講演情報
[15-O-A010-07]生協10の基本ケアの取り組み成果
*石森 拓朗1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設みぬま)
利用者に対して「生協10の基本ケア」(以降10のケアと記載)を活用し、ADL・QOLの向上が見られたので報告する。対象利用者に10のケアの取り組みを実施し、実施前後の変化を観察した。その結果、以前は居室にて臥床して過ごされることが多かったが、徐々に活動量が増加してきた様子が他職員からも聞かれるようになった。10のケアの取り組みを行う事で利用者の生きがいや生活の質が向上できたのではないかと考える。
【はじめに】 医療生協さいたまでは法人全体で「生協10の基本ケア」(以降10のケアと記載)というケアを行っている。1章から10章まであり、その目的として1,自然な身体の動きを活用し、その人の持つ力を徹底的に活用し、小さな出来ることを大切にする。2,最期までオムツではなくトイレで排泄することを目指し、自分らしい「ふつうの生活」を護る。3,1~5章はくらしの土台を整える、6章以降は、いつまでも住み慣れた地域で社会とのつながりを持ち、自分らしく生きる取り組みである。9~10章は、たとえ要介護状態となっても、「自分のことは自分で決める」こと、「生き方・死に方は自分で決める」ことの意思決定を支援する。となっている。今回は自施設での10のケアの取り組みを通して対象利用者の実施前後の変化を報告する。【目的】 対象利用者に対して10のケアを取り組み、ADLの維持・向上、QOLの向上を高めること。また、実施結果や途中経過を他職員に共有しケアの質向上を図る。【対象利用者】対象利用者A:男性。要介護度3。依存傾向があり、自発性、活動性がない。リハビリ意欲が低く、リハビリ職によるリハビリや集団体操への参加をほとんど拒否される。食事、行事、入浴は拒否なく過ごされる。終日オムツ対応(バルーン留置)、排便は下剤使用。入浴は機械浴。対象利用者B:男性。要介護度2。明るい性格。基本ケアに対して拒否は無い。何もないと居室に戻り臥床して過ごされるがその際に「呼吸が苦しい」とコール頻回になる。軽度の認知症あり。【方法】 対象利用者を選定し、10のケアを実施する。対象利用者Aに対しては「椅子の座り替え」「トイレに座って排泄」「フロアを散歩する」等実施した。対象利用者Bに対しては余暇時間の充実を図り、趣味の将棋を行える環境を整えた。それぞれの実施内容を他職員にも周知、実施してもらいケアを継続した。経過を観察し実施内容の変更や中止等をカンファレンスにて検討した。【結果】 対象利用者A :以前は立位保持が不安定な為、トイレは行かずにオムツの対応だった。リハビリや集団体操への参加促しを行うも拒否をされて、臥床を希望される毎日だった。そこで、毎食に車いすから椅子に座り替えを実施、余暇時間にフロアを散歩促す等を実施した結果、ADLの向上が見られオムツ対応からリハビリパンツ対応に変更でき、トイレにて排便が出来るようになった。 対象利用者B:以前は食事以外居室にて過ごされる事が多く、その際に「呼吸が苦しい」とコールが頻回であった。声掛けや、服薬調整等を試みるもどれも成果を得ることが出来なかった。「第8章夢中になれることをする」という事でBさんにアセスメントを実施。将棋・囲碁が趣味だったことが分かり、すぐに他利用者を巻き込んでの環境を提供した。結果、余暇時間にフロアに出てこられることが増加し、居室で過ごされることが少なくなった。それにより「呼吸が苦しい」といったコール頻回もなくなり穏やかに過ごすことが出来た。【考察】 Aに関してはADL向上を目的に日々の生活がリハビリになるようにケアを行う事で本人の中でもオムツからリハビリパンツと言った目に見える変化を感じたことが本人にとってやる気に繋がり、生活の質向上にも効果があったのではないかと考える。Bに関しては居室で過ごされることが多く、日常生活の充実度は低い様に感じられ、QOL向上が必要だと感じた。職員や、他利用者とも良好な関係であるにもかかわらず、ふとした時に呼吸苦を訴えるという事は本人の中で「つまらない、暇、退屈」と感じているのかも知れない。そのような利用者は大変多い様に感じている。そこで余暇時間の充実を図ることは本人にとってかけがえのない時間に変化するのだろうと考えた。結果を見ても将棋の誘いをすると笑顔でフロアに出てこられる氏に私自身やって良かったと感じられた。今回は施設内の話ではあるが、実際には居宅介護支援といった在宅支援に向けても10のケアは力を発揮するものであり、今後も法人全体で取り組みを強化していく必要は大いにあると考える。【感想】「生協10の基本ケア」を通して、改めて当たり前の事を当たり前に行う事の難しさ、大変さと言うのを実感した。「第1章換気をする」から始まり「第10章ターミナルケア」まで全ての内容が全ての利用者に当てはまるものではないが、一部を切り取って提供する事でそこから派生していく過程を見ることが出来て、「自分らしく生きる」ことや、「利用者のADL向上、QOL向上に繋げるベースとなる取り組みとして10のケアを用いた結果が利用者の生きがいに繋がっていくのだと勉強になった。