講演情報

[15-O-A012-06]アセスメントツールを活用したケア実践でQOL向上へ

*香川 彩乃1、福田 祐里恵1、福谷 洋子1 (1. 鳥取県 介護老人保健施設弓浜ゆうとぴあ)
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当施設では個別ケア実践の必要性を認識しているが、画一的なケアになる傾向がある。そのため、個人を正しく理解し、最善と考えられるケアを実践するため、情報収集とアセスメントのためのツールとして、「生活歴・生活習慣シート」「興味関心シート」「ひもときシート」「24時間シート」を活用した。固定チームで検討し、個別ケアのPDCAを展開した結果、入所者に良い変化があり、QOL評価でも向上がみられた2事例について報告する。
【はじめに】
当施設では個別ケア実践の必要性を認識しているが、施設サービスの中に生活スケジュールやケアを組み込んでいるため、画一的なケアになる傾向がある。そのため、個人を正しく理解したうえで、ケアを提供する必要があると考え、試行的に情報収集とアセスメントのためのツールを活用し、その人にとって最善と考えられるケアを固定チームで検討し、PDCAを展開した。その結果、入所者が以前よりも表情が明るくなり、生活の中で意欲的な場面が見られる、などの変化があり、QOL評価においても向上がみられた2事例について報告する。
【取り組み方法】
(1)職員全員に、情報収集とアセスメントのためのツールとして、「生活歴・生活習慣シート」「興味関心シート」「ひもときシート」「24時間シート」の勉強会を実施し、周知を図る。※生活歴・生活習慣シートについては家族が記入し、入所時に持参していただく。
(2) (1)を用いた事例検討会の実施・・・チーム内で、事例を選出。必要なシートは受持ち担当者が準備。チームメンバーは各自、ひもときシートを作成する。
(3)メンバーが作成したひもときシートを照らし合わせ、チームでケア計画を立てる。
(4)計画に沿ってチームでPDCAを展開する。
(5)QOL評価・・・ケア計画実施前と退所時に、葛谷のQOL評価表(14項目、5段階評価)を用いて評価する。
【倫理的配慮】
家族へ本研究の主旨と個人情報が特定されないよう配慮すること、拒否することでの支障は全く生じないこと、本研究以外で使用しないことを文書・口頭で説明し、承諾書をもって同意を得た。
【事例紹介】
事例1:A氏 女性 90歳代 統合失調症 高血圧症 廃用症候群 実施期間 令和5年11月から1月
精神的に不安定になることが多く、突然怒る、泣くといった感情の起伏が激しくなる行動がよく見られていた。また、日中ベッドで横になっている時間が長く活動量の低下。広場に誘導しても「トイレに行く」と部屋に戻り、その後また横になっていることがあった。
(実践及び結果)
計画作成当初は、トイレ失敗への不安感があり広場で過ごすことができないのではないかと考え、トイレ希望時には速やかなトイレ誘導の実施を行うとしたが、チームでの検討の結果、トイレへの執着というよりも、本人の行動は精神状態が大きく起因していることが多く、何をしていいか分からない、何もすることがないという漠然とした不安感からトイレへ向かう行動に繋がっているのではないかと再アセスメントした。チームミーティングを重ね、目標を本人が好きな活動に取り組み、不安感を感じることなく精神的に安定した状態で過ごすことができる。とし、以下の計画を立案し実施した。(1)一日一句俳句を詠み、それを俳句ノートにまとめる。(2)お部屋に花を飾り、毎日の水やりを行う。(3)広場で過ごす際には、本人の好きな演歌歌手を聴いてもらう。とした。その結果、本人から前向きな発言や、明るい表情が見られはじめ、こちらが横になりましょうか?と声を掛け部屋に案内した10分後には自ら「演歌を聴く」と起きてこられるほど行動にも変化が見られた。また、広場で演歌を聴いている間、トイレに行くことが少なくなった。花の水やりをしながら職員と会話をする機会が増えた。QOL評価総合点 ケア計画実施前47点 退所時54点。
事例2:B氏 80歳代 男性 レビー小体型認知症 実施期間 令和5年9月から2月弟と共に兄弟で入所している。日中は傾眠あり、夜間帯の大声やベッドから降りようとされる。食事時覚醒状態が悪い時や傾眠があり、食事介助が出来ない。
(実施及び結果)
目標を、退所に向けて楽しみを持って過ごしてもらう。退所後の施設は自分の時間が多いため、自分での時間の使い方を行ってもらう。とし、以下の計画を立案し実施した。(1)日中の活動量を増やし、体操行う。また、興味関心シートの結果から、「時代劇」に興味がある為、好きな時代劇を見て過ごしてもらう。(2)本人の覚醒にムラがある為、センター方式24時間シートを活用し睡眠状態と一番関われる時間帯を確認し、関わりを増やしていく。とした。その結果、チーム内職員で役割を決めて介入した。覚醒状態が良い日は趣味の(水戸黄門)を観てもらうと、笑顔を見せた。センター方式24時間シートを活用し、生活リズムを整えるようにした。10時、12時、14時には、本人の昔話を傾聴すると喜んで語っていた。兄弟で一緒にいる事が多く、日中の離床時間が増え、集中して時代劇を見ることが出来るようになり、覚醒時間が以前より向上した。介入時間を検討したことで継続的に取り組むことが出来た。QOL評価総合点 ケア実施前30点 退所時52点。
【考察】
今回の取り組みにより、2事例とも、QOLが向上した。このことはアセスメントツールを用いて、徹底してその人の全体像を理解した上でチームでより良いケア計画を導きだすことが出来たことによってQOLの向上に繋げることができたと考えられる。また、チームで事例検討会を積み重ねたことによって、支援内容が徐々にブラッシュアップし、それによって入所者の笑顔や意欲を引き出すことができた。入所者の良い反応は、職員にとっても取り組みの効果を実感し、やりがい感にも繋がる。アセスメントツールを活用し、事例検討を行うことは、職員の情報収集とアセスメント能力の向上が期待できる方策であると考えられる。今後も、チーム全体で多くの視点、意見を共有して個々の入所者を深く理解した上でケア計画のPDCAを展開することによってQOLの向上に繋げていきたい。