講演情報
[15-O-A011-06]介護拒否のある方へのケア寄り添う介護
*竹節 萌1 (1. 宮城県 介護老人保健施設せんだんの丘)
認知症専門棟に入所されたADLの低下・介護拒否のある利用者様について、職員一人一人の関わり方やリハビリテーションの強化によって、精神面の改善・ADLの向上が図れた。入所前の病院では、せん妄や介護拒否・食事拒否等不穏な言動が多く見られており、大声を出す事があったとの事だが、当施設に入所後は介護拒否もほとんど無く笑顔でお話しされる程に改善している。その一連の経過をここに報告する。
【はじめに】
右蝶形骨髄膜腫術後、脳出血を合併し開頭血腫除去術施行、高次脳機能障害・長期臥床による筋力低下によりADLが低下し、移乗・移動動作が全介助、オムツ対応となった方が在宅復帰目的で入所された。せん妄・介護拒否・食事拒否等不穏な言動が多く見られている中で、職員一人一人の関わり方やリハビリテーションの強化によって約2カ月で介護拒否がほとんど無くなり、精神面の落ち着きと、著しいADLの向上が認められた。この一連の経過をここに報告する。
【対象者】
A様:70代女性 身長165cm 体重70kg台 要介護5 日常生活自立度:C2 認知症高齢者自立度:IV
病歴:右蝶骨髄膜腫術後、開頭血腫除去術後、症候性てんかん、甲状腺腫
意向:本人 具体的な意向を伺う事が難しく確認できず。
家族 「少しでも入院前の状態に戻って欲しい。」「リハビリテーションをして自立できる部分が増えて欲しい。」
入院前の生活状況:ほぼ自立していたが、視野狭窄や体調不良時は夫・息子夫婦の協力を得て生活をしていた。
入所までの経緯:右蝶形骨髄膜腫術後、リハビリテーション目的で転院した病院では、高次機能障害・ADLの低下に加え、遂行障害・記憶障害・行動異常等があり向精神薬で経過観察行い、眠剤で睡眠を促していたが身体的なリハビリテーションも制約があり、介護拒否も見られていた為あまり効果が期待されなかった。
【入所時状況】
基本動作:寝返り~起き上がり一部介助。わずかな協力動作はあるも、介助量は大きく2人対応が必要。端坐位は後方に倒れる様子あり、後方介助があれば何とか保てる。立ち上がり~立位保持は下肢に力が入りにくく臀部が少し浮く程度。立位保持は30秒程が限度。
食事:動作は可能だが、自力で食べようとする事が少なく食べ始めても目をつぶったまま口に運ぶ為、食べこぼしが多い。摂取量0~数口程度。
排泄:オムツ対応。定時のパット交換のみ。
会話・BPSD等:単語を拾っての発語はあるが、意思の疎通が難しく全く違う話をされる事が多い。声掛けの意味理解あいまいで混乱する事がある。移乗・食事・排泄の全面で介助拒否が強く、介助に対し興奮し大声・手が出る事がある。
【対応方法】
《精神面について》
目標:介護拒否・食事拒否等不穏な言動が無くなる。
1)職員を知って頂く事から始め、職員一人一人が積極的にコミュニケーションを図った。
2)興奮時には、一度時間を空け1人になる時間を設けた。
3)時間を空けても興奮が収まらない場合は、対応職員を変えて対応。
4)こまめにお話する。どういう事が嫌なのか何を感じたのか具体的には言葉で表現できないものの、お気持ちを汲み取れるような質問を行う。
《ADLについて》
目標:トイレでの排泄が可能となる。軽介助での起居・移乗動作が可能となる。食事をとる事が出来る。
起床・移乗
入所~2W … 終日臥床対応。食事前後での離床のみ。ベッド頭部のギャッチアップ、2人対応にて前方後方介助で移乗。下肢に力が入りにくい際は、3~4人での移乗対応。
2W~ … 立ち上がり訓練開始。毎日昼食後、手すりに掴まり立ち上がり~立位保持10秒間×5回、トイレ使用後には、臥床することなく離床対応。
5W~ … 後方介助にてベッド柵や手すりを掴まって頂き1人対応で移乗。パット交換時・本人臥床希望時以外は離床対応。
排泄
入所~1W … オムツ使用。ベッド上でパット交換。覚醒状態により2人介助が必要。
