講演情報
[15-O-C005-03]気持ちに寄り添った排泄支援
*平鍋 慶1 (1. 福井県 福井ケアセンター)
毎回、摘便を施行している利用者に対し、本人・家族とコミュニケーションを取りながら、デイケアの利用時にトイレ誘導を開始した。最終的には自宅での排便が可能となった。その過程の中での、本人・家族の気持ちの変化、デイケアでの介入に対し、考察を加えて報告する。
【はじめに】
当デイケアでは利用者本人の意思を尊重した上で、日常生活の支援を行っている。しかし、本人の意思だけでは様々な問題が生じるため、予想されるリスクに配慮しながら慎重に対応する必要がある。今回、本人・家族と関わりながら、トイレでの排便が可能となった事例に対し、考察を加えて報告する。
【利用者紹介】
A氏、女性、90歳。
主疾患:尿路感染、肺炎、廃用症候群
既往歴:腎不全(膀胱留置カテーテル使用)、2型糖尿病、高血圧
生活歴:
元々は長男夫婦の自宅にて、家族による入浴介護などを受けながら生活していた。徐々に伝えた事を何度も聞くような物忘れや、入浴時のふらつきが増えたため、令和4年5月より通所サービスの利用を開始した。令和4年10月に発熱し、近医を受診、尿路感染の診断を受け、同日に入院となった。
入院中に身体機能の低下を認め、廃用症候群の診断を受ける。寝返り、起き上がり共に中等度介助が必要、端坐位は見守りで可能だが、立位・移乗動作は全介助が必要であった。排便はオムツを使用し全介助で対応、テレミンソフト坐薬(以下、坐薬)を使用した排便コントロールの指示を受ける。令和5年1月29日に隣接市に在住の次男宅へ退院し、翌日から当デイケアの利用開始となった。キーパーソンは次男で、介護は未経験である。
【デイケア開始時点の様子】
身体機能は、下肢のMMTは3レベル、立ち上がりに中等度~重度介助が必要、立位保持は支持物を使用し軽介助にて40秒程度の保持が可能。MMSEは10点であった。次男への連絡手段として、送迎時の会話や連絡ノートを使用し、情報共有を行った。自宅での自然排便はなく、デイケアにて坐薬を使用し、オムツ内での排便を促すが、十分な排便はなく、摘便を実施した。摘便の際は本人より苦痛の訴えを認めた。利用開始時の要介護度は5、令和6年2月より要介護度は4に変更となる。
【介入内容】
令和5年5月の中旬頃、本人よりトイレでの排便を希望され、スタッフ間で身体機能、移乗動作能力、介助方法などの情報共有を行った。その後、次男に連絡し、自宅でもトイレを希望する可能性を説明した上で、トイレ動作練習を開始する許可を得た。5月29日よりトイレでの排便を開始、前日の排便状況を連絡ノートにて確認し、午前中に坐薬を挿入、本人の便意に合わせてトイレ誘導を実施した。トイレへの移乗・立位保持は中等度介助が必要、オムツ装着のため、2人介助にて対応した。腹圧がかかることで十分な排便を認め、本人より「すっきりした、楽に出た」との発言あり。
デイケア利用時のトイレ誘導を継続、坐薬を使用することで毎回の排便を認め、6月中旬には、移乗、立位保持が手すりを使用し軽介助で可能となり、リハビリパンツの着用とトイレの介助方法を統一することで1人介助でのトイレ誘導が可能となった。本人の活動量増加に伴い、自宅での危険行動がないか、次男に確認を行ったが、転倒などはないとのことであった。本人より、「家でもリハビリパンツでトイレに行きたい」との希望あり、次男へ現状報告と、自宅でのトイレ誘導に対する意向を確認した。「家でのトイレは不安がある、現状のままが良い」との意向を尊重し、デイケアではトイレ誘導、自宅ではオムツでの対応となった。トイレ誘導を開始後は、排便状況は良好で摘便は施行していない。
令和6年4月下旬より、本人のトイレに行きたいとの希望に対し、次男は妻と相談し、自主的にポータブルトイレを購入の上、自宅でのトイレ誘導を開始した。送迎の際に次男に現状を確認、目を離した際に本人1人で移乗する場面もあったが、トイレ動作は軽~中等度介助にて可能であり、身体の負担も大きくはないとのこと。介助の際に膀胱留置カテーテルが抜去しないよう注意が必要なこと、坐薬挿入後に十分に排便を認めないことがあるなど、不安要素は残存している。デイケアの対応として、困ったことや、介護負担が増えるようであれば相談するよう伝達した。
【結果】
排便方法を獲得し、現在も家族の介助にてトイレでの排便を継続できている
【考察】
利用者の身体状況、心理状況、在宅生活への影響などを考慮して、日常生活動作の改善を図る必要がある。また、家族は在宅生活を開始するにあたり、生活環境が変化し、慣れない介護に不安を感じる。利用者本人の気持ちも重要だが、デイケアとして家族の気持ちに寄り添えるサポートを一貫して行えたことが、排便方法の獲得につながったと考える。
【おわりに】
