講演情報
[15-O-A015-02]看取り期の食事対応フローチャートを活用した取り組み最期まで食べる支援の可視化
*足立 由里佳1、渡部 静登1、遠藤 千晶1、松本 直子1、渡部 佐枝子1、粟木 悦子1 (1. 鳥取県 鳥取県済生会介護老人保健施設はまかぜ)
食事において本人や家族の食事への思いを共有し、最期まで食べる支援を行う目的で食事ケアチームを発足し“看取り期の食事対応フローチャート”を作成し活用した。各職種や家族の段階的役割と提供可能な食事内容を可視化したことで状況に合わせた食事の提供や家族の看取りへの介入を促し最期まで自分らしく食べる支援につながった。ケアの可視化により職員の不安も軽減されたと考えられたので報告する。
【はじめに】
医療と介護の一体改革により、中間施設である介護老人保健施設でも看取り希望が増えている。看取りケアにおいて多くの場合、食事量の減少、誤嚥リスクの増大が認められる。当施設でも本人が「何を食べたいか」よりも「何なら食べられるか」で食事が提供され、ケアに後悔することもあった。そこで美味しく食べられるうちに本人や家族の意向を汲み取り、各職種がお互いの専門性を尊重し、食べたいものを食べられる量だけ摂取できる支援が必要と考えた。今回、看取り食事ケアチームを発足し各職種のケアを可視化した看取り期の食事対応フローチャートを作成したので、管理栄養士の立場からチームの取り組みについて症例を報告する。
【目的】
食事ケアチームで“看取り期の食事対応フローチャート”(以下フローチャートとする)を作成し、食事ケアにおいて各職種の専門的、段階的役割を可視化することで、本人や家族の思いを多職種で共有し最期まで美味しく食べる支援を行う。
【方法】令和5年4月より多職種(医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、管理栄養士、ケアマネ)で看取り食事ケアチームを発足した。今回の取り組みでは看取り前期(病状の変化が月単位と考える時期)、中期(病状の変化が週単位と考える時期)における食事ケアのガイドラインとしてフローチャートを作成した。
(1) 症例紹介(入所時)
100歳、女性、要介護4、身長155cm、32.2kg、BMI13.4
病歴:アテローム血栓性脳梗塞発症、左片麻痺。入院前はADL自立
食事:自力摂取、摂取量(主食10割、副食ムラあり)
食事形態:嚥下調整食2-2程度、ハーフ食600kcal(全粥とろみ、なめらか食+ブリックゼリーR88kcal/個/食+有糖ゼリー50kcal、提供栄養量1000kcal、蛋白30g、水分1000ml
(2) 経過(※は主な支援者)
~入所時アセスメント~
本人は施設には入りたくないが、息子の入院による介護力不足で入所となる。フードテストではゼリー嚥下で酸素飽和度が90%以下に低下、摂取量にムラあり。
~初回カンファレンス後~
入所1ヵ月)甘味好まずブリックゼリーR付加を中止し、本人に負担のないよう食欲に合わせた食事量(600kcal水分700ml程度)とした。
入所3ヶ月)食事を減量後はムラはあるが自力で全量摂取することもあり状態は安定していた。体重は徐々に減少がみられた(33.5kg→30.8kg)。
~看取り期対応~
前期(病状の変化が月単位)における支援:食事摂取量の低下、日常生活が安定している
入所4ヶ月)全介助でも食事量80%(500kcal)、嘔吐もあるため看取りの近いことを家族へ説明、同意を得る。※看護師
傾眠傾向となり耐久性が低下しチルト車椅子へ変更。※リハビリ
食べたいものの差し入れを家人に依頼する※管理栄養士。
食べたいもの、1)焼きいも、家人が自家栽培のサツマイモを茹でて持参し、安全に食べられるようペースト状にし見守りで食べる。2)豆腐みそ汁、好物の炒め物(ジャガイモ、玉ねぎ、トマト)、見守りで形態はそのままを笑顔で食べる。※家人・多職種
中期(病状の変化が週単位)における支援:自立度が急激に低下、身体的精神的苦痛の増強
75日前)摂取量は0~100%とムラあるが介助で平均50%(300kcal)未満、水分摂取量減少、尿量300mlに減少、状況を家族へ報告する。※介護士、看護師
