講演情報
[15-O-A016-05]現場の力の底上げ~認知症ケアを通して見えたこと~
*井上 奈央1、足羽 孝夫1、納谷 由里1、浅田 真範1、大津 陽介1 (1. 大阪府 介護老人保健施設 石きり)
介護職員主体の認知症ケアを行うことで、リーダーの立場から感じた課題について報告する。認知症利用者に対して、多職種と連携しアプローチ方法の統一を図り、BPSDへの適切な対応を行うことで利用者の状態改善は著明に表れた。しかし、職員全員の認知症ケアに対する意識改革や技術向上は難色を示した。チームケアは、先導するリーダーの立ち回りが重要であると考えられた。
【はじめに】
石きりは従来型90床の老健であり、2フロアに分かれている。入所事業には介護職員30名が在籍しており、課長1名と、各フロアにはリーダー(チーフ)が2名ずつ配置されている。リーダーはフロア内で起きる問題の第一次対応を行っている。今回、以前よりBPSDが見られていた認知症利用者に対して、介護職員が主体となって多職種に働きかけチームケアを実施した。その事例及びアプローチを通してリーダーの立場から感じた課題について報告する。
【事例紹介と目的】
対象者:A氏 女性 99歳 要介護度4 日常生活自立度(障害)B2(認知症)IIIa。
認知症の診断を受けており、記憶障害や見当識障害を認めている。施設生活における不安や混乱、帰宅願望、感情失禁、頻回なパット交換希望、興奮などのBPSDの症状に対しては都度対応を行っていたが、具体的な対策や見直しがなくA氏のBPSDが悪化し、職員のストレス蓄積が著明となった。BPSDへの適切な対応による利用者の状態改善と、職員の認知症ケアに対する意識改革や技術向上を目的として、プロジェクトチーム(介護職員7名、看護職員1名、支援相談員1名、施設ケアマネジャー1名(後にリハビリ職員1名追加))を構成しアプローチを行った。
【取り組みと経過】
A氏の訴えや思いに対し、4つのアプローチ方法を考案し実施した。1アプローチ期間は5日間とし、実施中の経過観察と実施後の評価を都度行った。取り組み内容は日常ケアにあたる介護職員・看護職員で共有し、アプローチ方法によってはリハビリ職員や支援相談員などへの協力依頼を行った。4つのアプローチ終了後は、全ての検証結果から今後の対応を再考・決定し、一定期間実施し再評価を行った。
・R6年4月 第1回プロジェクト会議実施:プロジェクトの方向性やアプローチ方法を検討する。
・R6年4月第1週目 アプローチI.「声掛けの統一」訴えに対しての返答の声掛けを統一する。
・R6年4月第2週目 アプローチII.「視覚によるアプローチ」A氏の主な訴えに対する返答をカードに記載し、訴え時に声掛けと共にA氏へ提示する。
・R6年4月第3週目 アプローチIII.「訴え前の事前対応」A氏の主な訴えを予測して、事前にカードを提示し説明を行い、時間や内容を把握していただく。
・R6年4月第4週目 アプローチIV.「入眠時~夜間帯の対応統一」パット交換や痒み、水分摂取などの夜間帯のA氏の訴えに対する対応について統一を行う。
・R6年5月 第2回プロジェクト会議実施:I~IVまでのアプロ―チについてA氏及び職員の変化についてチーム内で情報共有を行う。
・R6年5月中旬 新たにリハビリ職員の協力によるA氏へのトイレ動作訓練、トイレ誘導の実施。午前に1回トイレ誘導を行う。
・R6年6月 施設医にA氏の経過報告を行い、認知症外来への受診と服薬調整を実施。
・R6年7月 各部署職員(介護職員・看護職員・リハビリ職員・支援相談員・施設ケアマネジャー)に対し取り組みについてのアンケートを実施し、4月と7月のA氏や職員の状態を比較する。
【結果】
アンケート結果では、全職員が総じて、取り組みを通してA氏のBPSDの改善及び職員のストレスの軽減が為されたことが明確に表れた。特に帰宅願望や興奮に対する効果が大きく、A氏が穏やかに過ごすことが増えた。職員が対応を統一することで、不安感から来るパット交換の訴えも減少がみられ、トイレ誘導を実施することで更にトイレ・パット交換の訴えが減少した。一方で、服薬調整中に昼夜逆転が起き、再受診までの間は改めてアプローチ方法を検討する必要もあった。また、アンケートでは職員ストレスの項目について、全職員の軽減は認めているものの、介護職員は元々のストレスの度合いが高く、7月評価においても一定以上のストレスは認めていた。
