講演情報
[15-O-H003-06]上げ下げしやすい紙パンツのトイレ動作への影響
*東 玲奈1、南本 進也1、南本 奈緒子1、岡 公昭1、辻野 佳代子1 (1. 京都府 介護老人保健施設 香東園やましな)
自立に向けた排泄支援を目的に、紙パンツの脱ぎ穿きの所要時間と使用感との関係について分析した。複数の紙パンツを用いて、トイレ内での脱ぎ下げ時間・はき上げ時間の測定と、脱ぎ穿きしやすさの聞き取り調査を実施した。紙パンツの違いにより、上げ下げに要する時間に差はなかったが、「脱ぎ穿きしやすい」と回答した時ほど、脱ぎ下げ時間が短くなる傾向がみられ、所要時間と使用感には関連性があることが示唆された。
1.はじめに
日常生活において、排泄支援は生活の質に繋がる重要なケアである。紙パンツ使用者はテープ式オムツ使用者に比べて排泄の自立度は高いが、疾患などにより身体機能に制限がある場合には排泄支援が必要となる。トイレ動作の一つに紙パンツの上げ下げ動作が含まれるが、脱ぎ穿きし易い紙パンツがトイレ動作にどのような影響を及ぼすのか、複数の紙パンツを用いて検証した。
2.目的
紙パンツの脱ぎ穿きし易さと上げ下げに要する時間との関連性を明らかにする。
3.対象者と試験品
対象者は日頃から紙パンツを着用している入居者12名(女性10名、男性2名、平均年齢88歳)。倫理的に本人・家族の同意が得られている。測定者:日頃から入居者の介助を行う者が、トイレ内での上げ下げに要する時間を測定する。試験品:脱ぎ穿きし易さを標榜している紙パンツ3種類(試験品A、試験品B、試験品C)を用いた。
4.方法
倫理的配慮においては、施設内の倫理委員会の許可を受けた上で進めた。個人情報の取り扱いは個人情報保護法に準じ厳守し、本人の拒否や精神面での変化があれば直ちに試験を中止することに同意を得て研究を行った。試験品の使用方法:被験者が日頃から使用している紙パンツに替え、試験品を1日1枚使用、同種類の試験品を3日連続3枚使用した。試験品を装着してすぐに、下記に示す上げ下げに要する時間測定*1)及び「脱ぎ穿きし易さ」の聞き取り調査*2)を毎回行った。調査後は試験品を着用したまま、普段通りの生活を過ごした。2日目も同様に試験を行い、3日目には、同様の試験に加えて、3日間試験品を実使用した後の「脱ぎ穿きし易さ」アンケート評価*3)を実施した。翌週、別の試験品を用いて同様の評価を行い、3週目も同様に行った。試験品の使用順は、ランダムに割付を行った。
*1)上げ下げに要する時間測定:被験者は試験品を装着し、その上から衣服を装着した状態でトイレ便座前に立ち、以下の指示通りに紙パンツの上げ下げを行い、「脱ぎ下げ時間」、「はき上げ時間」の測定を行った。「脱ぎ下げ時間」:「下げて下さい」の指示とともに、衣服及び試験品を下ろし、便座に座るまでの時間「はき上げ時間」:「上げて下さい」の指示とともに、試験品及び衣類を上げながら立ち上がり、衣類を整えるまでの時間
*2)脱ぎ穿きし易さ聞き取り調査:上げ下げ時の「脱ぎ穿きし易さ」を、5段階(脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/やや脱ぎ穿きし易くないー脱ぎ穿きし易くない)で聴取。
*3)脱ぎ穿きし易さアンケート:3日間実使用して感じた「脱ぎ穿きし易さ」を、5段階(脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/やや脱ぎ穿きし易くないー脱ぎ穿きし易くない)で聴取。
5.結果
5-1)上げ下げに要する時間脱ぎ下げ時間の平均は18.5秒、はき上げ時間の平均は29.4秒であり、はき上げに要する時間の方が10.9秒長かった。試験品別にみると、脱ぎ下げ時間はBが16.6秒、Aが18.7秒、Cが20.3秒。はき上げ時間はBが28.9秒、Aが28.6秒、Cが30.8秒であり、試験品別では上げ下げの所要時間に有意差は認められなかった。