26日前)個室の特別室へ転室※ケアマネ
粒は飲み込みにくく全粥ミキサー、朝夕のみの2回食(330kcal、蛋白15g水分300ml) へ食事形態及び回数変更。※管理栄養士
車いすからベッドギャッジ座位30度、全介助とする※リハビリ
21日前)内服で嘔気誘発し食事も進まないことを医師へ報告、内服を全面中止。※医師・看護師
16日前)誕生日のお祝いケーキのムースの部分を家人の介助で食べる。※家人・介護士
外泊希望がある。家に帰してあげたい。※家人
外泊中の食事形態及び介助方法について指導する。※多職種
14日前)外泊される。昼、夕食も手作りでペースト状の食事、すりおろしリンゴも食べた。※家人
10日前)ミールラウンドで嚥下不良がみられ、食事は主に水分に変更する。(朝)味噌汁とろみ、フルーツペースト(昼)ジュースとろみ、フルーツペースト ※管理栄養士
8日前)昼食にとろみイオン飲料を介助で摂取するが嘔気様動作あり、看護師へ報告。医師より食事中止の指示。家族へ食事中止の報告。※医師、看護師、介護士
後期(病状の変化が週単位)における支援:臥床する時間が長くなる
5日前)口渇の訴えある。白色痰貯留多く吸引後、濃いトロミでイオン飲料100mlを介助で補給※介護士
4日前)粘稠痰多く吸引の必要がある状況を家人へ報告。※師長
水分摂取不可となる。口渇の訴えあり、ポカリを舌先に湿らせ美味しいとうなずく※介護士
当日)看護師により臨終の近いことを家族に報告、家族は臨終に立ち会うことができた。※家族、多職種
【結果・考察】
今回の取り組みでは、ケアを可視化したことで多職種が段階的なケアを確認し、お互いの情報を共有することができた。看取り前期、中期を通して「食べたいものを食べられる量だけ摂取できる支援」を共通ケアとした結果、職員の看取り期における食事ケアの対応に変化があった。以前は摂取量を維持するための栄養士への相談が多かったが、フローチャートを使用したことで、経口摂取が可能な時期に食べたいものを少しでも美味しく食べる支援へと繋がったと考える。
【おわりに】
管理栄養士としては栄養量の設定にとらわれず、家族と協力して最期まで美味しく食べる支援ができ、ご本人やご家族の思いに寄り添うことができたと考える。今後もチームの取り組みとして、職員やご家族へのアンケートを実施し、フローチャートの効果を検証、改善し、多職種で看取りケアの質の向上に努めていきたい。
医療と介護の一体改革により、中間施設である介護老人保健施設でも看取り希望が増えている。看取りケアにおいて多くの場合、食事量の減少、誤嚥リスクの増大が認められる。当施設でも本人が「何を食べたいか」よりも「何なら食べられるか」で食事が提供され、ケアに後悔することもあった。そこで美味しく食べられるうちに本人や家族の意向を汲み取り、各職種がお互いの専門性を尊重し、食べたいものを食べられる量だけ摂取できる支援が必要と考えた。今回、看取り食事ケアチームを発足し各職種のケアを可視化した看取り期の食事対応フローチャートを作成したので、管理栄養士の立場からチームの取り組みについて症例を報告する。
【目的】
食事ケアチームで“看取り期の食事対応フローチャート”(以下フローチャートとする)を作成し、食事ケアにおいて各職種の専門的、段階的役割を可視化することで、本人や家族の思いを多職種で共有し最期まで美味しく食べる支援を行う。
【方法】令和5年4月より多職種(医師、看護師、介護福祉士、理学療法士、管理栄養士、ケアマネ)で看取り食事ケアチームを発足した。今回の取り組みでは看取り前期(病状の変化が月単位と考える時期)、中期(病状の変化が週単位と考える時期)における食事ケアのガイドラインとしてフローチャートを作成した。
(1) 症例紹介(入所時)
100歳、女性、要介護4、身長155cm、32.2kg、BMI13.4
病歴:アテローム血栓性脳梗塞発症、左片麻痺。入院前はADL自立
食事:自力摂取、摂取量(主食10割、副食ムラあり)
