講演情報
[15-O-A013-03]生涯現役!~競馬への情熱は誰にも負けない~
*藤本 純歌1、松田 浩一1、藤村 理沙1、高橋 光希1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設ハートフル瀬谷)
利用者が好きな競馬をとおして、生活の楽しみ・生きがい支援を行うことを目的とする個別ケアを実施したところ、以前は発話も少なくあまり活気がなかったが、競馬をとおして今までの職員との会話にはない反応や、豊かな表情でいきいきとされる様子がみられた。利用者の好きなことや生活の楽しみを取り入れた個別ケアは、利用者に活気が出て施設生活を楽しく送ることができ、生きがい支援に繋がるのではないかと考えた。
【はじめに】
私が所属する認知棟のフロアでは、職員約20人が4つのグループに分かれ、利用者45人に対して個別のケアを考え、実施している。ケアのための情報収集をするにあたり、まず利用者と職員で好きなこと・生活の楽しみについてコミュニケーションを図ってみたところ、ある利用者の好きなことが競馬だと知る。
今回、利用者の好きな競馬をとおして、実施したケースをもとに利用者の変化や個別ケアについて報告する。
【目的】
利用者が好きな競馬をとおして、生活の楽しみ・生きがい支援を行うことを目的とした。
【対象者】
80代 男性 要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度IIIa
既往歴:高血圧・糖尿病・狭心症・小脳梗塞
情報:日中は、食事の席でうとうとし、活気があまりない。職員の声掛けに対しても反応が乏しく、発話もあまり見られない。また、表情の変化も少ない。
【方法】
(1)毎週日曜日、午後15時からテレビで競馬観戦する。
(2)利用者が馬を予想して決め、施設で馬券とお金を作成する。
(3)食事時に利用者の好きな競馬のファンファーレを流す。
(4)日曜日の競馬観戦だけではなく、それ以外の日も競馬の動画視聴、食事の席に写真を置き、競馬の話題でコミュニケーションを図るなど、競馬に触れる時間を作る。
【結果】
(1)競馬観戦中は、いつも車椅子の背もたれによりかかっていた背中が、レース中は背中を起こして前かがみになり「よしいいぞ」と発話もあり、表情も活き活きとされている。
(2)日曜日の競馬に向けて木曜日から土曜日にかけて、利用者と職員で新聞を見ながら馬を予想して決める。利用者は自ら「この馬がいい」と自己選択・自己決定していることが分かった。
(3)日によってではあるが、食事摂取にムラがあり職員が食事介助を行うことがある。食事時に利用者の好きな競馬のファンファーレを流したところ、「食べる」と自らスプーンを持ちゆっくり自分のペースで食べることができた。また競馬のファンファーレはGIとGIIがあり、それぞれ音楽が違うため、GIからGIIに変わると「GIじゃなきゃだめだ」と話され、こだわりを持っていることも分かった。
(4)日中の余暇時間に利用者の好きな競馬の動画を視聴し、食事の席に好きな馬の写真を飾ることで普段はうとうとしていた時間が、自然と好きなものが視界に入ることで喜色満面な表情で有意義に余暇時間を過ごすことができた様子だった。また、利用者と職員で競馬の話題での会話や利用者にレースの結果を質問することで、発話が増え自ら話しかける様子もあり、今までの職員との会話にはない反応や表情を見ることができた。
競馬観戦後、利用者が予想した馬が1着になり当たると利用者から「髪の毛を切りに床屋に行きたい」と話され、競馬をとおして身だしなみにも意識がいくようになった。
【考察】
競馬の個別ケアをとおして、利用者の感情の表現が豊かになり、表情にも変化が見られ活気がでて発話も増えた。以前は、食事中、唾液が垂れることが多かったが、今では日によってではあるが、唾液が垂れることは少なくなった。これにより口の周りの筋肉を積極的に動かす機会を得られたことで、唾液の分泌を促進し、摂食・嚥下・発音機能の向上に繋がったのではないかと考えられる。
