講演情報
[15-O-A016-06]生活こそリハビリの原点!~個別支援計画に基づくケアの展開~
*今井 美由紀1、松本 綾子1、矢田 崇之1 (1. 静岡県 介護老人保健施設静岡徳洲苑)
当施設で作成した個別支援計画書を基に利用者の自立支援や個別性を重視したケアを実践し、職員アンケートやフィードバックデータからその効果を検証した。その結果自立支援促進加算の支援実績は向上し、実践したケアが数値化されることで職員の多くの気づきが得られた。利用者の状態や目標を共有しやすくなり、個別支援計画書の見直しには積極的な意見交換が行われることで質の良いケア実施の基盤となることが示唆された。
【目的】
当施設では科学的介護情報システム(以下、LIFE)における事業所フィードバックを受け、利用者のケアの内容や支援計画を3ヶ月ごとの多職種によるチームカンファレンスで協議し見直しを図っている。加えて、令和5年6月から利用者全員に個別支援計画書を作成し運用を始めた。個別支援計画書は、LIFEの自立支援促進加算の項目に沿って作成された施設独自の書式となっており、利用者ごとの現状の日常生活動作能力(以下、ADL能力)や支援の目標、ケアにて取り組んでいる自立支援内容・支援実績回数を記入できる。多職種で共有でき、LIFEへの入力もスムーズに行うことができるようになった。
今回、個別支援計画書に基づき、利用者の自立支援に向けて個別性をより重視したケアを展開した。チームカンファレンスでは個別支援計画書の見直しや事業所フィードバックの分析を行った。約1年間の実践を通じ、当施設職員を対象にしたアンケートの結果や、事業所フィードバックデータで支援実績を振り返り、見えてきた効果や課題を報告する。
【方法】
(1)職員へのアンケート調査 対象者は介護・看護・リハビリ職員の35名。設問I~IIIについてWEB上での調査を実施。
I.利用者へのケアをする際に個別支援計画書を意識していますか(はい・いいえの二択)
II.個別支援計画書に基づいて普段のケアを行う際、どのような事を意識していますか(自由回答)
III.個別支援計画書に基づいてケアを行う際、難しい事や困った事、ご意見等あれば教えてください(自由回答)
(2)自立支援促進加算の事業所フィードバックにて支援実績項目の比較調査
I.比較の対象とした期間・対象者:個別支援計画書を作成する前3ヶ月(令和5年4~6月)の当施設利用者102名と、個別支援計画書を作成した後の3ヶ月(令和6年4~6月)の当施設利用者95名
II.比較項目:離床時間、立ち上がり、職員との会話・声掛け、趣味・アクティビティ・役割の平均値・標準偏差
【結果】
(1)職員へのアンケート調査 回答者29名で有効回答率82.8%であった。
設問Iの「利用者へのケアをする際に個別支援計画書を意識していますか」は、はい:27名(93.1%)、いいえ:2名(6.9%)と、利用者にケアをする際に「個別支援計画書を意識している」と答えた職員は全体の9割以上を占めた。
設問IIの「個別支援計画書に基づいて普段のケアを行う際、どのような事を意識していますか」という問いに対しては、「個々の利用者の生活の目標設定がわかりやすいため、利用者の希望に合わせたケアを心掛けている」、「チームカンファレンスで個別の利用者ごとの生活支援記録が増えているか、ADL能力向上に繋がっているかを確認する指標」、「事業所フィードバックで、平均値が良くなった項目を更に伸ばし、悪化した項目は原因を探り、改善するために何ができるかを多職種で検討するようにしている」という意見がみられた。
設問IIIの「個別支援計画書に基づいてケアを行う際、難しい事や困った事、ご意見等あれば教えてください」という問いに対しては、「利用者のADL能力や介助量が変化したときに、多職種に周知する方法がわからない」、「正確に数値を反映させるためにはその都度記録に残す必要があり、記録の方法に工夫が必要」という意見が多かった。
