講演情報

[15-O-A011-05]当施設の「夢プロジェクト」夢を持ち帰れる老人保健施設を目指して

*鈴木 寛子1、尾嵜 亮1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設 日高の里、2. 介護老人保健施設日高の里)
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地域包括ケアシステムの目的は地域で自分らしい暮らしをおくることとされている。当施設では在宅復帰支援の中で各々に夢があることを再認識し、地域で夢を求め続けることが自分らしい暮らしの一つの形ではないかと考えた。今回入所利用者を対象に夢を聴取。1例に対しうどん作りを実施した。その結果、職員の意識と行動に変化がみられ対象者の離床時間に延長がみられたため報告する。
はじめに
地域包括ケアシステムの目的は地域で自分らしい暮らしを最後までおくることとされている。しかし実際には本人や家族までもが目標を在宅復帰に設定していることが多い。本来であれば退所後の自分らしい暮らし方についても入所中に検討支援していく必要があるのではないかと考えた。 
当施設では積極的な在宅復帰支援を行う中で、利用者の夢(希望)を聴く場面が多いことから、単に自宅に帰るのではなく自宅(地域)で夢を叶え続ける、あるいは挑戦し続けることが「自分らしい暮らし」の一つの形ではないかと考えた。
今回「夢プロジェクト」を立ち上げ、利用者の夢を調査。一例を入所中に実施し、実施前後で身体機能面や精神面、ADLの変化、在宅での実施に繋がるかを評価考察したのでその取り組みを報告する。
対象
93歳 要介護3 日常生活自立度B1 認知症高齢者の日常生活自立度IIb Barthel Index(BI) 60点
既往歴:高血圧症・糖尿病・脳梗塞(麻痺無し)・変形性膝関節症・変形性腰椎症
生活状況:長期入所利用を中心に定期的な在宅復帰を行っている。
方法
今回はうどん作りを希望した対象者一名に対し、実施一か月前に理学療法士による認知機能・身体機能評価、離床時間などの生活リズム調査、独自アンケートによる日常充実度の調査を行った。
独自アンケートはa)転倒に対する不安がある、b)生活に充実感がない、c)楽しんでいたことが楽しめなくなった、d)楽にできていたことが億劫に感じる、e)自分が役に立つ人間だと思えない、f)わけもなく疲れたような気がする、上記a~fを設問とした。
回答として、1そう思う、2ややそう思う、3あまりそう思わない、4全くそう思わない、上記1~4とした。
変化を確認する為、うどん作りを行った一か月後に再評価し比較考察を実施した。離床時間については見守り支援介護ロボットaamsを使用し、うどん作り前の一か月間と以後の一か月間の平均離床時間を調査した。
実際のうどん作りに際しては、対象者の夢が「またうどんを作りたい」「うどん作りを教えたい」であったことも考慮し、同じ階の入居者約50名を5~6人グループに分け、他利用者に対し指示を出してもらいながら実施する方法をとった。
結果
初回評価時のMMSEは15点、5m歩行時8.58秒、(Timed Up and Go )TUG32.28秒(馬蹄型歩行器使用)、Vitality Index(VI)7点、アンケート結果はa)2、b)2、c)3、d)2、e)2、f)3、離床時間の平均は512分間(8.5時間)となった。
最終評価時のMMSEは14点、5m歩行時8.57秒、(Timed Up and Go )TUG32.51秒(馬蹄型歩行器使用)、Vitality Index(VI)7点、アンケート結果はa)2、b)2、c)3、d)2、e)2、f)3、となった。離床時間の562分間(9.4時間)となった。
考察
結果から離床時間のみ約50分間の延長という変化がみられたが、その他の数値に有意差はみられなかった。離床時間の延長については、Vitality Indexやアンケート結果に変化がみられなかったことからも夢の実施による直接的な変化ではないと考えられる。
今回の企画実施後に職員の「利用者の行いたいことの実施」への意識が高まり、以前から行っていた編み物を対象者と積極的に実施するようになっていたため上記の変化にはこの職員の変化が大きく影響していると考えられる。
Vitality Indexやアンケート結果に変化がみられなかった要因は、対象者のMMSEが15点であり短期記憶や長期記憶能力に低下がみられるため、一か月後の評価には反映されなかったものと考えられる。
今回の取り組みにおいて離床時間の延長に対し、認知機能や身体機能の改善はみられなかったが、今後長期間の変化を確認することで一部の機能は改善が図れる可能性があると思われる。 
終わりに
今回の取り組みでは「夢」という言葉をキーワードに、施設内生活や現状自宅で行うことが困難な内容のものを選択し実施した。結果として対象者に直接的な変化をもたらすことはできなかったが、職員の意識変化が見受けられ間接的ではあるが利用者の生活に変化をもたらすことができた。
現在退所には至っておらず、施設内での実施にとどまってしまったが、当日の写真や動画を使用し、家族に現状の共有は行うことができた。
今後は在宅復帰後の「夢の実現」に繋げていくため、実際に家族の参加や在宅でのサービス提供事業所への伝達など、広い範囲でのサポートを実施していく必要があると思われる。
実施方法や評価方法には再考の余地はまだまだあるが、利用者や家族、職員への波及的な効果が期待できると思われるため、今後も可能性の一つとして取り組んでいくこととしたい。