講演情報

[15-O-H002-07]排泄日誌を活用した在宅復帰支援

*廣田 菜音1、脇本 芙未1 (1. 福井県 福井勝山総合病院付属介護老人保健施設)
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正確な排尿日誌を完成させるには、排尿(失禁)時刻と尿量の測定が必要である。在宅復帰利用者に対して多職種連携のもと排泄支援を行い、排泄日誌をつけることで問題点が可視化され改善点を把握でき、個別性のある支援を提供できた。利用者が自信をつけることで、QOLの向上と家族の介護負担軽減につながったと思われる。
【はじめに】当老健は2019年より超強化型老健を算定し、排泄支援に力を入れてきた。在宅復帰を達成するのに重要なポイントとなるのは排泄行為の自立、または排泄介護の負担軽減であると考える。また排泄行為は利用者にとって非常にデリケートな問題であり、個人の尊厳に関わってくる。排泄が出来るかどうかは利用者のQOLに大きな影響を与えるとともに、生きる意欲につながる。今回は排泄日誌を活用して排泄介護の負担を軽減し、家に帰ることができた事例を紹介する。
【目的】排泄日誌を活用することで、対象者の排泄リズムを把握し、個別的な支援を行い家族の介護負担の軽減につなげる。
【方法】
1.対象者の選定(排泄介護が課題となっている在宅復帰利用者)
2.多職種による排泄支援計画書の作成
3.排泄日誌の活用
4.排泄カンファレンス(支援の評価と改善)
5.在宅復帰に向けての家族への説明
6.在宅復帰後の状況把握
A氏(92歳)(介護度4)ペースメーカー使用。左人工骨頭挿入術施行。心不全あり。当施設での転倒歴あり。
入所目的:急性胃腸炎のため長期入院となりADL低下。在宅復帰とリハビリ目的に1か月ほどの入所希望。
初回排泄アセスメント:心不全あり、労作時に息切れが見られる。利尿剤内服、入院中におむつ内排泄が継続し尿意・便意があいまいとなっていた。腸炎による下痢症状は改善。
排泄支援計画
排尿排便3か月後の見込み:「全介助」とされた。
排泄に介護を要する要因:胃腸炎による入院で体力低下みられおむつ排泄。尿意便意の訴えほとんどなく、定時のパット確認や交換、陰部洗浄が必要。
排泄支援:体力、四肢筋力、排泄動作の向上、トイレでの排泄を目標とする。陰部の清潔保持、皮膚トラブル予防。座薬による排便コントロール。
排泄日誌を活用する:本人の訴え、時間誘導、尿意便意、汚染の有無、尿量測定、水分摂取量について記載。
1週目:定時でのトイレ誘導がほとんどでパット内に失禁している。時々トイレ希望のためにナースコールを鳴らし、ベッド上で端座位になっていたこともあった。
2.3週目:トイレでの排泄希望が増え、2~3時間おきにトイレ誘導を行うようになった。居室での座り込みのインシデントもあり緩衝マット設置。パット内の失禁が減少してきた。
4週目:訴え誘導が多くなりテープ止めおむつから、紙パンツと装着パットへ変更した。在宅復帰に向けて、自分でズボンの上げ下げ、パット交換が出来るように指導を行った。ズボンを下げることはできるが、上げることができないため片方ずつズボンを上げるように練習を継続した。
5.6週目:在宅復帰に向けてトイレに通うための歩行訓練を開始。パット内に失禁はほとんどなくなり、自分でズボンの上げ下げもできるようになった。夜間はベッドサイドにポータブルトイレを設置し、終日トイレでの排泄が可能となった。
退所時カンファレンス:身体機能や日常生活の様子について家族、居宅介護支援事業所等に説明を行った。自宅でトイレに通う時の転倒リスクが課題となった。通所サービスを週2回から4回に増やし、訪問介護は昼食前と夕方に入ることとなった。在宅ではトイレから居室まで距離があることから、ベッドサイドにポータブルトイレを設置することで転倒リスクを軽減した。ベッドサイドに縦型手すりを設置して、移乗動作も安定して行えることを退所時訪問で確認した。
【考察】排泄日誌を使用して排泄パターンを見える化したことで、職員の排泄介助のタイミングを統一することができ、パット汚染を減らすことができた。トイレに行くことが出来たという成功体験を得たことで自信に繋がった。入所時は全介助で行っていた排泄動作も退所時には見守りと声掛けでできるまで改善した。トイレに行くという形での歩行練習も加わり、四肢筋力の向上にもつながった。退所時のカンファレンスでは排泄時の注意点や適切なパットの使用などを家族に伝えることができ、家族も「自分でできるようになって嬉しい」と喜ばれていた。A氏は入所当初は「パット内の汚染が気になる」と不安感からおむつ排泄を行っていたが、トイレに行くようになりリハビリパンツに変更しても不安感がなくなり自信がついたと思われる。今回の排泄支援を通して利用者一人一人に合った排泄パターンや現在の状態を知ることが排泄支援、在宅復帰に向けての第一歩だと感じた。排泄日誌を活用することで問題点が可視化され、在宅復帰に向けた排泄自立支援へとつなげることができた。利用者と職員が同じ目標に向かってリハビリを行っていくことで本人のやる気や意欲、意思を尊重することにより四肢筋力の向上につながり、在宅復帰に向けてアプローチすることができた。
【結果】排泄日誌により、A氏の排泄パターンを把握でき、トイレ誘導のタイミングが本人の希望と合うようになった。トイレで排泄ができることが本人の自信にもつながり、次第に自分でトイレに向かうようになった。また、失禁が少なくなったことでテープ止めおむつから紙パンツへ移行でき、さらには自分でのパット交換練習へと進めることができた。装着パットを使用することで、尿取りパットのずれがなくなりパンツとズボンの上げ下げが容易になった。夜間帯も汚染前にトイレに行く習慣がつき、夜用パットを使用することがなくなった。また、看護師、リハビリ職員、ケアマネジャーなどの多職種との連携を強めることで素早く利用者の状態変化に合わせた対応が可能となる。在宅に戻ってからの生活を円滑に進めるには家族とのコミュニケーション、カンファレンスも重要になってくる。介助方法の説明、施設と在宅での相違、最終目標の到達地点など様々なことを知るためにも、積極的に多職種連携に取り組んでいきたい。今後も個別性のある排泄自立支援の実施、介護度の軽減、在宅復帰支援に取り組んでいきたい。