講演情報
[15-O-A015-01]当施設における持ち込み食の扱いと、取り組み
*伊澤 高輝1 (1. 徳島県 医療法人平成博愛会 平成アメニティ)
当施設では「その人らしさを支えたい」という新たな理念のもと、持ち込み食に関する対応を大きく変更した。利用者が食べたい物を持参してもらい、迅速な提供を目指すためのルールを設定した。職員と利用者の戸惑いはあったが、改善策を講じることで成功事例も生まれた。今後は、利用者や家族の意見を反映し、より満足度の高いサービスを提供するための取り組みを続けていきたい。
【はじめに】当施設ではグループ理念の更新に伴い、持ち込み食に対しての対応も大きく変更された。新たな理念は「その人らしさを支えたい」となり、これは病前の生活に可能な限り近い環境で過ごしていただきたいという思いから設定された。この取り組みを始めて1年が経過したため取り組みの内容や結果を振り返り、今後の課題を報告する。【取り組み内容】今回の取り組みを始める前は、嚥下状態や栄養状態を考慮し持ち込みできる食物を利用者ごとに制限していた。また、提供のタイミングもそれぞれが異なっていた。この時の問題点として以下の3つが挙げられる。1.持ち込まれたものの提供が可能かどうかを医師、言語聴覚士、管理栄養士に確認が必要であり、提供まで時間がかかること。2.確認の結果、提供ができない場合は家族に理由を報告し返却か破棄する。3.持ち込みを受け取る職員がバラバラであったため、対応に一貫性がなかった。これらの問題点も考慮しつつ、より病前の生活に近づけるよう関係職種で協議を行い、当施設で以下の通り新たなルールを設定した。1.嚥下状態、栄養状態に関わらず、まずは持ち込みに関する制限はなしとする。2.持ち込み物は一度施設受付で預かり、提供方法を専門職種で検討した後、可能な限り提供する。3.提供を迅速に行うため電子カルテを利用し情報共有を行う。以上のことを職種に関わらず全ての職員が対応できるよう全体周知し、取り組みを開始した。【利用者・職員の反応】 実際に取り組みを開始した直後は、利用者、職員ともに戸惑う様子が見受けられた。特に多かった問題点を以下に挙げる。受付を通さず直接利用者に渡してしまうこと。受付職員以外が預かった場合、どのように扱っていいかわからない。電子カルテの使い方に不安がある。等といった問題がみられた。対策としてそれぞれ、受付職員が声掛けを行い、持ち込み物がないか確認を行う。職員への再周知とロールプレイ、持ち込みに対しての電子カルテのマニュアル作成を行った。また不安があればルールを設定した職員に指示を仰ぐ様に声掛けを行った。上記対策により、徐々に理想通りの提供が行えるようになり、当グループの理念にそった場面が見られるようになった。【成功事例】 今回の取り組みを行う中で、成功したと考えられる例を紹介する。・食欲不振により食事摂取量が低下している症例で、家族が頻繁に来所し心配されていた。家族から、昔よく食べていたものを持って来たいという声が聞かれたため、担当の言語聴覚士が持ち込みの提案を行った。話し合いの結果、在宅で過ごされていた際によく食べていたお寿司屋さんの海鮮ちらしを家族と共に摂取する運びとなった。当時の施設での食事形態は嚥下調整食4で、持ち込み物は常菜レベルであった。そのため提供時に言語聴覚士も同席し、適宜具材を切るなど形態を調整しながら提供した。家族にも一緒に同じちらし寿司を食べていただき、在宅のことを想起できる環境で摂取してもらうことで、普段よりも多く摂取することができた。副次的効果として普段の食事でも「またお寿司食べましょうね。」等の声掛けを行うことで、摂取量の向上がみられた。家族からも、お喜びの言葉をいただいた。その後も好物を持ち込まれ、現在も経口摂取を継続することができている。【現状の課題】 今回の取り組みによって持ち込みの種類の制限はなくなったが、提供のタイミングは栄養の調整のため食事時になることが多い。また当施設は利用者の重症度も高く、嚥下状態が不良な方も多い。居室のフロアも分かれているため自己管理となると窒息や誤嚥、食べ過ぎに繋がる恐れがある。そのために施設管理となり、在宅のように、自由な時間に摂取する事ができていない。このことを不満に思われる利用者もおり、食べ物を隠して持ち込まれる事例もみられた。安全の為と説明させていただき、多くの家族に協力いただけた。しかし中には協力が得られない方もおり、退所されるまでルール外の持ち込みが続く事例もみられた。理由としては在宅に比べると制限が多い等の意見が聞かれた。このことから施設側と利用者・家族側での認識の違いが認められ、双方が納得のできるルール作りが求められる。【今後の展望】 今回の取り組みとしては喜びの声が多く、概ね成功であったが課題も残る結果となった。今後は定期的に職員で話し合いの場を設け、利用者や家族の意見等も取り入れてルールの見直しを行いたい。そうすることで利用者のことを第一に考え、職員の負担も考慮しつつ、本人・家族に満足していただける施設を目指していきたいと考える。