講演情報

[15-O-A012-01]利用者の生活リズムを整えるケアプロトコールを活用して

*舩生 里美1、大島 恵1 (1. 栃木県 老人保健施設かみつが、2. 老人保健施設かみつが)
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当施設の認知症専門棟には約50名入所されており、転倒リスクの高い利用者が多い。見守りの陰に生活リズムがケア側のリズムに同調される傾向にあり、周辺症状にも影響があった。今回利用者4名の生活状況を知り、問題点を抽出してケアプロトコールを作成し実施した。結果、利用者の生活リズムが整い、生活の質の向上に繋がった。個別性を重視したケアの必要性を再認識できた為、ここに報告する。
1はじめに
 当施設認知症専門棟では、転倒リスクの高い利用者の見守りの陰に、生活リズムが施設のリズムに同調されている傾向にあり、生体リズムを乱している現状がある。生体リズムが乱れる事によりBPSDが強く出たり、向精神薬が増量される現状を問題と捉え、生体リズムを取り戻す必要があると考えた。
 今回、生活リズムの乱れから、BPSDに繋がっていると考えられる利用者4名を対象に、生活の様子を調査し、「高齢者の生活リズムを整えるためのケア」(以下ケアプロトコール)を作成・実施した。ケアプロトコールで生活の質の向上やBPSDの軽減に繋がったのでここに報告する。
2目的
 生活リズムを整える事で利用者のBPSDが軽減する。
3方法
1)8月10日~17日 生活リズムの調査
2)ケアプロトコールの作成と実施
3)11月12日~14日 生活リズムの調査
4倫理的考慮
 利用者に研究の主旨を説明し、得られた情報は研究のみで使用し個人が特定されない事、不利益が生じない事、個人情報の秘密厳守することとした。
5事例紹介
【事例1】
1)A氏 82歳 女性 主病名 心房細動・認知症MMSE3点
2)生活リズム調査の中での課題
 19時間/日、ベッド上で過ごしている。閉眼したまま声掛けに返答する。本人からの訴えや発語はない。余暇活動など提案しても興味は示さず、気分に波があり意欲も感じられない。
3)ケアプロトコールの作成と実施
 離床時間を増やし活動時間が増える環境調整
【事例2】
1)B氏 99歳 男性 主病名 洞不全症候群(ペースメーカー植え込み)・認知症MMSE8点
2)生活リズム調査の中での課題
 一日中車椅子に座っている。傾眠がある。帰宅訴えや見当識障害、易怒性があり怒鳴る。
3)ケアプロトコールの作成と実施
 本人のタイミングにあった休息が取れるような環境調整と嗜好に合わせた活動
【事例3】
1)C氏 93歳 女性 主病名 慢性心不全・認知症MMSE6点
2)生活リズム調査の中での課題
 日中臥床することがほとんどない。下肢浮腫がある。決まった時間帯に見当識障害や帰宅訴えがある。
3)ケアプロトコールの作成とケアの目標
 混乱の改善に向けた環境調整と認知機能活用ケア
【事例4】
1)D氏 98歳 女性 主病名 認知症MMSE5点
2)生活リズム調査の課題
 難聴があり昼夜問わず大声出しがある。訴えが頻回すぎてその都度対応が出来ない。自発的な動きはなく同じ姿勢でじっとしている。
3)ケアプロトコールの作成とケア目標
 離床時間と寄り添う時間の確保
6結果
 A氏は開眼する時間が増え、会話が成立するようになった。フロアの活動にも参加出来るようになり、向精神薬が不要になった。B氏は、休息時間を設けたことで、起床時には表情がスッキリし、気持ちもリセットされ易怒性や怒鳴ることが減った。さらに、コミュニケーションの中から入所前の生活背景がみえ、笑顔が増えた。C氏は、帰宅訴えに変化はみられなかったが、介入後BPSDが軽減した。D氏は関わりを持つことで怒鳴る事が減り夜間入眠できるようになった。
7考察
 長谷川氏は「刺激のない生活は認知症の進行を早めると言われている。日常生活の中で話しかけたり一緒に何かをしたりして疎外感を与えないことが大事である」と述べている。
 もともとA氏は話が好きだった為、意識的に声を掛け毎日身だしなみを整えたことで生活リズムが整い疎外感が軽減し、意欲の向上に繋がったと考える。
 高齢による疲労感と、難聴により言葉の不理解や誤認からBPSDが強く見られていたB氏は、休息時間を適度にとる事で、疲労感が減り気持ちに余裕が生じ、易怒性が軽減したと思われる。易怒性が減ったことで関わろうとする職員も増えたことが、B氏の笑顔を引き出すきっかけになったのではないかと考える。C氏、D氏は必要なケア介入ができた事で、自尊心を高め、安心感や幸福感に繋がりBPSDを軽減することが出来た理由であると考える。
8まとめ
 認知症専門棟では、転倒リスクの高い利用者を見守りながら、他利用者の生活支援も行う為、個別的なケアが充分に行えていない現状があった。
 今回課題を明確にし、ケアプロトコールを作成、実施したことで、生活リズムを整える関わりが利用者に変化をもたらし、BPSDの軽減に繋がったと実感した。高齢者のこれまでのライフスタイルや既往歴は様々で、一人一人について観察しその人を理解する事でどんなケアが必要か見えてきた。認知症のために見失われがちなその人の尊厳や個性・求めている事を見出し、看護師として認知症を持つ利用者が本人らしく生活していけるよう他職種で協働しながら支援していきたいと思う。