講演情報

[15-O-C005-04]草木プレートが手と心をつなぐ

*中尾 ゆかり1、原田 美穂1 (1. 京都府 医療法人啓信会介護老人保健施設萌木の村、2. 医療法人啓信会介護老人保健施設萌木の村)
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当施設は小高い丘の中腹に建ち、自然豊かな環境にある。施設の園庭も多くの植物が四季を彩っている。コロナ禍で外出や外泊ができないご利用者に、少しでも外気に触れ季節を感じてもらえるようにと、園庭の植物を手作り草木プレートで紹介する取り組みを行った。結果、利用者が園庭へ出向くことが楽しみの一つとなり、単調な生活への刺激になった事を報告する。
【はじめに】当施設は、小高い丘の中腹に建っており、緑豊かな環境にある。施設の園庭にも開設当初から枝垂れ桜やハナミズキなど種々の植物が植えられ、ご利用者は、周辺の木々に合せ四季の移り変わりによって変化する植物の姿や成長をとても楽しみにしている。当施設には、運営基準に基づき、様々な委員会が設置されている。それらの委員会とは別に、MSTという活動がある。MSTとはMoegi Specialist Teamの略であり、「マナー」「メディカル」「はつらつ」の3つのチームがある。それぞれに、ご利用者へのサービスの質の向上や職員の業務に対するモチベーションの向上を目的とした活動を行っている。具体的な活動内容としては、ご利用者に提供する集団体操の考案や作品展出品への企画・実行、職員の想いを聞くための投書箱の設置等様々である。その中の、はつらつチームの活動である投書箱に、リハビリ職員からの意見が入った。屋外歩行訓練を実施した際に、ご利用者から「これはいつ花が咲くの?」「花の名前は?」と質問があり、返答できず困惑したとの内容であった。コロナ禍によって外出レクリエーションや面会が制限されたご利用者にとって、外気に触れ季節の風や匂いを感じる機会はとても貴重である。屋外散策や歩行訓練をもっと楽しみながら行うには何が必要であるかを、はつらつチームで検討し、草木プレートの設置が望ましいという意見になった。草木プレートを設置したことによるご利用者・職員の反響について報告する。【取り組み】園庭にある植物12~15種類に、植物の名前・開花時期・見ごろの写真・花言葉を必ず記載し、その植物にまつわる情報を追加記載した。中にはクイズを記載したものもある。草木プレートの大きさはA4サイズとし、屋外で使用するのでラミネート加工をした。プレートの高さは、車椅子乗車のご利用者も見えやすい位置を考え地面から40~90cmとした。毎月、会議の日にはプレートの拭き上げ清掃を行い、劣化したものは交換し、常に綺麗で見やすい環境を提供できるよう心掛けている。【アンケート方法】ご利用者と園庭に行く頻度の多いリハビリ職員10名へ、問1:草木プレートの感想・問2:ご利用者とのエピソードを自由回答形式でアンケートを取った。集計方法はテキストマイニングとしてKH Coderを用い、自由回答での頻出用語の回数を整理し、草木プレートを設置したことによる影響を分析した。なお、問2はエピソードの個別性を尊重するためにテキストマイニングは実施していない。【アンケートの結果】アンケートの分析結果は以下の通りである。問1:草木プレートの感想に対する回答では、頻出用語は「利用者」11回、「プレート」8回であった。更に品詞別に分けると、名詞では「プレート」「草木」「名前」、動詞では「知る」「分かる」「できる」「ある」と言った単語が多く使用されていることが分かった。これらの頻出用語から共起性を表す共起ネットワークでは、問1の回答で出現回数が多かった「プレート」と「利用者」が其々中心となった2つのグループに分けられた。「プレート」を中心とするグループは「名前」「分かる」「役に立つ」、「利用者」を中心とするグループは「会話」「弾む」「特徴」に共起性があった。 問2:利用者とのエピソードでは、ご利用者から草木プレートを見つけその植物の豆知識を職員に教えてくれたことや、「家にもあった」「知ることが出来て良かった」と嬉しそうに話しをされていたこと、夾竹桃には毒があることをプレートから知りご利用者と一緒に驚いた等の回答があった。自身の事を話さなかった利用者が、自宅の庭の話題から若い頃の思い出話をしてくれた事もあった。また、不定期に交換をしているので、同じ植物でも新たな情報に出会い飽きずに楽しめると言った意見もあった。【考察】アンケート結果にもあるように、2つのグループから「プレートによって草木の名前が分かる」「利用者との会話が弾む」と言う2点を読み取ることが出来た。それら2点をまとめると、草木プレートには「名前が分かり、それによってご利用者との会話が弾む」効果があったと言える。エピソードも同様に、草木プレートが設置されたことにより、ご利用者と職員間に共通の話題が生まれ、会話が弾むきっかけとなった内容が大半の回答に共通してあった。このことから、草木プレートから新しい知識を得たことをきっかけに、ご利用者と職員双方が知る喜びや情報を共有することができ、共通の話題からコミュニケーションが深まったと考える。【まとめ】草木プレートの活動によって、植物をただ植えるだけではなく、多方面の情報も提供する事で、ご利用者の興味を引き、単調な生活に刺激を与えたと思われる。今では、植物の変化を楽しみに園庭に出たいと言われる利用者や、新たな草木プレートを楽しみにされる利用者もおられる。また、職員からも新たな植物の情報提供もある。1人の意見から始まった草木プレートが、ご利用者・リハビリ職員・介護職員等多くの人への有機的な関わりになった。今回は、リハビリ職員のみのアンケートであったが、今後はご利用者や他職員の意見を確認し、多くの人にわかりやすい草木プレートを作成していきたい。また、どの季節でも花や植物を楽しめるよう、植物と草木プレートを増やし、ご利用者がリハビリや外気浴で園庭に出向きたいと思って頂ける環境を作り続けたいと考える。