講演情報

[15-O-A013-04]「もう一度家族と出かけたい」本人と家族の思いの共有「心が動けば、身体が動く」

*福井 望1、青木 千里1、勝原 美智子1、重川 智明1 (1. 島根県 介護老人保健施設ケアセンターきすき)
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脳梗塞の発症後、リハビリを通して取り戻して行った自信とリハビリを続けていく中で後遺症によって思い通りに動かない身体に悩みながらも、家族の声援を受け、再び目標と向き合いながら回復されたケースを報告を報告する。
(はじめに)
当施設は平成11年11月開設。一般棟30床・認知症専門棟30床、計60床の単独施設である。専門的リハビリだけでなく、レクリエーションや日常生活動作の中での生活リハビリなどを通して、在宅復帰を目標として生活を送って頂いている。
 入所後 リハビリを通して取り戻した自信とリハビリを続けていく中で、後遺症により思い通りに動かない身体に悩みながらも、家族の声援を受け、再び目標と向き合いながら回復されたケースを報告する。
(経過)
R2.7 腰痛症と診断され約2か月間入院・退院後当施設に4か月間入所し在宅復帰される。
R5.11 在宅生活中にアテローム脳梗塞を発症。現状では在宅復帰困難との事でR6.1に当施設に入所となる。
(脳梗塞発症前の状態)
A氏 88歳 介護度2 障害自立度 B2 認知症自立度 IIa HDS-R17点(R2.7)
(脳梗塞発症後の状態)
A氏 88歳 介護度2 障害自立度 B2 認知症自立度 IIa HDS-R13点(R6.1)左不全麻痺あり。
上肢麻痺は目立たないも、左下肢の引きずりや小刻み歩行あり。主な移動手段は車椅子。
(入所後の様子)
以前のご利用時より全体的なADLの低下見られる。
 入所当初は混乱もあり家族を探される場面や「ダメになったわ」「歩けんくなったわ」等の悲観的な言動が多く聞かれた。
 また、左半側空間無視にて左側への注意が活きにくい状態だった為、生活動作の中で左を意識して頂く様に声掛けを行う。排泄面では希望時や定期的な声掛けでトイレへのご案内を行い、ズボンの上げ下ろしは見守りと不十分な所の一部介助を行うも、時々パットへの汚染が見られた。
 R6.2施設生活にも慣れて来られ、他の方々との生活の中で刺激を受けられた様子で本人の意識・生活動作に前向きな変化が見られる様になった。その頃より徐々に左側への注意も以前より向くようになった。排泄面でも自発的な訴えが増え、入所当初より排泄動作が安定してきた。また居室に交換用のパットと汚れたパット入れを設置し本人に説明を行う事で、自力でのパット交換も行う事ができた。
 R6.4排泄の汚れたパットの数が徐々に減り、現状ではパット汚染はないが、ズボンの上りが甘い時に少し介助を行う程度となられる。
 排泄面が自立になられた頃、リハビリ時に本人から「また歩けるようになりたい」という希望が聞かれた。歩行訓練はリハビリ時のみで生活の場では行っていなかったが、多職種と情報の共有を行い、生活の場での歩行訓練が開始となった。歩行訓練の注意点として恐怖心・右膝内反変形による右膝痛の出現があげられた。距離と頻度は本人と相談を行い、歩行訓練はリハビリでも使用していた老人車を使用し、時間帯を決めて日に1回、自室から食堂までの導線を歩いて頂く事から始めていく事となった。
 訓練時、老人車歩行の立ち上がり、歩きはじめに恐怖心がみられ、歩いておられる左側に職員が付き添い「支えているので大丈夫ですよ」など安心感を与える声掛けを行い歩行して頂いた。無意識で麻痺のある左足がすり足になられる為、歩行リズムを作るように意識して頂く声掛けを行った。そうする事で歩行リズムが整い小刻み歩行・すり足が軽減傾向になられた。右膝の痛みある時には無理せず歩行も中止した。
 訓練開始2か月頃、本人より訓練に対して悲観的な訴え聞かれ、その後も歩行訓練は続けておられるが、モチベーションの低下は感じられた。
 居室には、家族と旅行に行かれた時の写真や、遠方に住んでおられるお孫様から届いた季節の花がかたどられたお手紙などが飾ってあり、お手紙には「おばあちゃんリハビリ頑張ってね」とA氏を励ますようなメッセージ見られた。写真やお手紙の話をすると「それは孫と温泉に行った時の写真だわ」と行った時の事を嬉しそうに話されたが、「また行けるといいですね」と問うと「もう無理だわ。家族も行けれんって思ってるけん」と諦めておられる様子や迷惑かけると家族に遠慮されている様に感じられた。
 リハビリの進行具合に問題はないが、モチベーションを持続する為にはどうしたら良いかを検討、家族に現状の説明を行い、実現可能な目標を一緒に考えて頂き、近場での外出という目標を設定し面会時に家族から直接本人に伝えて頂く事としました。本人も目標に対して前向きな姿勢が見えるようになり、リハビリに取り組まれるようになった。また、「家族様と出かけたいですね」という問いに以前は否定的な返答が聞かれていたが、「そうだね」と返答の変化も見られ、精神的にも落ち着かれたのではないかと思われる。
 今回R6.1~R6.7までの活動をまとめた物であり、現在も本人は家族との外出を目標にリハビリを続けている。
<まとめ>
悲観的な言動が多く聞かれていた入所当初に比べ、排泄面・動作を意識的に頑張っておられ、一つずつ目標を達成していく事で自信に繋がり、諦めていたA氏の中にあった本来の気持ちを引き出す事ができ、次の目標に向けての意欲が生まれたのではないだろうか。
 だが、歩行練習を通して病気の後遺症と向き合っていく中で、歩きたい・以前の様に動けるようになりたいという気持ち(モチベーション)の維持を保つ事ができず、自信・意欲の低下に繋がった事も確かである。リハビリを続けていくという事は、身体的負荷と精神的負荷を伴う事であり、一人の力だけではなかなか乗り切る事は難しい事です。しかし、家族の応援や共に話をされていくの中でA氏と家族の中で共有すべき目標ができ、「心が動けば、身体が動く」と言う言葉があるように、A氏に再び動き出す力を与えたのではないかでしょうか。
 現在も計画継続中ではあるが、施設ケアマネージャーを通して再度、本人・家族に今後の希望を確認し本人と職員での会話でなく、本人と家族で話し合い、今後の目に見えて実現可能な目標を設定し本人の意欲の向上を図り、目標実現に向けて働きかけれればと考える。