(2)自立支援促進加算の事業所フィードバックにて支援実績項目の比較調査
離床時間は5.8→6.6時間/日(標準偏差±2.72→±3.73)、立ち上がり回数は15.0→16.8回/日(標準偏差±5.42→±23.05)、職員との会話・声掛けは15.8→31.6回/日(標準偏差±2.71→±3.09)、趣味・アクティビティ・役割活動の回数は4.1→5.1回/週(標準偏差±5.27→±13.20)となった。個別支援計画書を作成する前後で支援実績の平均値が向上、標準偏差が拡大した。
【考察】
今までは職員の知識や経験に基づいたケアが主体で、個々の利用者の残存能力や目標を意識したケアに繋がっていないことがあった。今回、個別支援計画書の作成で個々の利用者の能力や生活目標が容易に共有できるようになり、さらに日々行なっているケアを数値化することで実態に合わせた適切な支援実績が記録できるようになった。アンケート結果からもデータに裏付けされたケアの指標ができたことで、日々のケアで支援実績の数値を意識し、在宅生活等の希望に合わせた生活リズムを考え、そのリズムの中で離床や立ち上がりを行うように支援できるようになるなど、職員の意識も変化していると推察する。多職種でのチームカンファレンスの場では、利用者の生活動作の更なる改善点を見つけたり、支援実績の数値の変化の理由を探るために積極的に意見交換をする様子が見られた。事業所フィードバックデータも活用され、全国の事業所との差や、自身が行なっている個別ケア・全体のケアを客観的に見ることができるなど、多くの「気づき」が得られ、新たな計画書作成に反映させている。職員の連携や気づきがPDCAサイクルを促進し、質の良いケア実施の基盤となっていると考えられる。
自立支援促進加算の支援実績の比較では、個別支援計画書作成前後ですべての項目の平均値が向上したが、同時に標準偏差も大きくなった。これは利用者の体調に合わせて離床時間を短くすることや、本人の希望を確認して趣味や役割活動を行うなど、画一的ではなく個人の能力、生活習慣や自己決定に合わせたケアを行えている結果と考える。
今後の課題としては生活支援記録等を正確に記録するための工夫や、利用者の体調や能力の変化を支援・ケア内容に随時反映させ、職員へ周知していくための方法が課題として考えられる。
当施設では科学的介護情報システム(以下、LIFE)における事業所フィードバックを受け、利用者のケアの内容や支援計画を3ヶ月ごとの多職種によるチームカンファレンスで協議し見直しを図っている。加えて、令和5年6月から利用者全員に個別支援計画書を作成し運用を始めた。個別支援計画書は、LIFEの自立支援促進加算の項目に沿って作成された施設独自の書式となっており、利用者ごとの現状の日常生活動作能力(以下、ADL能力)や支援の目標、ケアにて取り組んでいる自立支援内容・支援実績回数を記入できる。多職種で共有でき、LIFEへの入力もスムーズに行うことができるようになった。
今回、個別支援計画書に基づき、利用者の自立支援に向けて個別性をより重視したケアを展開した。チームカンファレンスでは個別支援計画書の見直しや事業所フィードバックの分析を行った。約1年間の実践を通じ、当施設職員を対象にしたアンケートの結果や、事業所フィードバックデータで支援実績を振り返り、見えてきた効果や課題を報告する。
【方法】
(1)職員へのアンケート調査 対象者は介護・看護・リハビリ職員の35名。設問I~IIIについてWEB上での調査を実施。
I.利用者へのケアをする際に個別支援計画書を意識していますか(はい・いいえの二択)
II.個別支援計画書に基づいて普段のケアを行う際、どのような事を意識していますか(自由回答)
III.個別支援計画書に基づいてケアを行う際、難しい事や困った事、ご意見等あれば教えてください(自由回答)
(2)自立支援促進加算の事業所フィードバックにて支援実績項目の比較調査