今後も家族が相談しやすい関係性を維持し、家族の不安に対し、サポートを行う必要がある。よりよいケアを提供するためには、利用者、その家族の多種多様な思いに対し、できる限り寄り添う必要がある。これからも地域の人々の在宅生活をサポートできるよう、努力していきたい。
当デイケアでは利用者本人の意思を尊重した上で、日常生活の支援を行っている。しかし、本人の意思だけでは様々な問題が生じるため、予想されるリスクに配慮しながら慎重に対応する必要がある。今回、本人・家族と関わりながら、トイレでの排便が可能となった事例に対し、考察を加えて報告する。
【利用者紹介】
A氏、女性、90歳。
主疾患:尿路感染、肺炎、廃用症候群
既往歴:腎不全(膀胱留置カテーテル使用)、2型糖尿病、高血圧
生活歴:
元々は長男夫婦の自宅にて、家族による入浴介護などを受けながら生活していた。徐々に伝えた事を何度も聞くような物忘れや、入浴時のふらつきが増えたため、令和4年5月より通所サービスの利用を開始した。令和4年10月に発熱し、近医を受診、尿路感染の診断を受け、同日に入院となった。
入院中に身体機能の低下を認め、廃用症候群の診断を受ける。寝返り、起き上がり共に中等度介助が必要、端坐位は見守りで可能だが、立位・移乗動作は全介助が必要であった。排便はオムツを使用し全介助で対応、テレミンソフト坐薬(以下、坐薬)を使用した排便コントロールの指示を受ける。令和5年1月29日に隣接市に在住の次男宅へ退院し、翌日から当デイケアの利用開始となった。キーパーソンは次男で、介護は未経験である。
【デイケア開始時点の様子】
身体機能は、下肢のMMTは3レベル、立ち上がりに中等度~重度介助が必要、立位保持は支持物を使用し軽介助にて40秒程度の保持が可能。MMSEは10点であった。次男への連絡手段として、送迎時の会話や連絡ノートを使用し、情報共有を行った。自宅での自然排便はなく、デイケアにて坐薬を使用し、オムツ内での排便を促すが、十分な排便はなく、摘便を実施した。摘便の際は本人より苦痛の訴えを認めた。利用開始時の要介護度は5、令和6年2月より要介護度は4に変更となる。
【介入内容】
令和5年5月の中旬頃、本人よりトイレでの排便を希望され、スタッフ間で身体機能、移乗動作能力、介助方法などの情報共有を行った。その後、次男に連絡し、自宅でもトイレを希望する可能性を説明した上で、トイレ動作練習を開始する許可を得た。5月29日よりトイレでの排便を開始、前日の排便状況を連絡ノートにて確認し、午前中に坐薬を挿入、本人の便意に合わせてトイレ誘導を実施した。トイレへの移乗・立位保持は中等度介助が必要、オムツ装着のため、2人介助にて対応した。腹圧がかかることで十分な排便を認め、本人より「すっきりした、楽に出た」との発言あり。
デイケア利用時のトイレ誘導を継続、坐薬を使用することで毎回の排便を認め、6月中旬には、移乗、立位保持が手すりを使用し軽介助で可能となり、リハビリパンツの着用とトイレの介助方法を統一することで1人介助でのトイレ誘導が可能となった。本人の活動量増加に伴い、自宅での危険行動がないか、次男に確認を行ったが、転倒などはないとのことであった。本人より、「家でもリハビリパンツでトイレに行きたい」との希望あり、次男へ現状報告と、自宅でのトイレ誘導に対する意向を確認した。「家でのトイレは不安がある、現状のままが良い」との意向を尊重し、デイケアではトイレ誘導、自宅ではオムツでの対応となった。トイレ誘導を開始後は、排便状況は良好で摘便は施行していない。
令和6年4月下旬より、本人のトイレに行きたいとの希望に対し、次男は妻と相談し、自主的にポータブルトイレを購入の上、自宅でのトイレ誘導を開始した。送迎の際に次男に現状を確認、目を離した際に本人1人で移乗する場面もあったが、トイレ動作は軽~中等度介助にて可能であり、身体の負担も大きくはないとのこと。介助の際に膀胱留置カテーテルが抜去しないよう注意が必要なこと、坐薬挿入後に十分に排便を認めないことがあるなど、不安要素は残存している。デイケアの対応として、困ったことや、介護負担が増えるようであれば相談するよう伝達した。
【結果】
排便方法を獲得し、現在も家族の介助にてトイレでの排便を継続できている
【考察】
利用者の身体状況、心理状況、在宅生活への影響などを考慮して、日常生活動作の改善を図る必要がある。また、家族は在宅生活を開始するにあたり、生活環境が変化し、慣れない介護に不安を感じる。利用者本人の気持ちも重要だが、デイケアとして家族の気持ちに寄り添えるサポートを一貫して行えたことが、排便方法の獲得につながったと考える。
【おわりに】
今後も家族が相談しやすい関係性を維持し、家族の不安に対し、サポートを行う必要がある。よりよいケアを提供するためには、利用者、その家族の多種多様な思いに対し、できる限り寄り添う必要がある。これからも地域の人々の在宅生活をサポートできるよう、努力していきたい。