講演情報

[15-O-A014-01]当施設におけるノーリフトケア推進の取り組みアンケート調査を活用して

*吉長 哲平1、水口 亮1、大森 隆史1、村上 新之助1 (1. 大阪府 介護老人保健施設 永寿ケアセンター)
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介護事業における腰痛は、介護業界だけではなく我が国の大きな課題となっている。当法人としては数年前よりノーリフトケアの取り組みを進めてきたという経緯はあるものの、介護現場に十分に浸透・ケア内容の検討についての活用には至っていない状況があった。今回、ノーリフトケアの推進を図るべく研修の実施や介護場面等での推進活動・アンケートを実施したため報告する。
【はじめに】
日本では2013年に「職場における腰痛予防対策指針」が改定され、「人力での抱え上げは、原則行わせない。リフトなど福祉機器の活用を促す」ことが明示されている。しかし、厚生労働省「令和2年 業務上疾病発生状況等調査」によると、看護・介護業界含む保健衛生業は負傷に起因する疾病による休業4日以上の件数が最も多く、その主な原因が腰痛である。全業種の腰痛件数が5,582に対し、うち保健衛生業は1,944と全体の約3割を占めている。また、介護事業における労働災害は、動作の反動・無理な動作による腰痛の割合が41%である。さらに腰痛などは介助作業で発生している割合が84%となり、腰痛が原因で1ヶ月以上休業する人が43%もいることが示されている。
現在でも腰痛を患う従事者が多く、腰痛により離職を余儀なくされる方も少なくないのが現状である。ただでさえ深刻な人手不足である介護業界では、介護人材確保のためにもノーリフトケアの重要性が高まっている。
ノーリフトケアとは、オーストラリアで腰痛による労災が多く発生していたため、腰痛予防・改善を目的に1998年オーストラリアで提唱されたものである。ノーリフトケアはリフト機器を使用することを指すのではなく、ノーリフティングポリシーという概念に基づくケアであり、『押さない』『引かない』『持ち上げない』『ねじらない』『運ばない』という基本的な考え方がある。オーストラリアでは、ノーリフトケアの推進の効果として労災申請に伴う費用が減少(66パーセント減少)したという実績がある。
【当施設の状況】
当法人としての事業計画にもノーリフトケアに対する取り組みを挙げており、日本ノーリフト協会が開催する研修であるベーシックコース・アドバンスコースの修了者も養成している状況である。しかし、施設全体として十分な取り組みを行えていなかったため、まだまだ現場レベルでのノーリフトケアの基本的な考え方となるノーリフティングポリシーの理解が進んでいなかったり、そもそもノーリフトケアって何?という従業員もいる状況である。理学療法士による訓練場面においては、負担軽減のために2名対応で立位・歩行訓練を行なうことが必要な場面であっても、それを1名で行なうことが技術であると長らく考えてきた風潮がある。また、介護場面においてもトランスファーボードやスライディングボードの存在を知っていても、積極的に活用できていなかった状況がある。
【当施設での取り組み】
今回、施設全体としてノーリフトケアに取り組むに当たり施設内での会議で、取り組み方法や指標等を検討した。
まず、現状のノーリフトケアの理解度及び腰痛の状況に対しアンケートを実施し、現状を把握することとした。その状況に合わせて日本ノーリフト協会の研修を受けた看護師・介護士・理学療法士及びベーシックコース・アドバンスコース修了者が日常業務の中でのノーリフトの浸透を図ると共に、全従業員に対してノーリフトケアの施設内研修を実施することとした。その上で再度ノーリフトケアのアンケートを実施することとした。
取り組み前のアンケートは令和5年12月に実施。取り組み期間は6ヶ月間。再度のアンケートは令和6年6月に実施した。アンケートとしては、施設従業員81名を対象に『ノーリフトケアという言葉を知っているか?』『どの程度理解できているか?』『日常業務においてノーリフトケアの考え方が活かされているか?』『現在腰痛があるか?』といった項目に対して選択肢を選ぶ形式で実施した。
【取り組みの結果】
ノーリフトケアという言葉を知っているか?については、知っているが63%から100%に向上した。どの程度理解できているか?については、ある程度及びかなり理解できているが22%から68%に向上した。日常業務においてノーリフトケアの考え方が活かされているか?については、かなり及びある程度活かされている14%が52%に向上した。現在腰痛があるか?については、程度の差はあるものの86%の従業員が腰痛ありとの結果だったのが84%と著変ない状況だった。
【考察】
今回の取り組みはノーリフトケアの推進を目的としたものであり、アンケート結果から理解度の向上や日常業務での活用についての効果を示す結果となったと考える。また、取り組み前の腰痛については厚生労働省のデータ通りの86%が腰痛を抱える状況が確認されたため、あらためてノーリフトケア推進の必要性を示す結果となった。しかしながら、現状として腰痛改善としての効果には繋がっていないため、継続した取り組みが必要であると考えられた。
【おわりに】
今まで学んできた技術が、ノーリフトケアに通じていることは多分にあるため、決してそれらを否定する必要なないと考える。しかし、様々な機器やテクノロジーが開発される中、それらを上手に活用することで、従業員の負担軽減やケアの質の向上に繋げていくことが重要であると考える。