講演情報

[15-O-A015-07]腰痛予防への取り組み

*中津川 裕生1、野末 惇史1 (1. 静岡県 白梅ケアホーム)
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当施設の介護職員を対象に腰痛の有無や頻度についてのアンケート調査を実施。その結果職員・利用者双方が負担になっている等の問題点を解決するために組織としては委員会と連携し、現場では福祉用具の移動用スライドシートを導入した。今回の取り組みで職員の腰痛に対する意識改革に取り組んだ経過・結果を報告する。
【はじめに】当施設は静岡県浜松市中央区にある1995年4月に開設した入所定員150名、通所定員40名の介護老人保健施設である。腰痛予防対策の基本は、抱え上げは行わない「ノーリフトケア」である。しかし我が国における「ノーリフトケア」は普及しておらず、必要性は理解していても具体的な実効性を伴っていない現状がある。介護現場において腰痛は職業病とも言われるほど職員を悩ませている。そこで現状把握の為職員アンケートを実施した所、15名中8名と半数以上の職員が腰痛を抱えていることが判明した。当施設3Fにおける2人介助者は昨年平均7名であったのが現在は12名となっている。職員・利用者双方が負担になっている等の問題点を解決するために組織としては委員会と連携し、現場では福祉用具の移動用スライドシートを導入した。導入にあたり勉強会を実施し使用方法の説明や体験を通し介護職員全員が有効活用することができるようにした。このような取り組みで職員の腰痛に対する意識改革に取り組んだ経過・結果を報告する。【研究期間】令和5年7月~令和6年6月【研究対象】当施設に所属する3F介護職員15名【研究方法】1. 委員会との連携(リスク・業務効率)2. 腰痛に関しての実態調査として職員アンケートの実施3. アンケート後の腰痛に対する取り組み 1)職員教育 2)業務改善 3)継続するための意識付け【結果】1)リスクマネジメント委員会では腰痛について協議し、始業前の事前準備の必要性からラジオ体操第1を全館放送で流す取り組みを行った。「平成25年度ラジオ体操の実施効果に関する調査研究」ではウォーミングアップの効果、腰痛予防が期待できる体操があるということ、なにより継続することに意味がある、とのことから令和5年8月から開始し、今では多くの利用者が一緒に行っている。職員の腰痛予防と福祉用具の適切な使用を検討するという目的で2023年から発足した業務効率委員会の中で、腰用サポーターを推奨し、今まで使用していなかった職員が積極的に使用を始める事に繋がった。業務効率委員会では過去にも移動用のリフトのデモンストレーション用の機械を試したり、近々マッスルスーツについても検討中である。2)担当フロアでは事前アンケートで腰痛の現状把握を行い、スライドシートの導入とその勉強会を行う。取り組み後にアンケートを実施し、その結果腰痛があると回答した職員8名のうち4名は腰痛の頻度が減った、以前より負担が少なくなったと回答し3名は変化がなかった、1名は日々の業務により腰痛が悪化してしまったとの回答が得られた。腰痛の現状把握に伴い、負担になっている箇所や対策できる場面が分かり緩和に繋がった。3)職員教育では「時間がかかる」「面倒」「持ち運びが大変」など職員の都合で福祉用具が使われなくなるケースをなくすため、使用する利用者の居室近くに置くことで、職員一人一人が意識付けてスライドシートを使用できるように環境を整えた。また、介護職員が利用者と同じように福祉用具を使用して移乗の体験を行う事で、利用者の気持ちが分かり、より安全に移乗できるようになった。業務改善では、2名での移乗介助について職員4名を2グループに分け各部屋に回っていたが、スライドシートの活用により、1グループでの対応が可能になり残りの2人が他業務にあたることが出来ている。継続するための意識づけとしては、スライドシートの活用により、利用者の皮膚剥離などの事故軽減、自分たちの負担緩和の成功体験の積み重ねにより徐々にノーリフトケアの意識付けに繋がっている。【考察・まとめ】今回9ヶ月間という取り組みで腰痛の改善が少しではあるがみられており、今後も継続して施設全体で腰痛予防の取り組みを浸透させることで、更なる予防や改善が予想される。今回現場ではスライドシートを使用しての取り組みを行ったが、居室スペースやリクライニング車椅子の形状によりスライドシートの使用が困難な場面が多い。また、腰痛の出現は個人差があるため、多職種との連携を行い利用者への介助方法の統一などを通して職員個人の具体的な腰痛予防の提案を行うことも必要だと考える。スライドシートの他にスライディングボード・移乗サポートロボットなどの福祉用具も有効活用していき、安全に無理の無い移乗方法に慣れていくことに繋がるのではないか。腰痛は「個人の責任」というこれまでの認識から「組織の安全管理の問題」として変化している。ノーリフトケアは利用者の安全と介助者自身を守り、利用者のもつ力を引き出し、高めるケアを提供するために必須の技術である。最後に腰痛予防に関してのマニュアル化や業務内での腰痛予防体操の導入、定期的な勉強会をすることで腰痛に対しさらなる意識付けになり、腰痛の無い働きやすい職場作りにも繋がると考える。