講演情報

[15-O-A010-06]集中的ケアと多職種連携が身体機能向上に繋がった症例早期介入と正確なアセスメント

*藤田 輝1 (1. 長野県 介護老人保健施設第2グレイスフル岡谷)
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グループホーム入所中にアルツハイマー型認知症と誤嚥性肺炎の疑いにて入院。入所中は数種類の向精神薬を内服されていたが、過鎮静の可能性から向精神薬をすべて中止。点滴・抗生剤治療で病状の改善は見られたが、身体機能面での大きな改善は見られずADL動作は概ね全介助。当施設入所後、多職種にてケア内容を検討し実行した事により身体機能・ADL動作の大きな改善が見られた為報告する。
【はじめに】
本症例は令和6年3月にGH入所中アルツハイマー型認知症と誤嚥性肺炎の疑いにて入院。GH入所中は数種類の向精神薬を内服されていたが、過鎮静だったのではとの事で、入院中は向精神薬をすべて中止。点滴・抗生剤治療で病状の改善は見られたが、身体機能面での大きな改善は見られずADL動作は概ね全介助。そのためGHへ戻ることも難しい状態であることから当施設へ入所される。当施設入所後、多職種にてケア内容を検討し実行した事により身体機能・ADL動作の大きな改善が見られた為報告する。
【症例紹介】
79歳女性。自宅で生活されていたが、認知機能の低下からGHへ入所。入所中発熱・意識障害見られ肺炎の疑いで入院。点滴・抗生剤投与で意識レベルの改善が見られリハビリを実施。しかしADLの大きな改善は見られず、ベッド上での生活が主であった。起居動作~移乗動作までは全介助、離床も車いすからのずり落ちリスクや頚部の過伸展見られていた為、リクライニング車いすにて20分程度の評価結果。排泄はベッド上、食事も全介助であった。また両目の視力の低下、物や人がぼやけて見える程度であり、視力低下もADL動作の阻害因子となっていた。本人様の意向は聞き取れなかったが、ご家族からは「ご自分で食事が摂取できれば。」との希望が聞かれていた。
【入所時ADL評価】
起居動作:ベッド上の体動は見られるもご自身での起き上がりは不可。
端座位:後方への突っ張りが強く、介助なしでの座位保持は困難。
立ち上がり・移乗動作:体幹の前傾困難で下肢の伸展活動も見られず二人介助で実施。
車いす座位:リクライニング車いすでバックレスト、ヘッドレストに体を強く押し付け、徐々に仙骨座りになり頚部は過伸展していく。
【ケアの内容】
まずはご家族の希望でもある食事動作の自立を目標とし、座位の安定を図るため多職種の評価に基づき以下のケアを実施した。
1.車いすの選定・検討
ずり落ちや頚部の過伸展が見られる事から、リクライニング車いすを使用していたが、バックレストやヘッドレストの広い支持面があると、そこに体を押し付けながら姿勢を保持しようとしている様子が伺える。体を押し付けることで背部の緊張は強まり、臀部はずれ落ち、仙骨座りになっていくことで頚部の過伸展も助長してしまっていると考えられる。そのため、あえて背部の支持面が少ない普通型の車いすに座っていただくことで背部の押し付けの軽減を図り、姿勢の改善を図っていくことをすすめる。
2.座位練習・立位練習(主にリハビリにて実施)
座位では後方に姿勢が崩れるが、背部を支えてしまうとそこに体を押し付けてしまうため、背部の緊張を抑制するために後方からの介助はせず、前方に把持物や支持面を作り、前方への重心移動、足底へ荷重を促していった。前へ重心移動が行え、体幹の前屈が行えるようになったところで立ち上がり練習を実施した。
3.離床時間の延長
病院では臥床時間が長かった事で、常に仰向けでいる事が多かった為、背部からの刺激を多く受けていたと思われる。寝ている時間が長かったことから平衡感覚の低下や背部の筋緊張の亢進につながっていたと思われる為、本人の体調や体力面を考慮しながら、車いす離床時間を徐々に増やしていくことで背部の過緊張軽減に努めた。4.食事の自力摂取の促し
視力や認知機能の低下があるためスプーンを渡すことや注意の逸れやすさによる声かけ等の介助は必要だが、できる限りの自力摂取を促した。お膳に視線を向けていただくことで頚部の過伸展が抑制できるようにアプローチした。
【介入後ADLの変化・考察】
上記のケアを実施したことにより、身体機能・ADLの大きな改善が見られた。現在起居動作は自立、端座位も後方に崩れることなくご自身で保持する事ができている。また後方への姿勢の崩れが軽減したことから立ち上がり・移乗も見守り~軽介助で実施できるようになったため、日中はトイレ誘導が可能となった。車いす座位は、普通型車いすにて姿勢が崩れることなく1時間の安定した離床が可能となり、頚部の過伸展も改善された。またご家族より「母はさみしがり屋である。」と話があり、長時間の離床が可能となったことで日中はフロアに出て多くの方と過ごすことができている。食事は声かけ、意向確認後の器を移動する、スプーンの持ちなおす介助は現在も要するが、8割程度はご自身で摂取できるようになった。
【まとめ】
リハビリと並行して普段の生活の中で行えるケアや補助具の検討を行い多職種で実施したことで、大きな身体機能、ADLの改善に繋がったと考えられる。何となく1日を過ごして頂くのではなく、利用者様にとって意味のあるケアを考えること、1日の過ごし方を考えることがとても重要だということを今症例により再確認することができた。全ての利用者様それぞれに合った最善なケア、普段の過ごし方を今後も考えていきたい。