講演情報

[15-O-A011-07]車椅子自立となったきっかけ作り~尿道カテーテルの操作が課題だった事例紹介~

*畔上 理嵯1 (1. 長野県 老人保健施設ふるさと)
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入所当初より自身で出来ることについても、手伝って欲しいと依存的であったA氏が「車椅子で自由に動けるようになりたい」と意思を示され、車椅子自立を目指す。療養棟カンファレンスを繰り返し行い、尿道カテーテル操作で車椅子後方に手が回らず、操作が難しい状況だった。そこで、車椅子前方の座シートの下に袋をかけ、その袋に尿バックを入れることで車椅子自立に前進した症例を報告する。
【はじめに】
 老人保健施設は、入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることとともに、その者の居宅における生活への復帰を目指すものでなければならないと定められている。当施設でも利用者の出来る活動に注目し、入所された時より自分で出来ることが増やせること、入所された時に自身で出来ていたことは維持出来ていることを目標に多職種協働でケアを行っている。
 うつ病の既往歴があり、入所当初より自身で出来ることについても、手伝って欲しいと依存的であったA氏が「施設内は車椅子で自由に動けるようになりたい」との意思を示された。A氏の願いの実現に向けた取り組みをここに報告する。

【事例紹介】
A氏 70代 男性 要介護4
傷病名:右脛骨腓骨近位骨幹端骨折、躁鬱病、糖尿病(両全足趾切断術)
自宅内は伝い歩きで移動が出来ていたが、右脛骨腓骨近位骨幹端骨折にて入院後は食事以外には介助を要する状態であった。
【取り組み及び経過】
 車椅子自立を目指し、起居動作から車椅子駆動、尿道カテーテルの操作、ベッドでの臥床まで一連の動作確認を行う「動作確認表」を作成し、現状の把握を行いながら目標設定を行い、ケアを行った。開始当初は布団をはがす動作も出来る時と出来ない時があるなど波がある状態であった。身体機能面の課題もあったが同時に精神面の状態による影響もあると考えられた。たとえ自身で出来る動作であっても無理強いするのではなく、できる限り本人の気持ちに寄り添いながら、声掛けや見守りを行い、ケアすることを職員間で共有した。
 手すりにつかまることで立位保持が出来、移乗動作は見守りで可能な状態であったが、動作の安定性向上を目的に毎日立ち上がり練習に取り組んだ。また、車椅子駆動は自分で可能であったが、ブレーキをかけ忘れてしまうことがあり、その都度声掛けを行い、習慣化を図った。車椅子への移乗動作や駆動は自分で可能な状態になったものの、尿道カテーテルの尿バックの操作を自分で行うことが難しい状態であり、車椅子自立には至らずにいた。当施設では尿バックは車椅子バックサポートにS字フックを用いてかけることが主流であり、この動作が出来ない状態であった。そこで尿バックをかける位置の検討を行い、車椅子前方の座シートの下に袋をかけ、その袋に尿バックを入れる方法を試みることにした。車椅子の後方にかけるよりも操作がしやすくなり、繰り返し練習をすることでこの動作も獲得することが出来、車椅子自立を果たすことが出来た。車椅子自立を果たせたことで自身のペースで施設内を移動され、リハビリや余暇活動に取り組まれている。また入所当初は言葉数も少なかったA氏であるが、自ら職員に声を掛ける機会も増え、身体面だけではなく、精神面の変化ももたらされた。
A氏と同様に尿道カテーテルの操作を自分で行うことが出来ずに車椅子自立に至らずにいたB氏に対しても同様の方法を試みると、B氏も車椅子自立を果たすことが出来た。

【考察】
 自分で出来る動作であっても介助を依頼されることがあったA氏であるが、気持ちに寄り添うことを心掛け、短期的な目標や目指すべき姿を共有することでA氏の願いであった車椅子自立を達成することが出来たのだと考える。また、体力や筋力強化を目的とした立ち上がり練習をはじめとした運動プログラムも有用であったと思われる。
 尿バックをかける位置についても車椅子使用者は車椅子のバックサポートにS字フックを用いてかけるという固定概念を払拭し、どのような位置であれば尿道カテーテルのトラブルがなく、尚且つ自身で操作ができるのか検討を重ねたことが今症例では大きな要因であったと考える。
 車椅子自立が出来たことで、介助を受けて移動をするといった受け身の姿勢から自らの意思で移動をするという前向きな姿勢に変わり、身体面だけではなく、精神面においても大きな変化をもたらしたのではないか。今後は住み慣れた自宅に戻ることも視野に入れ、多職種協働のもとケアを続けていきたい。