講演情報

[15-O-A011-03]その人らしい生活の支援~できる能力を生活リハビリに~

*菅原 健太1、野田 なつみ1、馬場野 莉奈1、山崎 昌子1、中川 朋子1、高橋 肇2 (1. 北海道 介護老人保健施設ゆとりろ、2. 社会医療法人 高橋病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
当施設では令和6年4月より、ご利用者が行う生活リハビリテーションを「ADLボード」として可視化した。ご利用者にとって“おそらく必要”で“きっと効果がある”ものという認識を脱せていなかった生活リハビリテーションに対して、統一性のある継続的取り組みとして確立する事を試みた。生活力の維持・向上にむけて、ご利用者の内発的動機付けを促す目的の本取り組みについて報告する。
【はじめに】
 生活リハビリテーション(以下、生活リハ)は、特別な定義はないものの、主に更衣や排せつ、入浴等のご利用者が日常生活を送る上で行う活動(日常生活活動;ADL)全般をリハビリテーションと捉える概念である。ご利用者主体の取り組みを指し、老健施設においては重要な位置づけと考える。
 当施設では、従来から生活リハの実施は行ってきたが、実施の統一性・継続性に欠いていた。
 令和6年4月より、生活リハを利用者自身やご家族、職員がいつでも確認できるように個別の「ADLボード」(以下、ボード)として可視化した。本取り組みについて紹介する。
【目的】
 生活リハ内容を見える化し、PDCAを回す過程でご利用者の内発的動機付けを促すほか、ご家族や職員が実施中の生活リハに関する最新の同一情報を得られることを目的とする。
【経緯】
 当施設が所在する函館市は北海道の南に位置し、市全体の高齢化率は全国平均を7~8%、更に北海道平均を3~4%上回っている。とりわけ当施設がある「西部地区」では50%を超え、年少人口の7倍の高齢者が住む町を抱えている。
 また、「西部地区」は坂の町でもあり、降雪時期になると外出困難となることから冬季入所という形式を選択している利用者も少なくない。冬季入所期間はおおよそ6ヶ月であり、短期集中リハビリテーション実施期間を超過するため入所期間中にリハビリテーションの実施回数が減る事は避けられないが、再び自宅での生活を送るためにはADLはもとより生活を営む能力、いわゆる生活力の維持が欠かせない背景がある。
 総じて、地域高齢者の生活力を高め、維持するための支援が当施設の重要な役割のひとつである。
【方法】
 当施設3階認知症フロアの全ご利用者(全50床)に対して、ご利用者ごとに設定された生活リハ情報を記載したボードを作成した。A4サイズの用紙にラミネート加工を施したもので、皮膚ペンを用いることで何度も書き換えが可能である。
 生活リハビリの内容はサービス担当者会議で最終形を取り決め、担当療法士がボードへ記載している。ADL情報と生活リハ内容のみを記す事で情報過多にならないようシンプルな作りであるが、リスク管理情報は出来るだけ具体的に記載する事とした。
 内容が更新された事を現場スタッフが確実に把握できるよう、スタッフステーション内に設置した連絡板を活用して共有を図っているほか、朝の申し送りでも口頭で伝えている。また、掲示場所をご利用者のベッド付近とすることで、職員だけではなく、ご利用者本人や家族の目に触れることを狙いとした。
 生活リハの内容はケアプランとも整合を図り、概ね3か月ごとに実施状況や意欲面、成果、達成度などを評価すると共に、その時々のご利用者の心身機能に見合った内容へと更新する。この一連の流れを電子カルテのケアプラン様式、見直し判定欄へ記録しており、PDCA実践へと繋げる。
【結果】
 本取り組みを導入したフロアでは、ご利用者全員にボードを設置し、統一性・継続性のあるアプローチを継続できている。
 生活リハの実施成果もあり、認知症を呈しながらも在宅復帰がゴール目前であったご利用者もいたが、疾患の急変があり復帰は叶わなかった。また、本取り組みを導入したフロアは施設内の認知症対応フロアでもあり、日々、学習の積み重ねが困難なご利用者も少なくない中、能力の減衰や低下を予防する、または緩やかにする事に重きを置いて反復的な生活リハを行っている。
【考察】
 本取り組み開始前は、生活リハはご利用者にとって“おそらく必要”で“きっと効果がある”ものという認識であった。
 このことに対して生活リハに統一性と継続性を付随させる事を目的として取り組みの見える化を図った。統一性は、ボードの掲示をベッド付近という身近な場所とする事でいつでも確認ができ、職員のみならずご利用者本人、ご家族も視認できる事が利点である。継続性は、見直し時期をサービス担当者会議開催と一致させる事で習慣的なタスクへと繋がった。
 できる能力を尊重し、過剰介護を回避する事はご利用者の生活力を高め、認知症を有していても自宅ひいては地域で暮らし続けられる一助となる可能性がある。
 看護・介護、療法士等の多職種で行う「自立支援」の目的のひとつは、ご利用者の生活の質を上げることにあり、ご利用者の意欲を引き出せるかも重要なポイントである。多職種でそれぞれの専門的なコミュニケーション能力を活かしてご利用者一人ひとりのニーズを多面的視点で汲み取り、生活リハの充実を強みとしたフロアづくりを続けていく。
【おわりに】
 当施設では本取り組み開始と同時期に自立支援促進加算算定へ向けたマネジメントを開始した。自立支援促進のための要因分析・PDCAの構築という点では共通するところが多い。
 老健サービスの主柱であるケアプランに高い個別性を持たせる事は、より目標志向的な個別サービスの提供に繋がるものである。