【考察】
アプローチ方法を統一することで、A氏の混乱や不安感の減少に繋がり、また、対応を統一することによって職員自身もA氏との関わり方を見直すきっかけになり、認知症ケアや今までの職員自身の介護方法などに対し改めて意識し始めることができた。BPSDが軽減されることで職員自身の余裕が生まれ、適切な対応が可能となることで更にBPSDの改善が望める…というサイクルを構築することで、利用者も職員も楽になることを実感できた職員は多いと感じた。
しかし、職員の中には今回のプロジェクトの意義や目的を理解できておらず、やらされていると感じている者も少なからず存在していた。アンケートへの協力姿勢にもばらつきがみられ、介護職員全員の意識統一は現段階では発展途上であった。チームを先導する立場であるリーダーが、介護職員への意思伝達を上手く図れていなかったことや、リーダー自身も今回のプロジェクトが成功するか不安に感じており、自己の行動をどう取っていくべきか悩んでいたことが原因であると考えられる。
チームケアを行っていく中で多職種連携は欠かせないことであり、介護職員と多職種との間を取り持つためには、まずリーダーが、職員全員が同じ方向に向かって対策・行動を起こすことができるようにするべきだと感じた。今回、介護職員が主体となって多職種に働きかけたことで、今後の認知症ケアに対する介護職員の自信に繋がったと考えられた。より質の良い介護の提供をするために、リーダーとして行動する姿勢や役割把握、情報や介護技術の伝達能力、決断力の向上などに努めることが、今後の自身の課題であると気付いた。
【まとめ】
介護職員が主体となり認知症に対するチームケアを行ったことで、ケア方法の統一による利用者のBPSDの軽減が実証でき、今後の認知症利用者への対応の一つのモデルケースとなった。また、介護職員の意識改革についても効果は認めるが更なる向上が望め、リーダーとしての必要な役割が明確となった。チームケア・多職種連携の大切さを改めて理解し、介護現場の力の底上げに励みたい。
石きりは従来型90床の老健であり、2フロアに分かれている。入所事業には介護職員30名が在籍しており、課長1名と、各フロアにはリーダー(チーフ)が2名ずつ配置されている。リーダーはフロア内で起きる問題の第一次対応を行っている。今回、以前よりBPSDが見られていた認知症利用者に対して、介護職員が主体となって多職種に働きかけチームケアを実施した。その事例及びアプローチを通してリーダーの立場から感じた課題について報告する。
【事例紹介と目的】
対象者:A氏 女性 99歳 要介護度4 日常生活自立度(障害)B2(認知症)IIIa。
認知症の診断を受けており、記憶障害や見当識障害を認めている。施設生活における不安や混乱、帰宅願望、感情失禁、頻回なパット交換希望、興奮などのBPSDの症状に対しては都度対応を行っていたが、具体的な対策や見直しがなくA氏のBPSDが悪化し、職員のストレス蓄積が著明となった。BPSDへの適切な対応による利用者の状態改善と、職員の認知症ケアに対する意識改革や技術向上を目的として、プロジェクトチーム(介護職員7名、看護職員1名、支援相談員1名、施設ケアマネジャー1名(後にリハビリ職員1名追加))を構成しアプローチを行った。
【取り組みと経過】
A氏の訴えや思いに対し、4つのアプローチ方法を考案し実施した。1アプローチ期間は5日間とし、実施中の経過観察と実施後の評価を都度行った。取り組み内容は日常ケアにあたる介護職員・看護職員で共有し、アプローチ方法によってはリハビリ職員や支援相談員などへの協力依頼を行った。4つのアプローチ終了後は、全ての検証結果から今後の対応を再考・決定し、一定期間実施し再評価を行った。
