講演情報
[15-O-A013-02]入院者を減らそう介護職が行ったケアの工夫
*江波 貴幸1 (1. 石川県 金沢南ケアセンター)
当施設は近年、入院者が増加傾向にあり、よって稼働率の低下が目立つようになってきた。前年度(令和5年度)の入院者を原因分析すると、誤嚥性肺炎と尿路感染症が大部分を占めていた。介護職によるケアの工夫で予防が出来ないかをフロアで話し合い、勉強会と予防の為のケアを実施したことで、年間を通し入院者が激減した。今回は、マンパワーが不足する中、年間を通し取り組んだこと、また、その結果から得た気づきを報告する。
【はじめに】
当施設は、入所100床、短期入所療養介護(空床利用)、通所リハビリテーション定員60名、訪問リハビリテーションを提供する老人保健施設である。また、短期入所生活介護やグループホーム、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターを併設し、複合的に介護サービスを提供している。石川県では、2024年1月1日の能登半島地震により、多くの介護施設が被災した。当施設は震源地より150km以上離れており、エレベーターの緊急停止や混濁により水道水が数日使用できなかった程度の被害で済み、ご利用者や建物には大きな被害はなかった。発災後、被災した能登の施設は建物の崩壊、インフラの停止等でとても運営出来る状態ではなく、ご利用者を金沢以南の施設に移送する緊急避難が行われ、当施設も10名以上の避難者を受け入れさせて頂いた。現時点(7月)でも、避難中の方がふるさとに戻れずに入所されており、通常の運営状況ではないのかもしれないが、今回は発災前の令和5年度、私の所属するフロア(ご利用者定員36名)が行った入院者を減らすための取組み、そして1年間実施した結果をご報告させていただく。
【目的】
体調の悪化を予防し、入院者数を減らす。結果、空床が減り稼働率を安定させること。
【取り組みの内容】
初めに前年度(令和4年度)の入院退所21件の原因分析を行った。21件のうち持病など予防が難しいものは7件、残りの14件中、誤嚥性肺炎が7件、尿路感染が6件、誤嚥性肺炎と尿路感染の併発が1件であった。誤嚥性肺炎の内訳は、経管栄養の方が4名、経口摂取の方が4名であり、尿路感染の内訳は、経管栄養の方が5名、経口摂取の方が2名であった。分析結果を基に入院の原因となることが多かった疾患ごとに勉強会を実施し、予防する為の取り組みを次のように行った。
(1)誤嚥性肺炎の予防について
・勉強会の開催
・1日1回、食前にパタカラ体操、あいうべ体操などの口腔体操の実施
・経管栄養の方の口腔ケア時、耳下腺・舌下腺・顎下腺マッサージの実施
口腔体操は、口腔周辺の運動や感覚機能の向上を促し、摂食による誤嚥のリスクを予防する目的で行った。手書きのポスターを壁に掲示することでフロアスタッフが忘れず実施できるようにし、また、ご利用者にもわかりやすく自ら取り組めるように工夫した。唾液腺マッサージは、唾液の分泌を促し、口腔内の自浄作用や乾燥予防の効果を得る目的で行った。初めにマッサージの回数や実施方法、マッサージをしない方がよいご利用者などについて言語聴覚士に相談し助言・指導を受けた。そして、手技を確認するためのカードを準備し、皆が統一した唾液腺マッサージが出来るよう工夫した。
(2)尿路感染症の予防について
・勉強会の開催
・高リスク利用者(既往歴のある方)の夜間の陰部洗浄を追加
陰部洗浄の回数を増やすことで陰部を清潔に保ち、尿路感染のリスクを低減させる目的で行った。排泄介助の際に追加洗浄を忘れないよう、職員の目に入る位置に対象者の名前を明記した。また、回数を増やしたご利用者の陰部の皮膚トラブルチェックも忘れずに行った。
(3)熱中症・脱水症の予防について
