講演情報

[15-O-H002-06]利用者と職員が満足できるケアを目指して排泄ケアの取り組み

*関 亜希1、七里 拓馬1、西堀 宏次郎1、古田 もも香1、細野 大希1、富田 晃代1 (1. 滋賀県 介護老人保健施設坂田メディケアセンター)
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当施設は、排泄ケアにおいて業務優先の慢性的なケアとオムツ使用量増加が課題であった。そこでオムツ業者の協力を得て個別ケアの見直し、ICT機器の試行等の排泄ケア改善の取り組みを行ったことで、個別の排泄ケアが充実しオムツ使用量も減少した。質の高いケアを提供する為に、職員の知識や技術に加え意識やモチベーションの維持が必要であり、利用者のみならず職員も達成感や満足感を得られるケアを行うことが重要である。
【はじめに】
 当施設は利用者定員130名(内、一般棟50名、認知症棟80名)の超強化型老健である。令和4年度に新型コロナウイルス感染症の大規模クラスターが発生して以降、特に排泄ケアにおいて吸収量の多いパッドを使用して失禁による衣類汚染の防止を優先する傾向にあり、業務優先の慢性的なケアの提供が大きな課題であった。また、それに伴いオムツ等の使用量も年々増加傾向にあった。
 そこで令和5年度より排泄委員会が中心に、オムツ業者(以後、業者という)の協力を受け、排泄ケアの改善への取り組みを行い一定の効果を認めた為、以下の通り報告する。
【取り組み)
 まず排泄委員に現状の問題提起を行い自分たちで考える機会を設けた。職員からの「パッドの見直しを行えていない」との意見から、第1段階として、パッドの使用者の内、パッド内失禁がある方を対象にパッドの見直しを行った。当施設では普段から排泄表にパッド内の失禁量を割合数で記入している。それを活用して1週間の平均割合数からパッドの選定を行い、更に変更後漏れやアウターの汚染がある方について、より正確な数値を得る為に尿測を実施し、パッドの変更を行った。適正なパッドを選定した上で、業者より利用者の体形や体動、排尿の出方からパッドの使用方法と組み合わせ方の助言や指導を受け、検討行い実施した。
 第2段階として、ケアの中で飲水量と排尿量の比率が合致していないという職員の気づきから、排泄委員会が中心となり残尿や排尿障害に関する医療的知識やケア内容を深める勉強会を開催し、職員の知識、技術の強化と意識改革を行った。その中で施設医師の協力を仰ぎ、エコーを用いた残尿測定を実施する研修会にて、介護職員が膀胱内の残尿を目で見て確認できた事により、確証を持ち残尿に対してのアプローチに繋げた。
 第3段階として、排泄における個別ケアをより充実させる事を目的とし、排泄を可視化する事で根拠あるケアを提供できるように業者からの提案で残尿測定器とオムツセンサー(オムツセンサーとは花王株式会社が開発したオムツセンサーであり、計測器を取り付けた電極付きパッドを3日間使用しオムツの濡れ具合や動きの記録が行えるもので、濡れ、傾き、動きを見える化できる機器)を借用し試行的に使用する事とした。
【結果・考察】
 今回の取り組みをきっかけに個別の排泄ケアを行う為のアセスメントが行えるようになり、職員の知識や技術の習得に加え意識やモチベーションの変化がみられた。実際に新規利用者の尿測が定着したり、ケアの見直しや問題に対してカンファレンスを開催し、考えや意見の発信が職員全体に広がった。また、問題点が発生しても安易にオムツを大きくする事がなく原因を見極め、改善方法を見つけようとする姿が見受けられた。更に、結果へと繋がる事で職員同士が「やってよかった」と達成感や満足感が得られた。
 個別の排泄ケアを見直す事で、個々の利用者への支援要素が明確となり排泄の状態を正しくスクリーニングする事ができるようになった。その為、より細かい排泄動作の見直しや評価を行い、的確に状態アップへのアプローチが行えた事で、排せつ支援加算についても従来は加算1のみを算定していたが、取り組みを行った令和5年度は加算2が36名、加算3が13名算定する事ができた。
 試行的に使用したオムツセンサーは7名の方に実施し、その中で4名の方に大きな効果を認めた。特にオムツ触りによる漏れが毎日続いていた方のデータから、パッドの濡れ具合と排尿のタイミングを見出して、排泄介助時間の変更を行なった。ドライタイムを作る事で徐々にオムツ触りの回数が減少し、漏れが少なくなり利用者・職員共に負担の軽減に繋がった。トイレ誘導の方は適正な誘導時間を見出しトイレでの排尿量が増え、パッドの失禁量、失禁回数が大幅に減少した。残りの3名のうち2名については体調不良や退所に伴い適正な評価が行えなかった。残り1名の方は誘導時間の変更を行うが認知機能の低下に伴い失禁が減少する結果には繋がらなかったが、適切なアセスメントが行えた事で、トイレに座る事の習慣化に重点を置くようケアの方向性を変更した。
 オムツセンサーは排泄パターンの把握が3日間という短期間で行える点が職員の手間や負担なく実施できる事と、可視化により根拠を持ってより深く個別の排泄ケアに繋げられる利点があり継続する事でより多くの結果に繋がると考える。
 今回の取り組みにより施設全体のオムツの使用量にも変化が現れた。コロナ禍以前の令和2年度から以後の令和5年度までのオムツ使用合計金額を比較してみると、コロナ禍の令和3年度から徐々に使用量が増加しており令和4年度に大幅に使用量がアップした事で高額な数値となっている。取り組みを行った令和5年度では令和2年度の使用金額より146,947円安くなっており、コロナ禍以前よりもコストダウンできているという結果になった。これらは適正なパッドの選定や個別の取り組みによるパッド交換回数の減少から得た成果と考えられる。
【まとめ】
 排泄は一生続くもので排泄における個別ケアは、状態に応じて見直しを継続する事が必要である。今回の取り組みを通じて、質の高い個別ケアを提供する為には、職員の新たな知識と技術の習得のみならず、職員の意識やモチベーションの維持が最も重要であると考える。
 一方で排泄パターンの把握や見直しには時間と労力を有する為、業務負担が増加する懸念があり業務優先の慢性的なケアに陥る可能性がある。自分達の経験や固定観念だけでなく専門性の高い外部業者等の力を借りて視野を広げる事や、最新のICT機器を活用し業務効率化を進める事も必要であると考える。
 今後も利用者はもちろん、職員も達成感や満足感が持てモチベーションを維持し続けられる充実した排泄ケアを目指していきたい。