講演情報

[15-O-H003-05]自然排便を目指した取り組み食物繊維を用いて

*松下 智紀1 (1. 和歌山県 介護老人保健施設光苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
当施設では、下剤投与など排便コントロールを必要とする入所者が81%と高く、浣腸処置の増加により利用者・職員の負担が大きくなっている。そのため便秘に対して食物繊維の摂取を実施し、効果について有効性が示唆されたので報告する。入所者の中で浣腸などの処置が必要な5名を対象に食物繊維の摂取を行った。その結果、排便回数の増加・便性状の改善、それに伴い下剤使用量の減量・排便処置回数の減少が確認された。
【はじめに】
高齢になるとともに食事や水分摂取量の低下・運動量減少・内服薬による副作用・消化機能や腸管蠕動運動の低下・腹圧の減弱など様々な要因で機能性便秘になりやすい。
当施設においても下剤内服・浣腸や摘便等の排便処置(以下、排便処置)を必要とする常習性便秘者が多い。下剤を用いることで水様便による便失禁や、下剤の継続的使用により薬への耐性ができて効果が落ちるという問題もある。浣腸の常用に関しても排便反射が低下し、自力排便ができなくなる可能性があり、また入所者にとって身体的・精神的に負担が大きく、腸粘膜損傷・腸管穿孔・溶血・迷走神経反射などのリスクもある。職員にとっては排便処置に伴う業務量の増加につながる。
そこで、下剤使用量の減量・排便処置回数の減少による業務量の減少を目標として、食物繊維の摂取に着目し、排便状態と下剤使用量の変化について調査したのでここに報告する。

【対象】
当施設に入所中の高齢者で、下剤や排便処置により排便コントロールを行っている利用者の中から5名を対象とした。5名とも排便がなければ、ラキソベロン内用液0.75%を5~10滴内服、排便4日なければ排便処置施行している。

・A氏
86歳 女性 要介護5 日常生活自立度C2 
主要疾患:アルツハイマー型認知症、変形性胸椎症、慢性腎不全、重症偽膜性大腸炎
・B氏
81歳 女性 要介護3 日常生活自立度B2
主要疾患:進行性核上性麻痺、認知症、慢性心不全、心房細動、高血圧
・C氏
102歳 女性 要介護5 日常生活自立度C2
主要疾患:アルツハイマー型認知症、慢性心不全、食道裂孔ヘルニア
・D氏
75歳 女性 要介護5 日常生活自立度C2
主要疾患:脳梗塞、失語症、糖尿病、高血圧、頚椎症
・E氏
94歳 女性 要介護4 日常生活自立度B2
主要疾患:右上腕骨骨折、第10胸椎圧迫骨折、高血圧

【方法】
・太陽化学株式会社「サンファイバー」をお茶や食事に混ぜ、朝と夕食事時に1回の提供量は6g、1日12gとして提供。
・ブリストルスケールを用いて便性状を把握。
・開始前は排便-1日目からラキソベロン内服開始していたが、調査開始より2週間経過した後は-2日目からラキソベロン内服に減量。
・調査機関:5月1日~6月30日までの2ヶ月間。

試験摂取物は、「サンファイバー」を選択した。サンファイバーは100%グァー豆から生まれた体にやさしい水溶性食物繊維であり、数ある食物繊維の中でも善玉菌のエサになりやすい高発酵性のプレバイオティクスとなっている。グァーガム分解物は、便通改善や下痢改善・腸内細菌改善・フェノール類やインドール類といった糞便悪臭物質低減・腸内短鎖脂肪産生促進・ミネラル吸収促進効果・血中コレステロールの改善・食後血糖値上昇抑制など様々な効果が明らかになっている。1包6gあたり5gの食物繊維が含まれている。

【結果】
・A氏
摂取前2ヶ月間(3~4月)は排便22回、排便処置は3回。摂取後2ヶ月間は排便29回に増加、排便処置することなく全て自然排便であった。便性状に関して、5月はほぼ軟便であったが、6月は普通便が20%みられた。
・B氏
摂取前2ヶ月間は排便20回、排便処置は8回。摂取後2ヶ月間も排便21回、排便処置8回と排便回数、排便処置回数ともに変化はみられなかった。しかしラキソベロンを減量している状況で排便回数が減少することはなかった。
・C氏
摂取前2ヶ月間は排便27回、排便処置は5回。摂取後2ヶ月間は排便23回と減少、排便処置は8回に増加となった。しかし便性状に関して、5月は普通便が25%に対し、6月は普通便が100%と改善。
・D氏
摂取前2ヶ月間は排便12回、排便処置は9回。摂取後2ヶ月間は排便16回に増加、排便処置は9回と不変。しかし便性状に関して、5月は普通便37%に対し、6月は普通便が80%と改善。また3~5月は自然排便が平均1回/月であったが、6月は自然排便7回と増加。
・E氏
摂取前2ヶ月間は排便47回、排便処置は5回。摂取後2ヶ月間は排便51回、排便処置は3回と軽度改善。便性状に関して、5月は普通便0%で軟便のみであったが、普通便が63%に改善。

【考察】
排便回数は5名中3名増加、排便処置回数は2名減少、便性状は4名が普通便へと改善がみられた。食物繊維の摂取により腸内環境を改善し、腸管蠕動運動を亢進させたことで、全ての対象者ではないが排便回数の増加・便性状の改善が多くみられ、下剤使用量の減量・排便処置回数の減少により、入所者のQOL向上につなげることができたと考えられる。
また副作用と考えられる症状はなく、摂取自体も混ぜるだけであったため容易であった。限られた人材で業務に追われる日々の中、実施方法が容易である点は食物繊維摂取の大きな利点である。
業務量の減少に関して、浣腸・摘便の実施は準備・処置・オムツ交換含め、平均で1回約13分の時間を要していたが、自然排便がみられたことで排便処置業務が減少した。看護師からは医療処置が減ったことで他の業務に時間を充てることができ、入所者と関わる時間が増えたと喜びの声が聞かれた。

【まとめ】
今回の調査では食物繊維の摂取にのみ着目したが、排便に対するアプローチは水分摂取・運動・マッサージ・温罨法など多様な方法があり、食物繊維だけでは効果が薄くても他のケアと併用することで、排便コントロールの効果を高めていく必要がある。便秘になっているからといってすぐに薬剤に頼るのではなく専門職として、入所者個人に合わせた方法を見つけるためにも多職種と連携し、職員全員で同じ目標に向かって対策をしていきたい。