1W~ … オムツによる腹部の圧迫・オムツいじりがあり、リハビリパンツに変更。
2W~ … 訴え時に2人対応にてトイレ誘導。下肢に力が入りにくい際は、3~4人対応。定時はベッド上でパット交換。
6W~ … 訴え時+定時に2人対応にてトイレ誘導。難しい場合は、ベッド上でパット交換。
食事
入所~1W … 機能はあるものの、自力での摂取が難しく介助での摂取も拒否。摂取量 0~1/2
1W~ … 自力で数口召し上がるも手が止まる様子。声掛け・介助にて召し上がる。摂取量 数口~全量
4W~ … 自力で半量程召し上がる事が増えた。声掛け・介助にて召し上がる。摂取量 1/2~全量
5W~ … 提供時に一緒に「いただきます。」と言い、食事へ意識を向ける。ほとんど自力で召し上がる。
【結果】精神面については、上記1)~4)の対応にて心を開いて下さり、入所から数日で介護拒否も見られなくなった。拒否があっても長くは続かず、他職員へ自分から声を掛けモヤモヤした気持ちを発散されている様子も見られていた。また、笑顔で冗談話をして下さり、職員に面白いあだ名をつけてくださる事もあった。ADLについては、入所時は下肢に力が入りにくい様子があったが、移乗動作や立ち上がり訓練を積極的に日々行っていく事で下肢に力が入りやすくなり、ベッドがフラットな状態でも自力で端坐位になれるまで回復。排泄もオムツ対応からトイレで排泄が出来るようになり、恥ずかしさからの拒否も無く「重いのにごめんね~大丈夫?」と移乗介助を行う職員を気にされるようになった。食事面も声掛けにてコミュニケーションを図っていく事で、拒否が無くなり自力での摂取量も増加、介助でも召し上がってくださるようになった。
【考察・まとめ】今回の対象者は、精神・心理面がADLの低下に繋がっており、入所時からこまめにコミュニケーションを図った事や、ご本人の気持ちに寄り添った関わり方を行った事で、職員との信頼関係も構築でき、気持ちの変化から意欲を引き出す事が出来た。その事がADLの向上に繋がったのではないかと考える。そして、ADLが向上した事がさらに精神・心理面の安定に繋がったと思う。この経験を通して、利用者に一番近い存在だからこそ身体機能だけでなく様々な方向性から支援する必要があるという事を再確認する事が出来た。
右蝶形骨髄膜腫術後、脳出血を合併し開頭血腫除去術施行、高次脳機能障害・長期臥床による筋力低下によりADLが低下し、移乗・移動動作が全介助、オムツ対応となった方が在宅復帰目的で入所された。せん妄・介護拒否・食事拒否等不穏な言動が多く見られている中で、職員一人一人の関わり方やリハビリテーションの強化によって約2カ月で介護拒否がほとんど無くなり、精神面の落ち着きと、著しいADLの向上が認められた。この一連の経過をここに報告する。
【対象者】
A様:70代女性 身長165cm 体重70kg台 要介護5 日常生活自立度:C2 認知症高齢者自立度:IV
病歴:右蝶骨髄膜腫術後、開頭血腫除去術後、症候性てんかん、甲状腺腫
意向:本人 具体的な意向を伺う事が難しく確認できず。
家族 「少しでも入院前の状態に戻って欲しい。」「リハビリテーションをして自立できる部分が増えて欲しい。」
入院前の生活状況:ほぼ自立していたが、視野狭窄や体調不良時は夫・息子夫婦の協力を得て生活をしていた。
入所までの経緯:右蝶形骨髄膜腫術後、リハビリテーション目的で転院した病院では、高次機能障害・ADLの低下に加え、遂行障害・記憶障害・行動異常等があり向精神薬で経過観察行い、眠剤で睡眠を促していたが身体的なリハビリテーションも制約があり、介護拒否も見られていた為あまり効果が期待されなかった。
【入所時状況】
基本動作:寝返り~起き上がり一部介助。わずかな協力動作はあるも、介助量は大きく2人対応が必要。端坐位は後方に倒れる様子あり、後方介助があれば何とか保てる。立ち上がり~立位保持は下肢に力が入りにくく臀部が少し浮く程度。立位保持は30秒程が限度。