5-2)脱ぎ穿きし易さ聞き取り調査上げ下げの所要時間を測定した直後に「脱ぎ穿きし易さ」を聴取し、所要時間と使用感との関連性を解析した。図表1に示したように、脱ぎ穿きし易いと回答した時ほど「脱ぎ下げ時間」が短くなる傾向が認められた。一方「はき上げ時間」は、「やや脱ぎ穿きし易い」と回答した時が一番短かった。
5-3)脱ぎ穿きし易さアンケート試験品の実使用時の脱ぎ穿きし易さについて、[脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/あまり脱ぎ穿きし易くない]の順で集計した結果、試験品Bでは[6名/3名/3名/0名]、試験品Aでは[4名/3名/5名/0名]、試験品Cでは[4名/3名/4名/1名]の回答であった。回答の分布に差は認められず、実使用での試験品の脱ぎ穿きし易さに差はないと考えられた。
6.考察
上げ下げしやすい紙パンツが、トイレ動作にどのような影響を及ぼすのか、上げ下げの所要時間や使用感を複数の紙パンツを用いて検討した。トイレでの排泄には様々な動作があり、紙パンツの脱ぎ穿き動作のみを抽出して厳密に時間測定することは困難と考え、脱ぎ穿き動作を2つに分けてそれぞれの動作で時間を測定した。脱ぎ下げ時間とはき上げ時間との間に正の相関がみられ、はき上げ時間が約11秒長かった。はき上げ時には着衣を整える動作も含まれるため、その分が長く計測されたと考察できる。時間測定を行った直後に、脱ぎ穿きし易さを聴取することで、所要時間と使用感との関連性を取得した。脱ぎ穿きし易いと感じた時ほど脱ぎ下げ時間が短く、使用感と動作時間には関連性が認められた。「脱ぎ穿きし易いと実感できること」は動作時間の短縮につながる可能性が示唆された。一方、はき上げ時間との間には、脱ぎ下げ時間の場合と比較して明確な関連性が認められなかったが、着衣の整えの動作まで計測していたことが原因と考えられた。
7.結論
紙パンツの脱ぎ穿き動作において、脱ぎ穿きし易いという使用感と脱ぎ下げに要する時間との間に一定の関連性が認められた。使用感の良い商品を吟味することは、自立に向けた支援として一つの重要な要素といえる。
日常生活において、排泄支援は生活の質に繋がる重要なケアである。紙パンツ使用者はテープ式オムツ使用者に比べて排泄の自立度は高いが、疾患などにより身体機能に制限がある場合には排泄支援が必要となる。トイレ動作の一つに紙パンツの上げ下げ動作が含まれるが、脱ぎ穿きし易い紙パンツがトイレ動作にどのような影響を及ぼすのか、複数の紙パンツを用いて検証した。
2.目的
紙パンツの脱ぎ穿きし易さと上げ下げに要する時間との関連性を明らかにする。
3.対象者と試験品
対象者は日頃から紙パンツを着用している入居者12名(女性10名、男性2名、平均年齢88歳)。倫理的に本人・家族の同意が得られている。測定者:日頃から入居者の介助を行う者が、トイレ内での上げ下げに要する時間を測定する。試験品:脱ぎ穿きし易さを標榜している紙パンツ3種類(試験品A、試験品B、試験品C)を用いた。
4.方法
倫理的配慮においては、施設内の倫理委員会の許可を受けた上で進めた。個人情報の取り扱いは個人情報保護法に準じ厳守し、本人の拒否や精神面での変化があれば直ちに試験を中止することに同意を得て研究を行った。試験品の使用方法:被験者が日頃から使用している紙パンツに替え、試験品を1日1枚使用、同種類の試験品を3日連続3枚使用した。試験品を装着してすぐに、下記に示す上げ下げに要する時間測定*1)及び「脱ぎ穿きし易さ」の聞き取り調査*2)を毎回行った。調査後は試験品を着用したまま、普段通りの生活を過ごした。2日目も同様に試験を行い、3日目には、同様の試験に加えて、3日間試験品を実使用した後の「脱ぎ穿きし易さ」アンケート評価*3)を実施した。翌週、別の試験品を用いて同様の評価を行い、3週目も同様に行った。試験品の使用順は、ランダムに割付を行った。
