講演情報

[15-O-C005-05]読書バリアフリーに向けた取り組みについての報告

*新井 友晶1、田中 美奈子1、北條 勘九朗1、堀口 しおり1、天井 雪絵1、神田 武範1 (1. 京都府 老人保健施設第2アールそせい)
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高齢者における読書は、視聴覚の低下や上肢等の身体の障害、意欲等精神心理面の低下など様々な影響を受け易い。そこで、令和元年に制定された通称「読書バリアフリー法」を参考に、嗜好・要望等のアンケート調査と併せ、当施設における読書難民を可能な限り減らすべく、余暇を楽しむ機会を広く提供する試みに取り組んだ結果、情報の入手に関わる満足度の向上及び精神心理面の改善が示唆されたため報告する。
【はじめに】
一般的に読書は、娯楽や教養の目的以外にも、興味関心の創出、精神心理面の安定等、あらゆる面で重要な役割を果たしており、知見を深めたり、時には感動を得たりして、我々の生活にとても密接な関わりがあると認識している。その一方で、高齢者における読書は、加齢に伴う視聴覚の低下や上肢等の身体の障害、意欲等精神心理面の低下など様々な影響を受け易い。そこで、令和元年に制定された通称「読書バリアフリー法」を参考に、当施設における読書難民を可能な限り減らす試みに取り組んだ結果、情報の入手に関わる満足度の向上及び精神心理面の改善が示唆されたため報告する。
【取り組みに至った経緯】
当施設では、以前から入所及び通所リハの利用者様を対象に、施設が管理する本を自由に閲覧してもらい読書の機会を提供してきた。300冊程度だった5年ほど前はその多くが文庫本や単行本であったが、それら一般図書を手に取り読書に勤しめるような利用者様は少数派であった。そのため、多くの利用者様はいわゆる読書難民と言わざる得ない状況となっていた。また、そのような状況にある利用者様は、活字に触れる機会が少なくなり、読書のみならずテレビや新聞などから得られるべき時事情報もまた、極めて得難い状況にあった。そこで、一人でも多くの利用者様が活字に触れることが出来るように、数年をかけて大型図書の分割小型化、ジャンル別一覧表の作成、短編ストーリーの製作、時事テーマを主とした機関紙への寄稿など、その都度ニードをくみ取りながら試行錯誤を繰り返してきた。
【読書バリアフリーに向けた取り組み】
まず、当施設の図書(以降、施設図書)へのニードを把握する目的で、入所全利用者(満90床)を対象にアンケート調査を実施した。アンケートの項目は、1)好きなジャンル、2)これまでよく読んでいた本の種類、3)読んでいた頻度(新聞・写真集・漫画など広い種類で質問)、4)読書の目的、5)現在読書をしているか、6)現在読書をしていない理由、7)施設図書への希望、8)現在の情報入手手段、主にこれらの8項目(1,2,4,6,7,8は重複回答)であり、令和6年3月に実施し、入所定員の約51%に当たる46名から有効な回答を得た。それに加え、10段階スケールで主観的に回答を求めた情報入手に関わる満足度(以降、満足度)を調査し、精神心理面の変化を把握する目的で老年期うつ病評価尺度(以降、GDS)を用いて、令和6年3月と同年7月にそれぞれ評価した。また、満足度及びGDSは、得られた全回答から平均値と中央値をそれぞれ求め、取り組み前後の変化を調べた。
【アンケート調査の結果(上位のみ)と取り組み内容】
1)好きなジャンル:純文学等の小説39%、新聞を含めた時事33%、スポーツ28%
2)これまでよく読んでいた本の種類:新聞76%、雑誌41%、文庫本39%
3)読んでいた頻度:毎日のように読んでいた57%、たまに読んでいた30%
4)読書の目的:楽しいから33%、勉強になるから33%、情報収集のため22%
5)現在読書をしているか:はい39%、いいえ61%
6)現在読書をしていない理由:眼がつらい37%、時間が無い22%、手元に本が無い20%
7)施設図書への希望:理解し易い本が多い30%、朗読会など催し物の開催30%、機械の音声や映像の活用28%
8)現在の情報入手手段:テレビ67%、新聞54%、コミュニケーション30%
上記より大半の利用者様で読書の習慣があり、新聞や雑誌以外にも小説など物語を楽しむ習慣が相当数あることが解った。一方で、現在読書をしていない、もしくは出来ない利用者様が多く、その最たる理由には身体的な理由が挙がった。また、心の余裕等を含め費やせる時間が無いことや、手元に本が無いという環境的な理由も相当数挙がった。施設図書への希望に関しては、理解等の認知機能面や視聴覚などの身体機能面の低下を補う内容が多く挙がった。現在の情報入手手段に関しては、テレビと新聞が半数以上を占めた。この結果から多くの利用者様で世間の動向にも目を向けようとしている様子が推察された。そして、このアンケート調査の結果を基に、「映像とナレーションの朗読会の開催」、「LLブックを模した写真で伝える文庫の創作」、「機関紙への投稿の模式図化」をそれぞれ企画し進めることにした。
【結果と考察】
満足度の調査の結果は、3月5.8(中央値5.0)及び7月6.4(中央値6.0)で改善を示した。同様に、GDSの評価の結果は、3月6.9点(中央値6.0点)及び7月5.5点(中央値5.0点)で改善を認めた。老人保健施設を利用する方々は、言うまでもなく種々の障害特性やバックグラウンドを持っており、同時に高齢者における読書は、身体機能並びに精神心理面の影響を受け易いと容易に推察される。そのため、この一連の取り組みを通して読書難民を可能な限り減らすべく、余暇を楽しむ機会が広く得られたことで、満足度の向上と精神心理面の改善につながったのではないかと推察した。また、「視覚障碍者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」では、目的(第1条)に「障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて、文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与」するものと明記されており、生活の場でもある老人保健施設において、少しでも余暇を満たす試みを提供することは大変有意義なことであると考えられる。