講演情報

[15-O-C005-08]月の周期が施設入所中の高齢者のBPSDに与える影響

*小池 瑛里加1、平形 佳之1、小此木 直人2、井上 宏貴3、田中 志子2 (1. 群馬県 介護老人保健施設 大誠苑、2. 医療法人大誠会 内田病院、3. (株)H&Mサービス)
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月の周期は身体・精神的にも影響を及ぼすと報告されている。今回、介護老人保健施設入所中の認知症自立度IIIa以上の者を対象に、月齢によるBPSD症状の違いを検討した。調査の結果、新月の期間の夜勤帯では「徘徊・不穏」が強まることが明らかとなった。新月の期間では、不安やうつ症状といった満たされないニーズが行動として表出されるために、徘徊・不穏の症状が強まると考えられた。
【背景】月の周期が身体に及ぼす影響として、主観的な平均睡眠時間や疲労の度合いが満月と新月で有意に異なることが報告されている。精神的にも影響を及ぼすとの報告もあり、自殺は新月に多いこと、殺人や暴行は満月の周辺に集中することが報告されている。我々は第34回全国介護老人保健施設大会において、介護老人保健施設(以下、老健)で発生した転倒と月齢(新月、満月)の関係を、認知機能や身体機能の程度と合わせて検討した。その結果、月齢による転倒の発生割合はほぼ同一であったが、認知症高齢者の日常生活自立度(以下、認知症自立度)IIIa以上の者の転倒発生割合は有意差を示し、新月でより多く、満月でより少ないことが明らかとなった。この要因として、新月には徘徊が増強される可能性が考えられたが、認知症の行動・心理症状(以下、BPSD)の程度が月齢により異なるかは検討できていない。そこで今回、認知症自立度IIIa以上の者を対象に、満月の週と新月の週におけるBPSDの出現を比較することとした。【方法】2024年6月1日時点での老健大誠苑一般棟の入所者50名のうち、認知症自立度IIIa以上の者を対象とした。除外基準は、障害高齢者の日常生活自立度ランクCの者とした。評価項目は認知症の行動・心理症状質問票短縮版(BPSD13Q)とした。BPSD13Qは介護スタッフによる日常生活場面でのBPSD評価を想定した簡便なスケールであり、妄想や徘徊・不穏、易怒性、うつ、不安、傾眠傾向などの13症状のうち、過去1週間で認められるものを重症度(1~5点)と負担度(0~5点)で評価する。重症度と負担度それぞれの合計点が高いほど、BPSDが重度であることを示している。評価期間は2024年6月とし、新月を中日に含む1週間(6月3日~9日)と満月を中日に含む1週間(6月19日~25日)で、夜勤帯・日勤帯の様子をそれぞれのユニット担当者が評価した。なお時間帯は、夜勤スタッフのみの勤務となる20時00分~6時59分を夜勤帯、早番・遅番が勤務する7時00分~19時59分を日勤帯とした。夜勤帯・日勤帯それぞれで、月齢の違いによりBPSD13Qの得点が有意差を示すかを対応のあるt検定で比較し、有意水準5%未満を有意差あり、10%未満を有意な傾向ありとした。【結果】 入所者50名のうち、対象基準を満たす者は11名であり、うち期間中に急性増悪をきたした1名を除く10名を解析対象とした。対象は男性4名、女性6名であり、平均年齢は であった。統計解析による比較の結果、夜勤帯の「徘徊・不穏」重症度のみ、新月の期間が有意に高い傾向を示した(新月:1.1±1.9点、満月:該当者なし、p=0.09)。その他の項目および合計点は、月齢による有意差を示さなかった。 【考察】 月の周期と精神状態の関係として、先行研究から、自殺が新月に多く満月に少ないこと、殺人や暴行が満月の周辺に集中することが報告されている。よって新月には不安やうつ症状、満月には攻撃性や活動性が増強されるとの仮説が立てられる。しかし今回、BPSD13Qの「不安」「うつ」といった項目は有意差を示さず、「徘徊・不穏」のみ新月の夜勤帯で有意に高い傾向を示した。この理由の一つとして、認知症を有する者にとっては、不安やうつ症状といった自身の満たされないニーズを表出することは難しいことが挙げられる。また老健入所中の認知症を有する者においては、時間や場所の見当識障害により、不安やうつ症状は「自分はここに居て良いのだろか」「家で家族が心配しているのでは」という帰宅願望・徘徊に直結すると考えられる。そのため認知症自立度IIIa以上の老健入所者においては、満月よりも新月の方がより徘徊・不穏の症状が強くなったのではないかと考えられる。【結語】老健入所中の認知症自立度IIIa以上の者を対象に、月の周期とBPSDの出現の関係を調査した結果、新月の期間の夜勤帯では「徘徊・不穏」が強まることが明らかとなった。今後は睡眠状態と月の周期の関係についても検討し、入所者が安心して老健での生活を過ごせるようなケアを模索していく。