講演情報

[15-O-A016-07]ケアを受ける生活から充実したユニット生活へご利用者と職員。お互いに支え合う関係性

*松本 凱明1 (1. 京都府 介護老人保健施設ハーモニーこが)
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ご利用者それぞれの得意な面に役割を作る事が、達成感や生活の充実感に繋がることの大切さについて気付いた。同時に、職員の視点や考え方にも変化が現れ、ユニットの空気感が活気づく事にも繋がった取り組みを発表する。
【はじめに】
 介護の仕事は、安心と安全をご利用者にケアサービスとして提供することが求められる。その中で、ご利用者が一人の人として自分らしく生活できていると実感できる時間は多くないのかもしれないと日々葛藤している。ユニットのご利用者の生活を豊かにしたいという思いから、いくつかの取り組みを進めることとした。
【取り組み】
 個別ケアとして「本人がしたいこと」「現在もできること」「職員がしてあげたいこと」の3つの視点を基に取り組みを進めた。
(1)職歴を活かした役割
 ご利用者の一人に、職業歴として車関係の仕事に勤められていた事があり、ご自宅では洗車に対してこだわりを持って行われていたとご本人よりお聞きした。日頃の様子とリハビリスタッフとのADL評価の元、現在もできると判断し、施設車を洗車する事をご本人に提案。また職員としても、特技を発揮できる機会に繋がると考え、取り組みを実施した。
(2)飲食に携わる仕事の経験
 ユニットケアでは毎食後、職員の業務として食器等の洗い物を行っている。飲食に携わる仕事をされていた一部のご利用者が、「手伝おうか」と声をかけて下さる事があり、ご本人の「やりたい」という思いから、取り組みを始めた。
(3)手先の器用さを活かした椅子カバー作り
 ユニットの食堂の椅子カバーが劣化しており、新しく作成する事をご利用者に提案し、手伝って頂ける方を募った。職員が見本となる物を作成し、完成したものが想像できるように可視化した。また手続き記憶を活用すべく、裁縫は全て手縫いで制作を進めた。他にも、バルーンカテールを使用されている方のウロバックカバーの製作も行った。
【結果】
(1)
1)洗車をする中で、勤めていた仕事の事や長年愛用されていた車を洗車し、長く大切乗っていた話をされるなど、昔の記憶の想起につながり、自信に満ちた表情をされていた。
2)車体の側面だけでなく、扉の隙間やパーツの一部を隅々まで洗い、洗車に対するこだわりが発揮され、職員が想定していたよりも丁寧に洗車をされていた。
3)取り組み後は、強い疲労感が見受けられたが、洗車を通してご利用者の自分らしさが感じ取れる時間となった。
(2)
1)継続して行って頂く事で、職員が洗い物をしていると率先して手伝って頂けるようになり、声をかけずとも自発的な行動が増えた。
2)ご利用者が行われている姿をみて、「私もやるよ」「何かやることないか」とご利用者同士で助け合う関係性が広がった。
3)ご利用者の自発的な行動が、職員の業務の軽減に繋がった。また、その事により職員が他の業務へ取り掛かる場面が増えた。
(3)
1)作業中は、ご利用者同士で話す機会が増え、交流に繋がる場となった。また裁縫されている姿をみて、初めは「できない」と仰っていた方でも、興味を示してくださる様になり、手伝って頂ける事があった。
2)完成後は、達成感から喜ばれる姿が見受けられ、「いいのができた」「他にも作りたい」と前向きな発言があった。
(4)
1)取り組みを通して、ユニット職員のご利用者に対する見方がプラスに変化した。
2)一つの取り組みをきっかけに、ご利用者の可能性を考えるようになった事で、日常に溢れる些細な事をご利用者の活躍の場に繋げる思考が育まれた。
3)職員が作成するケアプランにも変化が現れ、ご利用者の課題解決ではなく、出来る事に着目するようになった。
4)自ユニットで作成していた椅子カバー作りを他ユニットでも取り組みが開始され、前向きな行動が拡がり始めた。
【考察】
 要介護度や認知症の状態など、ご利用者の状況から受ける印象が、私たち介護士の目を惑わし、ご利用者の「やりたいこと」「できること」を諦めていることが多いのかもしれない。
 取り組みを通して、本来私たちがケアを行う上で、ご利用者の「やりたいことに気づくこと」と「できることを奪わない」という視点はが大前提であることを再認識した。それは言い換えると、1)専門職としての情報収集2)適切な評価が求められているのだろうと考える。同時に、3)介護士としてご利用者に元気に、笑顔になってもらいたいという支援者としての気持ちも大切であると気付いた。その3つの視点が今回の取り組みに活かすことができていた。また、こういった取り組みの連続は特別ではなく「日常」としてユニットの雰囲気を変えることにつながり、他のユニットの職員を含め、前向きな視点が施設の中に広がり始めたと実感している。施設生活の中で、当たり前の生活行為が主体的に行われるその方の居場所になったと考える。
【まとめ】
 前向きな取り組みは、ご利用者やユニットの雰囲気を変え、職員の視点にも良い影響をもたらしている。ただし、施設のルールやシフトなど一定の縛りの中で働く私たちの心の内は非常に脆く、油断するとご利用者主体ではなくなってしまう。まだまだご利用者の可能性を信じ、専門職としての視点を高めながら、質の高い生活空間、良い職場にしていきたい。