・勉強会の開催
・1日5回の確実な水分補給の促し
・水分摂取形態(液体・ジュレ・とろみ)の再評価と飲水タイミングの見直し
・寝具・空調調整をきめ細やかに行う事による体温管理の徹底
協力医療機関主催の地域医療連携研修会で高齢者の脱水について深く学び、フロアでの勉強会で研修内容を共有した。お茶を好まれない方用に、嗜好性にあったジュース、お茶ゼリーやフルーツ味のジュレなどを準備し、好みに合うもので摂取が出来るよう工夫。摂取時のムセは言語聴覚士に確認してもらい、状況に適したトロミ調節を行った。
(4)新型コロナウイルス・インフルエンザ等の感染症の予防について
・勉強会の開催
・環境整備時に居室の換気を必ず行うこと
・マスクの準備(必要時すぐ使うため)
・食事時の座席管理
換気のタイミングが曖昧だったため、居室の環境整備開始時に窓を開け、終了時に閉めることを徹底した。また、いざ陽性者が出たときの為に座席配置の工夫や座席表の管理を徹底した。
【結果と考察】令和5年度の入院件数は15件であり、前年(令和4年)の21件を下回った。誤嚥性肺炎は8件から4件に減り、尿路感染は7件から0件に大きく減少し、実施した事への効果を感じることができた。誤嚥性肺炎の予防については、作成したポスターを見て食前の口腔体操を自発的に取り組むご利用者がみられた。尿路感染については、リスク者の洗い出しも含めルーチンワークとなり通常業務として定着した。また、熱中症、脱水症、感染症等の勉強会を通して、水分摂取や体温調整、換気等の大切さを職員が改めて学んだことで、根拠のあるケアを皆で前向きに実施することが出来た。今回の取り組みは、年間を通してのフロア内の目標ではあったが、得た結果から、他のフロアも含め施設全体で取り組むことで、施設としてさらにご利用者の体調管理におけるケアの質が上がると感じた。老健は、“病気”について、医療職に任せがちになってしまうことが多い。しかし、介護のプロとして健康を維持する為のケアを常に意識することはとても大切である。定期的に学ぶこと、そして忙しい業務の中でも日々ケアを工夫していくこと、密にコミュニケーションを取ることが大切であると今回の取り組みを通して、改めて実感することができた。
当施設は、入所100床、短期入所療養介護(空床利用)、通所リハビリテーション定員60名、訪問リハビリテーションを提供する老人保健施設である。また、短期入所生活介護やグループホーム、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターを併設し、複合的に介護サービスを提供している。石川県では、2024年1月1日の能登半島地震により、多くの介護施設が被災した。当施設は震源地より150km以上離れており、エレベーターの緊急停止や混濁により水道水が数日使用できなかった程度の被害で済み、ご利用者や建物には大きな被害はなかった。発災後、被災した能登の施設は建物の崩壊、インフラの停止等でとても運営出来る状態ではなく、ご利用者を金沢以南の施設に移送する緊急避難が行われ、当施設も10名以上の避難者を受け入れさせて頂いた。現時点(7月)でも、避難中の方がふるさとに戻れずに入所されており、通常の運営状況ではないのかもしれないが、今回は発災前の令和5年度、私の所属するフロア(ご利用者定員36名)が行った入院者を減らすための取組み、そして1年間実施した結果をご報告させていただく。
【目的】
体調の悪化を予防し、入院者数を減らす。結果、空床が減り稼働率を安定させること。
【取り組みの内容】