毎週日曜日の競馬観戦に向けて、利用者は新聞を見て自分でどの馬にするのか、考えて馬を予想して決めている。自分らしい生活を送るためには、自己選択・自己決定が必要でそれが尊厳の保持に繋がるのではないか。
昔から利用者は競馬が好きだったため、年齢を重ねても施設生活で昔のように競馬に触れることができたのは、認知症のリハビリテーションの1つとされている回想法に繋がるのではないかと考えられる。
対象の利用者は昔から現在まで競馬が好きで趣味となり生きがいになっている。
趣味や生きがいになることが1つでもあるだけで生活は豊かになり、それを楽しむことは健康増進に繋がり、楽しい日々を過ごすきっかけになる。
対象の利用者に「これからも競馬を続けたいですか?」と質問すると「やるしかないじゃん!」と一言で競馬への熱意や情熱は誰にも負けないことが伝わり、意欲があることが分かった。競馬好きな利用者が思っていたよりも周りに多かったため、現在は競馬倶楽部として活動している。普段は他利用者と交流する機会が少なかったが、競馬倶楽部では他利用者と会話をすることで脳への良い刺激になり、前向きな気持ちになる効果があるのではないか。
【まとめ】
今回、利用者の好きな競馬の個別ケアを実施するにつれて、初め職員は競馬のルールも分からず行っていたのが、利用者から競馬の知識や楽しみ方を教えてもらい、今では職員も競馬の魅力を知り、利用者だけではなく、職員も一緒に楽しく個別ケアを取り組むことができている。利用者1人1人に合った個別ケアを実施するには、担当職員が1人で抱えるのではなく、グループでより深く考え、多方面の視点から意見や思いを聞くことで更に良い個別ケアができる。そして何より大事なのが、利用者の生きがい支援・生活の楽しみに繋がるようにすることだ。そのためには、利用者のことをよく理解し、コミュニケーションを図り、利用者の立場になって考え、自分も受けたいと思えるような魅力あるケアにすることが大事である。
今回の報告で、利用者にとって昔から好きなことや生活の楽しみを取り入れた個別ケアは、生きがい支援に繋がるのだと見出すことができた。
今後も、利用者の好きなこと・生きがいになることや生活の楽しみに繋がりそうなことを深堀し、楽しい施設生活を送れるように支援していきたい。
私が所属する認知棟のフロアでは、職員約20人が4つのグループに分かれ、利用者45人に対して個別のケアを考え、実施している。ケアのための情報収集をするにあたり、まず利用者と職員で好きなこと・生活の楽しみについてコミュニケーションを図ってみたところ、ある利用者の好きなことが競馬だと知る。
今回、利用者の好きな競馬をとおして、実施したケースをもとに利用者の変化や個別ケアについて報告する。
【目的】
利用者が好きな競馬をとおして、生活の楽しみ・生きがい支援を行うことを目的とした。
【対象者】
80代 男性 要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度IIIa
既往歴:高血圧・糖尿病・狭心症・小脳梗塞
情報:日中は、食事の席でうとうとし、活気があまりない。職員の声掛けに対しても反応が乏しく、発話もあまり見られない。また、表情の変化も少ない。
【方法】
(1)毎週日曜日、午後15時からテレビで競馬観戦する。
(2)利用者が馬を予想して決め、施設で馬券とお金を作成する。
(3)食事時に利用者の好きな競馬のファンファーレを流す。
(4)日曜日の競馬観戦だけではなく、それ以外の日も競馬の動画視聴、食事の席に写真を置き、競馬の話題でコミュニケーションを図るなど、競馬に触れる時間を作る。
【結果】
(1)競馬観戦中は、いつも車椅子の背もたれによりかかっていた背中が、レース中は背中を起こして前かがみになり「よしいいぞ」と発話もあり、表情も活き活きとされている。