I.比較の対象とした期間・対象者:個別支援計画書を作成する前3ヶ月(令和5年4~6月)の当施設利用者102名と、個別支援計画書を作成した後の3ヶ月(令和6年4~6月)の当施設利用者95名
II.比較項目:離床時間、立ち上がり、職員との会話・声掛け、趣味・アクティビティ・役割の平均値・標準偏差
【結果】
(1)職員へのアンケート調査 回答者29名で有効回答率82.8%であった。
設問Iの「利用者へのケアをする際に個別支援計画書を意識していますか」は、はい:27名(93.1%)、いいえ:2名(6.9%)と、利用者にケアをする際に「個別支援計画書を意識している」と答えた職員は全体の9割以上を占めた。
設問IIの「個別支援計画書に基づいて普段のケアを行う際、どのような事を意識していますか」という問いに対しては、「個々の利用者の生活の目標設定がわかりやすいため、利用者の希望に合わせたケアを心掛けている」、「チームカンファレンスで個別の利用者ごとの生活支援記録が増えているか、ADL能力向上に繋がっているかを確認する指標」、「事業所フィードバックで、平均値が良くなった項目を更に伸ばし、悪化した項目は原因を探り、改善するために何ができるかを多職種で検討するようにしている」という意見がみられた。
設問IIIの「個別支援計画書に基づいてケアを行う際、難しい事や困った事、ご意見等あれば教えてください」という問いに対しては、「利用者のADL能力や介助量が変化したときに、多職種に周知する方法がわからない」、「正確に数値を反映させるためにはその都度記録に残す必要があり、記録の方法に工夫が必要」という意見が多かった。
(2)自立支援促進加算の事業所フィードバックにて支援実績項目の比較調査
離床時間は5.8→6.6時間/日(標準偏差±2.72→±3.73)、立ち上がり回数は15.0→16.8回/日(標準偏差±5.42→±23.05)、職員との会話・声掛けは15.8→31.6回/日(標準偏差±2.71→±3.09)、趣味・アクティビティ・役割活動の回数は4.1→5.1回/週(標準偏差±5.27→±13.20)となった。個別支援計画書を作成する前後で支援実績の平均値が向上、標準偏差が拡大した。
【考察】
今までは職員の知識や経験に基づいたケアが主体で、個々の利用者の残存能力や目標を意識したケアに繋がっていないことがあった。今回、個別支援計画書の作成で個々の利用者の能力や生活目標が容易に共有できるようになり、さらに日々行なっているケアを数値化することで実態に合わせた適切な支援実績が記録できるようになった。アンケート結果からもデータに裏付けされたケアの指標ができたことで、日々のケアで支援実績の数値を意識し、在宅生活等の希望に合わせた生活リズムを考え、そのリズムの中で離床や立ち上がりを行うように支援できるようになるなど、職員の意識も変化していると推察する。多職種でのチームカンファレンスの場では、利用者の生活動作の更なる改善点を見つけたり、支援実績の数値の変化の理由を探るために積極的に意見交換をする様子が見られた。事業所フィードバックデータも活用され、全国の事業所との差や、自身が行なっている個別ケア・全体のケアを客観的に見ることができるなど、多くの「気づき」が得られ、新たな計画書作成に反映させている。職員の連携や気づきがPDCAサイクルを促進し、質の良いケア実施の基盤となっていると考えられる。
自立支援促進加算の支援実績の比較では、個別支援計画書作成前後ですべての項目の平均値が向上したが、同時に標準偏差も大きくなった。これは利用者の体調に合わせて離床時間を短くすることや、本人の希望を確認して趣味や役割活動を行うなど、画一的ではなく個人の能力、生活習慣や自己決定に合わせたケアを行えている結果と考える。
今後の課題としては生活支援記録等を正確に記録するための工夫や、利用者の体調や能力の変化を支援・ケア内容に随時反映させ、職員へ周知していくための方法が課題として考えられる。