食事:動作は可能だが、自力で食べようとする事が少なく食べ始めても目をつぶったまま口に運ぶ為、食べこぼしが多い。摂取量0~数口程度。
排泄:オムツ対応。定時のパット交換のみ。
会話・BPSD等:単語を拾っての発語はあるが、意思の疎通が難しく全く違う話をされる事が多い。声掛けの意味理解あいまいで混乱する事がある。移乗・食事・排泄の全面で介助拒否が強く、介助に対し興奮し大声・手が出る事がある。
【対応方法】
《精神面について》
目標:介護拒否・食事拒否等不穏な言動が無くなる。
1)職員を知って頂く事から始め、職員一人一人が積極的にコミュニケーションを図った。
2)興奮時には、一度時間を空け1人になる時間を設けた。
3)時間を空けても興奮が収まらない場合は、対応職員を変えて対応。
4)こまめにお話する。どういう事が嫌なのか何を感じたのか具体的には言葉で表現できないものの、お気持ちを汲み取れるような質問を行う。
《ADLについて》
目標:トイレでの排泄が可能となる。軽介助での起居・移乗動作が可能となる。食事をとる事が出来る。
起床・移乗
入所~2W … 終日臥床対応。食事前後での離床のみ。ベッド頭部のギャッチアップ、2人対応にて前方後方介助で移乗。下肢に力が入りにくい際は、3~4人での移乗対応。
2W~ … 立ち上がり訓練開始。毎日昼食後、手すりに掴まり立ち上がり~立位保持10秒間×5回、トイレ使用後には、臥床することなく離床対応。
5W~ … 後方介助にてベッド柵や手すりを掴まって頂き1人対応で移乗。パット交換時・本人臥床希望時以外は離床対応。
排泄
入所~1W … オムツ使用。ベッド上でパット交換。覚醒状態により2人介助が必要。
1W~ … オムツによる腹部の圧迫・オムツいじりがあり、リハビリパンツに変更。
2W~ … 訴え時に2人対応にてトイレ誘導。下肢に力が入りにくい際は、3~4人対応。定時はベッド上でパット交換。
6W~ … 訴え時+定時に2人対応にてトイレ誘導。難しい場合は、ベッド上でパット交換。
食事
入所~1W … 機能はあるものの、自力での摂取が難しく介助での摂取も拒否。摂取量 0~1/2
1W~ … 自力で数口召し上がるも手が止まる様子。声掛け・介助にて召し上がる。摂取量 数口~全量
4W~ … 自力で半量程召し上がる事が増えた。声掛け・介助にて召し上がる。摂取量 1/2~全量
5W~ … 提供時に一緒に「いただきます。」と言い、食事へ意識を向ける。ほとんど自力で召し上がる。
【結果】精神面については、上記1)~4)の対応にて心を開いて下さり、入所から数日で介護拒否も見られなくなった。拒否があっても長くは続かず、他職員へ自分から声を掛けモヤモヤした気持ちを発散されている様子も見られていた。また、笑顔で冗談話をして下さり、職員に面白いあだ名をつけてくださる事もあった。ADLについては、入所時は下肢に力が入りにくい様子があったが、移乗動作や立ち上がり訓練を積極的に日々行っていく事で下肢に力が入りやすくなり、ベッドがフラットな状態でも自力で端坐位になれるまで回復。排泄もオムツ対応からトイレで排泄が出来るようになり、恥ずかしさからの拒否も無く「重いのにごめんね~大丈夫?」と移乗介助を行う職員を気にされるようになった。食事面も声掛けにてコミュニケーションを図っていく事で、拒否が無くなり自力での摂取量も増加、介助でも召し上がってくださるようになった。
【考察・まとめ】今回の対象者は、精神・心理面がADLの低下に繋がっており、入所時からこまめにコミュニケーションを図った事や、ご本人の気持ちに寄り添った関わり方を行った事で、職員との信頼関係も構築でき、気持ちの変化から意欲を引き出す事が出来た。その事がADLの向上に繋がったのではないかと考える。そして、ADLが向上した事がさらに精神・心理面の安定に繋がったと思う。この経験を通して、利用者に一番近い存在だからこそ身体機能だけでなく様々な方向性から支援する必要があるという事を再確認する事が出来た。