食事形態:嚥下調整食2-2程度、ハーフ食600kcal(全粥とろみ、なめらか食+ブリックゼリーR88kcal/個/食+有糖ゼリー50kcal、提供栄養量1000kcal、蛋白30g、水分1000ml
(2) 経過(※は主な支援者)
~入所時アセスメント~
本人は施設には入りたくないが、息子の入院による介護力不足で入所となる。フードテストではゼリー嚥下で酸素飽和度が90%以下に低下、摂取量にムラあり。
~初回カンファレンス後~
入所1ヵ月)甘味好まずブリックゼリーR付加を中止し、本人に負担のないよう食欲に合わせた食事量(600kcal水分700ml程度)とした。
入所3ヶ月)食事を減量後はムラはあるが自力で全量摂取することもあり状態は安定していた。体重は徐々に減少がみられた(33.5kg→30.8kg)。
~看取り期対応~
前期(病状の変化が月単位)における支援:食事摂取量の低下、日常生活が安定している
入所4ヶ月)全介助でも食事量80%(500kcal)、嘔吐もあるため看取りの近いことを家族へ説明、同意を得る。※看護師
傾眠傾向となり耐久性が低下しチルト車椅子へ変更。※リハビリ
食べたいものの差し入れを家人に依頼する※管理栄養士。
食べたいもの、1)焼きいも、家人が自家栽培のサツマイモを茹でて持参し、安全に食べられるようペースト状にし見守りで食べる。2)豆腐みそ汁、好物の炒め物(ジャガイモ、玉ねぎ、トマト)、見守りで形態はそのままを笑顔で食べる。※家人・多職種
中期(病状の変化が週単位)における支援:自立度が急激に低下、身体的精神的苦痛の増強
75日前)摂取量は0~100%とムラあるが介助で平均50%(300kcal)未満、水分摂取量減少、尿量300mlに減少、状況を家族へ報告する。※介護士、看護師
26日前)個室の特別室へ転室※ケアマネ
粒は飲み込みにくく全粥ミキサー、朝夕のみの2回食(330kcal、蛋白15g水分300ml) へ食事形態及び回数変更。※管理栄養士
車いすからベッドギャッジ座位30度、全介助とする※リハビリ
21日前)内服で嘔気誘発し食事も進まないことを医師へ報告、内服を全面中止。※医師・看護師
16日前)誕生日のお祝いケーキのムースの部分を家人の介助で食べる。※家人・介護士
外泊希望がある。家に帰してあげたい。※家人
外泊中の食事形態及び介助方法について指導する。※多職種
14日前)外泊される。昼、夕食も手作りでペースト状の食事、すりおろしリンゴも食べた。※家人
10日前)ミールラウンドで嚥下不良がみられ、食事は主に水分に変更する。(朝)味噌汁とろみ、フルーツペースト(昼)ジュースとろみ、フルーツペースト ※管理栄養士
8日前)昼食にとろみイオン飲料を介助で摂取するが嘔気様動作あり、看護師へ報告。医師より食事中止の指示。家族へ食事中止の報告。※医師、看護師、介護士
後期(病状の変化が週単位)における支援:臥床する時間が長くなる
5日前)口渇の訴えある。白色痰貯留多く吸引後、濃いトロミでイオン飲料100mlを介助で補給※介護士
4日前)粘稠痰多く吸引の必要がある状況を家人へ報告。※師長
水分摂取不可となる。口渇の訴えあり、ポカリを舌先に湿らせ美味しいとうなずく※介護士
当日)看護師により臨終の近いことを家族に報告、家族は臨終に立ち会うことができた。※家族、多職種
【結果・考察】
今回の取り組みでは、ケアを可視化したことで多職種が段階的なケアを確認し、お互いの情報を共有することができた。看取り前期、中期を通して「食べたいものを食べられる量だけ摂取できる支援」を共通ケアとした結果、職員の看取り期における食事ケアの対応に変化があった。以前は摂取量を維持するための栄養士への相談が多かったが、フローチャートを使用したことで、経口摂取が可能な時期に食べたいものを少しでも美味しく食べる支援へと繋がったと考える。
【おわりに】
管理栄養士としては栄養量の設定にとらわれず、家族と協力して最期まで美味しく食べる支援ができ、ご本人やご家族の思いに寄り添うことができたと考える。今後もチームの取り組みとして、職員やご家族へのアンケートを実施し、フローチャートの効果を検証、改善し、多職種で看取りケアの質の向上に努めていきたい。