講演情報

[15-O-A014-02]接遇と向き合い丁寧なケアへ

*萩原 昭宏1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設リハリゾートわかたけ)
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当施設では近年接遇の乱れが出てきていると感じており、この課題をそのままにせず解決するため、施設全体での取り組みを提案実施しため報告する。聞き取りとアンケート調査にて課題につながる要因の抽出を行い、施設内で接遇インストラクターを配置し、課題解決への取り組みを行った結果、職員の仕事に対する意識といきいき度を上げることに成功したと考えられたので報告した。
【はじめに】
当法人、若竹大寿会は、職員全員が一丸となって人を幸せにするという経営理念を掲げ、人を大切に、そして人が大切にされる世の中を創るために存在している。また、若竹大寿会の最大の特徴は、仕事に取り組むまじめさ、そして職員の優しさと質の高さであると自負している。
当施設リハリゾートわかたけは、平成10年に開所した多床室中心、3階建て143床の従来型施設である。ブロック間に仕切は無くブロック合同での活動が多くなっている事や、職員の行き来が多いことから、職員間の相互性が良くも悪くも影響していると感じる。
人の幸せを考え提供していく事が、法人理念にあるにも関わらず、当施設では近年接遇の乱れが出てきていると感じており、この課題をそのままにせず解決するため、施設全体での取り組みを提案実施した。まだ実績としては、多いとは言えないが施設内環境に変化が出てきているため、その内容を報告する。
<研究目的>
接遇を整え丁寧なケアへ繋げる
<研究方法>
研究デザイン:調査研究対象:施設内職員全員を対象
<研究期間>
2023年1月~2024年7月
<倫理的配慮>
対象者には研究の意義を文書で説明し、協力に関する同意を得た。
また、その結果の発表においても、個人を特定しないことで同意を得ている。
<取り組み内容>
1.ケアスタッフ会議にて不適切ケアの抽出
2.身体拘束廃止委員会にて不適切ケアの抽出
聞き取り調査にて現状把握を行う
3.職員ストレスチェックアンケート実施
不適切ケアに繋がる要因を探る
4.接遇インストラクター養成講座受講接遇のプロを育成する
5.委員会立ち上げ
施設全体へ広げる

【結果及び考察】
まず初めに現状を把握するため、ケアスタッフ会議や身体拘束委員会にて不適切なケアが起きていないか、なぜ不適切なケアに繋がってしまうのか聞き取り調査を行ったところ、他の職員が不適切な声掛けやコミュニケーションを行っていると感じたことがある。忙しさから、ついそっけない態度を取ってしまう事がある。先輩職員も同じような声掛けを行っていたので良いかと思って真似してしまった。等の内容があがった。
その後、全職員を対象にストレスチェック分析を行った結果、マンネリ化された業務からか、燃え尽き感がある。いきいき度の数値が下がっている。前向きに捉えることができずワークエンゲージメントが低い。コロナ5類移行後、急増した家族対応等に対する不安感が強い。認めて欲しい・褒めて欲しい・成長の機会が欲しい等の数値が高く出ており、不適切なケアに繋がる要因が明確になってきた。
まず、多数の職員が、不適切なケアを行ってしまっている自覚や、他職員のケアが不適切であると感じたことがあると答えている事が分かった。冒頭にあるように、部署関係なく、他職員のケアを目にする機会が多いことからもこの結果に繋がっていると考える。何を持って不適切なケアと感じているかについては、ご利用者様への声掛けや関わり方が家族的になってしまっており、サービスを提供する側として、プロの接遇とはなっていない事等が多くあげられていた。全職員が研修で接遇を学んでいるが、時間の経過とともに得た知識が薄れていることも今回の聞き取りで明確になった。また、上司から評価してほしいと感じている職員が一定数いることから、職員の適性をみながら仕事を振り分けることでやりがいに繋げることや、評価が実感できる環境を整え、いきいき度やワークエンゲージメントを上げていく事も必要であると考える。
介護部だけではなく、施設全体での取り組み課題として接遇の強化を行いたい旨を施設管理者へ相談し、日本接遇教育協会による介護接遇インストラクター養成講座を受講することとなる。この講座では、接遇を学ぶのではなく、接遇をどのように教えていくかを学ぶ講座となっている。施設内で新たに、接遇インストラクターというポジションを配置することにし、4名の職員にインストラクターを担ってもらう事にした。
この4名を中心として委員会を立ち上げ、施設年間スケジュールに接遇研修を定期的に組み込むことで、継続して接遇を意識できる環境を整えると共に、施設内の表彰制度を活発化し認め合える環境を作ることを依頼した。
また、他職員との差別化を図る事を目的として、名札に付けることのできるオリジナルピンバッチの作成を進めており、インストラクター本人たちだけでなく、バッチを見た職員の意識も高まり、インストラクターが、担当業務として不適切なケアを指摘しやすい環境が整っていくと考えている。

【まとめ】
リハリゾートわかたけでは、丁寧な介護をテーマに日々活動しており、三大介護を丁寧にするためにはどうするべきか、ケアの技術だけでなく、丁寧な声掛けはどのようにするべきかなどを職員皆で日々考えている。インストラクターによる勉強会を通じて全部署で接遇レベルを合わせる事ができるだけでなく、施設内表彰制度を開始したことで、職員間で認め合える環境を作ることが出来たことから、介護部だけではなく、施設全体での取り組みとして動け出せたことが大きな成果だと考えている。
インストラクターは大変な役割だが、勉強会資料の作成、表彰システムの構築、入職職員受入時の対応等、この短期間だけでも、本人達の取り組み姿勢の変化を感じることができた。自分たちで決め、自分たちで動くことで、意識も高まり、いきいき度もあがっているように感じた。環境が整い始めたことで、施設での行事や企画も活発になって来ており、率先して企画を立てる職員も増えたことも取り組みの成果と感じた。忙しい・大変を不適切ケアに繋げてしまいがちだが、その中でいかに相手の事を思いやり、丁寧に関わることができるかが大切である。接遇力を高めることで、本来あるべきコミュニケーションを整え、介護という仕事の本来の楽しみに繋げていきたいと思う。