講演情報
[15-O-H003-02]きな粉でスッキリ排便
*長戸 菜摘1、竹下 由美1、西田 新平1 (1. 岡山県 老人保健施設 勝央苑)
刺激性の下剤や浣腸に頼らず、安価で高齢者に馴染みのあるきな粉を使用した排便コントロールを試みた。対象者4名中3名の排便状態に変化があり、下剤内服や便処置が減少した事例を報告する。
はじめに
高齢になると身体機能や活動量の低下、内服薬の副作用など、様々な影響を受けて便秘になりやすく、刺激性の下剤や浣腸は利用者に対して身体的・精神的苦痛である為、安楽な排便調節を提供できないかと考えていた。そこで、高齢者に馴染みがあり、安価で、便秘の方が不足している食物繊維とオリゴ糖を含む きな粉と、ビフィズス菌を含むヨーグルトを組み合わせたきな粉ヨーグルトに着目した。きな粉ヨーグルトの効果、きな粉に含まれる食物繊維は便秘を予防して腸内環境を整える働きがあり、ビフィズス菌はきな粉に含まれるオリゴ糖を餌にして増殖し、乳酢や酢酸などの有機物を生成する。その刺激で腸の蠕動運動が活発になり、便通が促される仕組みとなる。今回のきな粉ヨーグルトを使用した取り組みで、下剤内服や便処置が減少した事例を報告する。
研究方法
期間: 6月~8月の3か月
対象者は4名、条件として、定期または頓服で下剤を使用している。
大豆アレルギーが無い、既往歴にイレウスが無い、確実にきな粉ヨーグルトを摂取出来る方を対象とした。
毎日、朝食時に75gのヨーグルトに大さじ1杯のきな粉を混ぜたきな粉ヨーグルトを摂取する。また、期間中に頓服の下剤の使用を中止し、排便5日間見みられない場合は坐薬または浣腸を行うこととした。
結果・考察
A様は80歳代女性、認知症状なし。便意がなく立位不能なため定時オシメ交換の方で、定期の内服薬に酸化マグネシウム錠500mgを朝1錠、夕1錠内服されている。排便間隔としては研究前から研究後と大きな変わりはなかった。しかし元々、便意曖昧であったA氏であるが、きな粉ヨーグルトを摂取し始めた2週目から「トイレに行きたい」と言われることが数回あり、その際に2人介助にてトイレへ行くと多量の排便がみられた。よって、気付いた時には出てしまうような緩い泥状便から、排便の訴えからトイレに行くまで我慢できる程度の普通便となり、便意が明確になり形状にも変化があったと考える。本人もトイレで排泄を出来ることに喜びを感じており、笑顔が多くみられるようになった。
B様は90歳代女性、トイレ自立の方で、定期の内服薬に下剤内服はなく、本人の希望時に、頓服で酸化マグネシウム錠500mg1錠内服をし、それでも排便なければ再度、酸化マグネシウム錠500mg1錠を内服していた。きな粉ヨーグルト摂取中は、下剤内服の希望がなく、3日に1回と排便回数が増えた。きな粉ヨーグルトを摂取し始めて10日目頃からは、ほぼ毎日排便がみられた。摂取期間終了後も継続して定期的に排便があり頓服を内服することはなかった。本人も、きな粉ヨーグルトの効果を実感しており、「便秘が解消された」と満足度が高かった。
C様は90歳代女性、定時オシメ交換の方で、定期の内服薬に下剤内服はなく、2日排便なければ頓服で、センノシド錠12mg1錠内服し、それでも排便なければ坐薬又は浣腸を行っていた。
研究前は1か月の坐薬の使用が6回、浣腸を2回行っているが、きな粉ヨーグルトを摂取し始めて6日目からは2~3日に1回のペースで規則的に排便があった。研究終了後の15日目以降は摘便をするような結果となり、きな粉ヨーグルトを摂取したことにより、腸内サイクルが2週間保たれたのではないかと考える。
D様は100歳代女性、希望時トイレ誘導の方で、尿意はあるが認知症の進行により便意はない状態である。排便感覚がなくトイレに座っても踏ん張ることが出来ず、すぐ立ち上がってしまうため便汚染もしばしばあった。研究前と比較しても排便間隔に変化はなかった。認知症の進行により便意の理解が出来ず、加齢による筋力低下、円背、と排便を促す状態を確保することが出来なかったため、効果を得ることが出来なかったと考える。
研究前と比較すると、4名中3名がきな粉ヨーグルトを摂取することによって毎日の排便に何かしらの変化があったと言える。今回の研究で得たことは、きな粉ヨーグルトを摂取することにより、便の形状が泥状便や水様便から有形便へと変化があったこと、便の形状の変化によって便意の感覚を取り戻すことが出来ること、きな粉ヨーグルトを摂取し始めて1週間後くらいから便の変化に効果を発揮すること、摂取終了後からも2週間程度は腸内環境を維持できることが分かった。個人差はあるが、きな粉ヨーグルトを摂取することによって刺激性下剤や浣腸特有の苦痛を取り除いた排便コントロールが出来たのではないかと考える。
まとめ
きな粉は老若男女問わず、親しみのある食材であるため、抵抗なく「食べやすい」「美味しい」との意見があった。また、きな粉とヨーグルトは、どこにでも販売している食品であるため、施設での取り組みに限らず自宅でも気軽に試すことが可能だ。排便コントロールで悩む在宅復帰の方にも勧めていけたらと思う。今回は安全面を考慮し、頓服の下剤のみ中止して行ったが、今後は定期内服の減量を目指しながら自然排便に繋がるアプローチが出来たらと思う。また、今回の対象者以外の方でも、定期的に頓服で下剤を内服されている方を対象に実施しやすいきな粉ヨーグルトを取り入れて便秘改善に繋げていきたいと思う。
