講演情報

[15-O-A012-07]趣味活動が及ぼす自信の回復とADL向上について

*高橋 孝浩1 (1. 宮城県 医療法人社団健育会介護老人保健施設しおん)
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転倒による入院で低下していた意欲やADLが本人の趣味活動の実施により改善した事例を報告する。本人の思いの傾聴に努め、趣味であった編み物を職員の声掛けや家族からの励ましで継続した。本人が努力して作った製作物を通じて交友関係が広がり、自信を回復する事ができた結果、意欲やADLが向上したと考えられる。
利用者 90代 女性 要介護4 
    利用期間:令和5年7月~令和6年5月
【主病】腰臀部打撲傷
【現病】腰部脊柱管狭窄症 認知症 高血圧症 
【既往】高血圧 尿路感染症 深部静脈血栓症 誤嚥性肺炎
【経過】令和5年5月に自宅にて転倒し体動困難となり救急搬送、腰殿部打撲との診断にて鎮痛とリハビリ目的で入院。
入院中、発熱と食欲低下にて内科併診し尿路感染症と両下肢深部静脈血栓症が認められた。右上肢の脱力も見られ、頭部の画像診断を行うも脳出血や急性期梗塞は確認されず一過性脳虚血性発作疑いとして経過観察となる。全身状態はほぼ安定されたが筋力低下等にてリハビリに時間を要するとの事から令和5年7月当施設入所。 
【目的】ご利用者は入所当初、「お尻が痛い」「腰が痛い」などの訴えが多く、食事以外はベッド上で過ごし、移動は車椅子介助、移乗は一部介助が必要。排泄に関しては尿・便意共に曖昧で終日オムツ対応。痛みにより離床時間も短く、居室に籠りがちでレクリエーションへの参加も拒否する等、意欲低下もみられていた。
【介護計画】
ニーズ(本人及び、家族の意向):離床時間が長くなり、他者と交流を持ち楽しく過ごせる
目標: 離床する機会が増える
【方法】本人の訴えを傾聴する所から始めると半月ほどで、自分で出来る事はやりたいと思っている事、和裁をして家計を支えていた事、旦那と息子が船員だった為に一度航海に出ると長期間帰って来なくてとても寂しい思いをしていた等、職員に自分の思いを話せるようになった。少しずつ気持ちが安定していった為、そこから担当チームで話し合い、移乗と移動の自立を目指しリハビリを開始した。
立位もうまく取れるようになり、自信が出てきた頃合いに施設生活を心配していた家族から「趣味の編み物を編んでほしい」とご希望があり、それを契機に以前の生活を取り戻せる様支援する事とした。編み物への取り組みは初め「できない」と消極的な発言が多く出ていたが、お孫さんからの励ましや職員の声がけが本人の頑張りに繋がり、アクリルたわしや鍋敷きを作成して職員へプレゼントする事ができた。その後、新しくできた友人たちからも「俺の分も作ってくれと頼まれた」と嬉しそうに話し、次々と製作していった。
【結果】趣味の編み物を通して意欲が向上するとリハビリにも自信が付き、移乗・移動は介助から自立に、排泄も終日のオムツからトイレ自立、要介護4から要支援までアップしR6年5月に施設退所となった。
【考察】これまで寂しさを埋めることを理由に他者との交流を図っていたのかもしれないが、本来は他者から頼られ、喜んでもらうことを自身の喜びとし、楽しく自分らしく生活したい思いが強くあるのだろうと感じた。それが趣味の編み物を通して実現することで意欲が向上する好循環となったと考えられる。