*1)上げ下げに要する時間測定:被験者は試験品を装着し、その上から衣服を装着した状態でトイレ便座前に立ち、以下の指示通りに紙パンツの上げ下げを行い、「脱ぎ下げ時間」、「はき上げ時間」の測定を行った。「脱ぎ下げ時間」:「下げて下さい」の指示とともに、衣服及び試験品を下ろし、便座に座るまでの時間「はき上げ時間」:「上げて下さい」の指示とともに、試験品及び衣類を上げながら立ち上がり、衣類を整えるまでの時間
*2)脱ぎ穿きし易さ聞き取り調査:上げ下げ時の「脱ぎ穿きし易さ」を、5段階(脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/やや脱ぎ穿きし易くないー脱ぎ穿きし易くない)で聴取。
*3)脱ぎ穿きし易さアンケート:3日間実使用して感じた「脱ぎ穿きし易さ」を、5段階(脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/やや脱ぎ穿きし易くないー脱ぎ穿きし易くない)で聴取。
5.結果
5-1)上げ下げに要する時間脱ぎ下げ時間の平均は18.5秒、はき上げ時間の平均は29.4秒であり、はき上げに要する時間の方が10.9秒長かった。試験品別にみると、脱ぎ下げ時間はBが16.6秒、Aが18.7秒、Cが20.3秒。はき上げ時間はBが28.9秒、Aが28.6秒、Cが30.8秒であり、試験品別では上げ下げの所要時間に有意差は認められなかった。
5-2)脱ぎ穿きし易さ聞き取り調査上げ下げの所要時間を測定した直後に「脱ぎ穿きし易さ」を聴取し、所要時間と使用感との関連性を解析した。図表1に示したように、脱ぎ穿きし易いと回答した時ほど「脱ぎ下げ時間」が短くなる傾向が認められた。一方「はき上げ時間」は、「やや脱ぎ穿きし易い」と回答した時が一番短かった。
5-3)脱ぎ穿きし易さアンケート試験品の実使用時の脱ぎ穿きし易さについて、[脱ぎ穿きし易い/やや脱ぎ穿きし易い/どちらとも言えない/あまり脱ぎ穿きし易くない]の順で集計した結果、試験品Bでは[6名/3名/3名/0名]、試験品Aでは[4名/3名/5名/0名]、試験品Cでは[4名/3名/4名/1名]の回答であった。回答の分布に差は認められず、実使用での試験品の脱ぎ穿きし易さに差はないと考えられた。
6.考察
上げ下げしやすい紙パンツが、トイレ動作にどのような影響を及ぼすのか、上げ下げの所要時間や使用感を複数の紙パンツを用いて検討した。トイレでの排泄には様々な動作があり、紙パンツの脱ぎ穿き動作のみを抽出して厳密に時間測定することは困難と考え、脱ぎ穿き動作を2つに分けてそれぞれの動作で時間を測定した。脱ぎ下げ時間とはき上げ時間との間に正の相関がみられ、はき上げ時間が約11秒長かった。はき上げ時には着衣を整える動作も含まれるため、その分が長く計測されたと考察できる。時間測定を行った直後に、脱ぎ穿きし易さを聴取することで、所要時間と使用感との関連性を取得した。脱ぎ穿きし易いと感じた時ほど脱ぎ下げ時間が短く、使用感と動作時間には関連性が認められた。「脱ぎ穿きし易いと実感できること」は動作時間の短縮につながる可能性が示唆された。一方、はき上げ時間との間には、脱ぎ下げ時間の場合と比較して明確な関連性が認められなかったが、着衣の整えの動作まで計測していたことが原因と考えられた。
7.結論
紙パンツの脱ぎ穿き動作において、脱ぎ穿きし易いという使用感と脱ぎ下げに要する時間との間に一定の関連性が認められた。使用感の良い商品を吟味することは、自立に向けた支援として一つの重要な要素といえる。