初めに前年度(令和4年度)の入院退所21件の原因分析を行った。21件のうち持病など予防が難しいものは7件、残りの14件中、誤嚥性肺炎が7件、尿路感染が6件、誤嚥性肺炎と尿路感染の併発が1件であった。誤嚥性肺炎の内訳は、経管栄養の方が4名、経口摂取の方が4名であり、尿路感染の内訳は、経管栄養の方が5名、経口摂取の方が2名であった。分析結果を基に入院の原因となることが多かった疾患ごとに勉強会を実施し、予防する為の取り組みを次のように行った。
(1)誤嚥性肺炎の予防について
・勉強会の開催
・1日1回、食前にパタカラ体操、あいうべ体操などの口腔体操の実施
・経管栄養の方の口腔ケア時、耳下腺・舌下腺・顎下腺マッサージの実施
口腔体操は、口腔周辺の運動や感覚機能の向上を促し、摂食による誤嚥のリスクを予防する目的で行った。手書きのポスターを壁に掲示することでフロアスタッフが忘れず実施できるようにし、また、ご利用者にもわかりやすく自ら取り組めるように工夫した。唾液腺マッサージは、唾液の分泌を促し、口腔内の自浄作用や乾燥予防の効果を得る目的で行った。初めにマッサージの回数や実施方法、マッサージをしない方がよいご利用者などについて言語聴覚士に相談し助言・指導を受けた。そして、手技を確認するためのカードを準備し、皆が統一した唾液腺マッサージが出来るよう工夫した。
(2)尿路感染症の予防について
・勉強会の開催
・高リスク利用者(既往歴のある方)の夜間の陰部洗浄を追加
陰部洗浄の回数を増やすことで陰部を清潔に保ち、尿路感染のリスクを低減させる目的で行った。排泄介助の際に追加洗浄を忘れないよう、職員の目に入る位置に対象者の名前を明記した。また、回数を増やしたご利用者の陰部の皮膚トラブルチェックも忘れずに行った。
(3)熱中症・脱水症の予防について
・勉強会の開催
・1日5回の確実な水分補給の促し
・水分摂取形態(液体・ジュレ・とろみ)の再評価と飲水タイミングの見直し
・寝具・空調調整をきめ細やかに行う事による体温管理の徹底
協力医療機関主催の地域医療連携研修会で高齢者の脱水について深く学び、フロアでの勉強会で研修内容を共有した。お茶を好まれない方用に、嗜好性にあったジュース、お茶ゼリーやフルーツ味のジュレなどを準備し、好みに合うもので摂取が出来るよう工夫。摂取時のムセは言語聴覚士に確認してもらい、状況に適したトロミ調節を行った。
(4)新型コロナウイルス・インフルエンザ等の感染症の予防について
・勉強会の開催
・環境整備時に居室の換気を必ず行うこと
・マスクの準備(必要時すぐ使うため)
・食事時の座席管理
換気のタイミングが曖昧だったため、居室の環境整備開始時に窓を開け、終了時に閉めることを徹底した。また、いざ陽性者が出たときの為に座席配置の工夫や座席表の管理を徹底した。
【結果と考察】令和5年度の入院件数は15件であり、前年(令和4年)の21件を下回った。誤嚥性肺炎は8件から4件に減り、尿路感染は7件から0件に大きく減少し、実施した事への効果を感じることができた。誤嚥性肺炎の予防については、作成したポスターを見て食前の口腔体操を自発的に取り組むご利用者がみられた。尿路感染については、リスク者の洗い出しも含めルーチンワークとなり通常業務として定着した。また、熱中症、脱水症、感染症等の勉強会を通して、水分摂取や体温調整、換気等の大切さを職員が改めて学んだことで、根拠のあるケアを皆で前向きに実施することが出来た。今回の取り組みは、年間を通してのフロア内の目標ではあったが、得た結果から、他のフロアも含め施設全体で取り組むことで、施設としてさらにご利用者の体調管理におけるケアの質が上がると感じた。老健は、“病気”について、医療職に任せがちになってしまうことが多い。しかし、介護のプロとして健康を維持する為のケアを常に意識することはとても大切である。定期的に学ぶこと、そして忙しい業務の中でも日々ケアを工夫していくこと、密にコミュニケーションを取ることが大切であると今回の取り組みを通して、改めて実感することができた。