高齢になると身体機能や活動量の低下、内服薬の副作用など、様々な影響を受けて便秘になりやすく、刺激性の下剤や浣腸は利用者に対して身体的・精神的苦痛である為、安楽な排便調節を提供できないかと考えていた。そこで、高齢者に馴染みがあり、安価で、便秘の方が不足している食物繊維とオリゴ糖を含む きな粉と、ビフィズス菌を含むヨーグルトを組み合わせたきな粉ヨーグルトに着目した。きな粉ヨーグルトの効果、きな粉に含まれる食物繊維は便秘を予防して腸内環境を整える働きがあり、ビフィズス菌はきな粉に含まれるオリゴ糖を餌にして増殖し、乳酢や酢酸などの有機物を生成する。その刺激で腸の蠕動運動が活発になり、便通が促される仕組みとなる。今回のきな粉ヨーグルトを使用した取り組みで、下剤内服や便処置が減少した事例を報告する。
研究方法
期間: 6月~8月の3か月
対象者は4名、条件として、定期または頓服で下剤を使用している。
大豆アレルギーが無い、既往歴にイレウスが無い、確実にきな粉ヨーグルトを摂取出来る方を対象とした。
毎日、朝食時に75gのヨーグルトに大さじ1杯のきな粉を混ぜたきな粉ヨーグルトを摂取する。また、期間中に頓服の下剤の使用を中止し、排便5日間見みられない場合は坐薬または浣腸を行うこととした。
結果・考察
A様は80歳代女性、認知症状なし。便意がなく立位不能なため定時オシメ交換の方で、定期の内服薬に酸化マグネシウム錠500mgを朝1錠、夕1錠内服されている。排便間隔としては研究前から研究後と大きな変わりはなかった。しかし元々、便意曖昧であったA氏であるが、きな粉ヨーグルトを摂取し始めた2週目から「トイレに行きたい」と言われることが数回あり、その際に2人介助にてトイレへ行くと多量の排便がみられた。よって、気付いた時には出てしまうような緩い泥状便から、排便の訴えからトイレに行くまで我慢できる程度の普通便となり、便意が明確になり形状にも変化があったと考える。本人もトイレで排泄を出来ることに喜びを感じており、笑顔が多くみられるようになった。
B様は90歳代女性、トイレ自立の方で、定期の内服薬に下剤内服はなく、本人の希望時に、頓服で酸化マグネシウム錠500mg1錠内服をし、それでも排便なければ再度、酸化マグネシウム錠500mg1錠を内服していた。きな粉ヨーグルト摂取中は、下剤内服の希望がなく、3日に1回と排便回数が増えた。きな粉ヨーグルトを摂取し始めて10日目頃からは、ほぼ毎日排便がみられた。摂取期間終了後も継続して定期的に排便があり頓服を内服することはなかった。本人も、きな粉ヨーグルトの効果を実感しており、「便秘が解消された」と満足度が高かった。
C様は90歳代女性、定時オシメ交換の方で、定期の内服薬に下剤内服はなく、2日排便なければ頓服で、センノシド錠12mg1錠内服し、それでも排便なければ坐薬又は浣腸を行っていた。
研究前は1か月の坐薬の使用が6回、浣腸を2回行っているが、きな粉ヨーグルトを摂取し始めて6日目からは2~3日に1回のペースで規則的に排便があった。研究終了後の15日目以降は摘便をするような結果となり、きな粉ヨーグルトを摂取したことにより、腸内サイクルが2週間保たれたのではないかと考える。
D様は100歳代女性、希望時トイレ誘導の方で、尿意はあるが認知症の進行により便意はない状態である。排便感覚がなくトイレに座っても踏ん張ることが出来ず、すぐ立ち上がってしまうため便汚染もしばしばあった。研究前と比較しても排便間隔に変化はなかった。認知症の進行により便意の理解が出来ず、加齢による筋力低下、円背、と排便を促す状態を確保することが出来なかったため、効果を得ることが出来なかったと考える。
研究前と比較すると、4名中3名がきな粉ヨーグルトを摂取することによって毎日の排便に何かしらの変化があったと言える。今回の研究で得たことは、きな粉ヨーグルトを摂取することにより、便の形状が泥状便や水様便から有形便へと変化があったこと、便の形状の変化によって便意の感覚を取り戻すことが出来ること、きな粉ヨーグルトを摂取し始めて1週間後くらいから便の変化に効果を発揮すること、摂取終了後からも2週間程度は腸内環境を維持できることが分かった。個人差はあるが、きな粉ヨーグルトを摂取することによって刺激性下剤や浣腸特有の苦痛を取り除いた排便コントロールが出来たのではないかと考える。
まとめ
きな粉は老若男女問わず、親しみのある食材であるため、抵抗なく「食べやすい」「美味しい」との意見があった。また、きな粉とヨーグルトは、どこにでも販売している食品であるため、施設での取り組みに限らず自宅でも気軽に試すことが可能だ。排便コントロールで悩む在宅復帰の方にも勧めていけたらと思う。今回は安全面を考慮し、頓服の下剤のみ中止して行ったが、今後は定期内服の減量を目指しながら自然排便に繋がるアプローチが出来たらと思う。また、今回の対象者以外の方でも、定期的に頓服で下剤を内服されている方を対象に実施しやすいきな粉ヨーグルトを取り入れて便秘改善に繋げていきたいと思う。