・R6年4月 第1回プロジェクト会議実施:プロジェクトの方向性やアプローチ方法を検討する。
・R6年4月第1週目 アプローチI.「声掛けの統一」訴えに対しての返答の声掛けを統一する。
・R6年4月第2週目 アプローチII.「視覚によるアプローチ」A氏の主な訴えに対する返答をカードに記載し、訴え時に声掛けと共にA氏へ提示する。
・R6年4月第3週目 アプローチIII.「訴え前の事前対応」A氏の主な訴えを予測して、事前にカードを提示し説明を行い、時間や内容を把握していただく。
・R6年4月第4週目 アプローチIV.「入眠時~夜間帯の対応統一」パット交換や痒み、水分摂取などの夜間帯のA氏の訴えに対する対応について統一を行う。
・R6年5月 第2回プロジェクト会議実施:I~IVまでのアプロ―チについてA氏及び職員の変化についてチーム内で情報共有を行う。
・R6年5月中旬 新たにリハビリ職員の協力によるA氏へのトイレ動作訓練、トイレ誘導の実施。午前に1回トイレ誘導を行う。
・R6年6月 施設医にA氏の経過報告を行い、認知症外来への受診と服薬調整を実施。
・R6年7月 各部署職員(介護職員・看護職員・リハビリ職員・支援相談員・施設ケアマネジャー)に対し取り組みについてのアンケートを実施し、4月と7月のA氏や職員の状態を比較する。
【結果】
アンケート結果では、全職員が総じて、取り組みを通してA氏のBPSDの改善及び職員のストレスの軽減が為されたことが明確に表れた。特に帰宅願望や興奮に対する効果が大きく、A氏が穏やかに過ごすことが増えた。職員が対応を統一することで、不安感から来るパット交換の訴えも減少がみられ、トイレ誘導を実施することで更にトイレ・パット交換の訴えが減少した。一方で、服薬調整中に昼夜逆転が起き、再受診までの間は改めてアプローチ方法を検討する必要もあった。また、アンケートでは職員ストレスの項目について、全職員の軽減は認めているものの、介護職員は元々のストレスの度合いが高く、7月評価においても一定以上のストレスは認めていた。
【考察】
アプローチ方法を統一することで、A氏の混乱や不安感の減少に繋がり、また、対応を統一することによって職員自身もA氏との関わり方を見直すきっかけになり、認知症ケアや今までの職員自身の介護方法などに対し改めて意識し始めることができた。BPSDが軽減されることで職員自身の余裕が生まれ、適切な対応が可能となることで更にBPSDの改善が望める…というサイクルを構築することで、利用者も職員も楽になることを実感できた職員は多いと感じた。
しかし、職員の中には今回のプロジェクトの意義や目的を理解できておらず、やらされていると感じている者も少なからず存在していた。アンケートへの協力姿勢にもばらつきがみられ、介護職員全員の意識統一は現段階では発展途上であった。チームを先導する立場であるリーダーが、介護職員への意思伝達を上手く図れていなかったことや、リーダー自身も今回のプロジェクトが成功するか不安に感じており、自己の行動をどう取っていくべきか悩んでいたことが原因であると考えられる。
チームケアを行っていく中で多職種連携は欠かせないことであり、介護職員と多職種との間を取り持つためには、まずリーダーが、職員全員が同じ方向に向かって対策・行動を起こすことができるようにするべきだと感じた。今回、介護職員が主体となって多職種に働きかけたことで、今後の認知症ケアに対する介護職員の自信に繋がったと考えられた。より質の良い介護の提供をするために、リーダーとして行動する姿勢や役割把握、情報や介護技術の伝達能力、決断力の向上などに努めることが、今後の自身の課題であると気付いた。
【まとめ】
介護職員が主体となり認知症に対するチームケアを行ったことで、ケア方法の統一による利用者のBPSDの軽減が実証でき、今後の認知症利用者への対応の一つのモデルケースとなった。また、介護職員の意識改革についても効果は認めるが更なる向上が望め、リーダーとしての必要な役割が明確となった。チームケア・多職種連携の大切さを改めて理解し、介護現場の力の底上げに励みたい。