(2)日曜日の競馬に向けて木曜日から土曜日にかけて、利用者と職員で新聞を見ながら馬を予想して決める。利用者は自ら「この馬がいい」と自己選択・自己決定していることが分かった。
(3)日によってではあるが、食事摂取にムラがあり職員が食事介助を行うことがある。食事時に利用者の好きな競馬のファンファーレを流したところ、「食べる」と自らスプーンを持ちゆっくり自分のペースで食べることができた。また競馬のファンファーレはGIとGIIがあり、それぞれ音楽が違うため、GIからGIIに変わると「GIじゃなきゃだめだ」と話され、こだわりを持っていることも分かった。
(4)日中の余暇時間に利用者の好きな競馬の動画を視聴し、食事の席に好きな馬の写真を飾ることで普段はうとうとしていた時間が、自然と好きなものが視界に入ることで喜色満面な表情で有意義に余暇時間を過ごすことができた様子だった。また、利用者と職員で競馬の話題での会話や利用者にレースの結果を質問することで、発話が増え自ら話しかける様子もあり、今までの職員との会話にはない反応や表情を見ることができた。
競馬観戦後、利用者が予想した馬が1着になり当たると利用者から「髪の毛を切りに床屋に行きたい」と話され、競馬をとおして身だしなみにも意識がいくようになった。
【考察】
競馬の個別ケアをとおして、利用者の感情の表現が豊かになり、表情にも変化が見られ活気がでて発話も増えた。以前は、食事中、唾液が垂れることが多かったが、今では日によってではあるが、唾液が垂れることは少なくなった。これにより口の周りの筋肉を積極的に動かす機会を得られたことで、唾液の分泌を促進し、摂食・嚥下・発音機能の向上に繋がったのではないかと考えられる。
毎週日曜日の競馬観戦に向けて、利用者は新聞を見て自分でどの馬にするのか、考えて馬を予想して決めている。自分らしい生活を送るためには、自己選択・自己決定が必要でそれが尊厳の保持に繋がるのではないか。
昔から利用者は競馬が好きだったため、年齢を重ねても施設生活で昔のように競馬に触れることができたのは、認知症のリハビリテーションの1つとされている回想法に繋がるのではないかと考えられる。
対象の利用者は昔から現在まで競馬が好きで趣味となり生きがいになっている。
趣味や生きがいになることが1つでもあるだけで生活は豊かになり、それを楽しむことは健康増進に繋がり、楽しい日々を過ごすきっかけになる。
対象の利用者に「これからも競馬を続けたいですか?」と質問すると「やるしかないじゃん!」と一言で競馬への熱意や情熱は誰にも負けないことが伝わり、意欲があることが分かった。競馬好きな利用者が思っていたよりも周りに多かったため、現在は競馬倶楽部として活動している。普段は他利用者と交流する機会が少なかったが、競馬倶楽部では他利用者と会話をすることで脳への良い刺激になり、前向きな気持ちになる効果があるのではないか。
【まとめ】
今回、利用者の好きな競馬の個別ケアを実施するにつれて、初め職員は競馬のルールも分からず行っていたのが、利用者から競馬の知識や楽しみ方を教えてもらい、今では職員も競馬の魅力を知り、利用者だけではなく、職員も一緒に楽しく個別ケアを取り組むことができている。利用者1人1人に合った個別ケアを実施するには、担当職員が1人で抱えるのではなく、グループでより深く考え、多方面の視点から意見や思いを聞くことで更に良い個別ケアができる。そして何より大事なのが、利用者の生きがい支援・生活の楽しみに繋がるようにすることだ。そのためには、利用者のことをよく理解し、コミュニケーションを図り、利用者の立場になって考え、自分も受けたいと思えるような魅力あるケアにすることが大事である。
今回の報告で、利用者にとって昔から好きなことや生活の楽しみを取り入れた個別ケアは、生きがい支援に繋がるのだと見出すことができた。
今後も、利用者の好きなこと・生きがいになることや生活の楽しみに繋がりそうなことを深堀し、楽しい施設生活を送れるように支援していきたい。