20、両膝関節伸展-50/-50、足部背屈-60/-5 )認知機能検査 MMSE 0点 ( 精査困難 )  Hoffer座位能力分類 3( 座位不能 )ADL評価 Barthel Index ( 以下BI ) 5点 ( 食事一部介助、移乗動作は平行移動 ) リクライニング車椅子を使用、車椅子座位時に体幹伸展筋の緊張亢進し、後方への倒れ込みにより骨盤後傾が助長され座位保持困難となるため、リクライニング角度を調整・頻回な姿勢修正が必要であった。【問題点の抽出/目標設定】体幹の筋緊張コントロール困難、座位保持困難STG 筋緊張の軽減、端坐位保持の介助量軽減、LTG スタンダード車椅子への移行、移乗動作の介助量軽減FG 有料施設への退所【経過まとめ】介入初期では筋緊張の軽減、端座位保持の介助量軽減に向けてリハビリでは両股関節・体幹ストレッチ、座位での体幹前傾運動を実施した。身体を動かされる事に対して抵抗感があり、運動方法の説明や本人の反応を確認しながら運動目的や強度を調整した。また、日常生活場面で丁寧な声掛けや音楽・動画鑑賞など余暇時間を楽しむ事で表情が徐々に穏やかになり、身体を動かされる事に対して受け入れ良好となり、座位訓練の取り組み頻度の増加に至った。これにより起居動作時の後方への倒れ込みが減少し、前方介助で端座位保持が可能となった。さらにリクライニング車椅子・座面クッションの選定を行う事で、車椅子上での滑り落ち頻度の減少が図れた。座位保持の介助量軽減が図れた事から、座位耐久性の向上に向けて離床時にリクライニング90度での座位保持を行い、多職種で姿勢の経時的変化を評価しながら情報共有を行った。1週間経過時点で連続90分以上の座位保持が可能となり、跳ね上げ式スタンダード車椅子へ変更を行ったが、座位時に右下肢の股関節外転・外旋、足部内反尖足から骨盤後傾位が助長されてしまった。そこで右下肢や骨盤位置の調整としてアームレストと下肢の間にタオルを接地し、右股関節の位置修正を図り、さらに足関節内反尖足の増悪予防に足台作成を行った。しかし、右下肢を足台に降ろす際に嫌がる様子があり、行動の変化に対して抵抗があると考え、生活リハとしてフットレストを取り外し、足台に右下肢を降ろすようにスタッフ間で統一したケアを行った。1週間程度で受け入れ良好となり、それにより徐々に右下肢の過度な外転・外旋・足部内反尖足の修正が図れた事で骨盤後傾の予防を図れ、2週間目以降から足台の使用を終了した。また、座位時の骨盤後傾の予防に向けて、クッションの選定を行い、左上下肢での車椅子自走の促しを開始した。しかし、スタンダード車椅子への変更3ヶ月、夕食後に車椅子から転落している場面を看護師が発見し、翌日にスタッフ間での原因追及と対策の検討を行った。その中で介護士から移乗や自走後に骨盤後傾位になる事が多く、女性スタッフだと姿勢修正が困難である事や、看護師から食事席が死角になっており、発見が遅れてしまう事が挙げられた。また、車椅子自走時に左膝屈曲位の努力的な方法になっており、下肢後面筋の過緊張から骨盤後傾が助長されていると考えた。そこで対応策として食事席を見守りやすい位置に変更し、車椅子への移乗・自走後に2人介助にてポジショニングを調整する方法を担当PTより提案し、介助者へデモンストレーションや車椅子後面への写真提示を行った。本人に対して車椅子自走時に左下肢の操作方法を繰り返し指導する事で、徐々に努力的な方法が修正された。現在はスタンダード車椅子で連続20m自走可能となり、移乗や自走後は介助で座位姿勢を修正する事で滑り落ちリスクの最小化が図れている。【最終評価R6年5月時点】日常生活自立度B2 体重 56.1kg  BMI 19.4 kg/m2Ashwasスケール ハムストリングス2+、下腿三頭筋4関節可動域(股関節屈曲80/90,伸展-20/-20、両膝関節伸展-55/-54、足部背屈-60/-10)Hoffer座位能力分類 3ADL評価 BI 10点 (食事修正自立、移乗動作重度介助)  スタンダード車椅子への移乗は1人介助にて可能(スライディングボード併用)。【考察】今回は長期臥床による廃用性の身体機能低下や脳出血後遺症による筋緊張コントロール低下から座位保持困難となった症例に対してスタンダード車椅子への移行に向けて介入を行った。長期臥床は体幹周囲筋の筋委縮や姿勢制御の反応に負の影響を与えるとの報告がある、本症例も長期臥床による姿勢制御反応の変化や脳出血後遺症による筋緊張コントロール不全から、座位保持困難となったと考える。今回、車椅子やクッション、足台の調整、介助方法の共有などの環境アプローチを行った事で、股関節周囲の可動域改善や右下肢・体幹の筋緊張軽減に繋がり、座位機能の向上に繋がったと考える。【まとめ】今回は多職種協働でのケアや環境面へのアプローチを行った事で、座位機能の改善が図れ、これにより移乗動作の介助量軽減、スタンダード車椅子への移行や自走獲得に繋がったと考える。