講演情報

[15-O-H004-03]膀胱留置カテーテルと尿バッグのアクシデントをゼロにキャンプチェア用ネット等を活用した管理方法の見直し

*藤井 由紀子1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設おうじゅ)
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膀胱留置カテーテルと尿バッグを使用する5人の入所者について、尿バッグを車いすの車輪に巻き込み破損するアクシデントや、浴室と居室等で感染リスクの高い危険な使用実態が認められたため、キャンプチェア用ネット等を活用して管理方法の見直しを行った。
結果、事故や感染リスク等を減少させ、アクシデント報告を0件にすることができた。ご家族からも喜びの声をいただき、職員の意識向上に繋がる有益な活動となった。
【はじめに】
介護老人保健施設おうじゅは岐阜県不破郡垂井町にあり、平成27年8月に全室個室のユニット型老健として開設し今年で9年目を迎える。経営母体である病床数281床の博愛会病院を中心に多様な介護・福祉サービスと連携し、地域に根ざした医療・看護・介護サービスを提供している。
【目的】
現在、定員60人(2階30人、3階30人)のうち5人の入所者が尿閉等の排尿障害を伴って膀胱留置カテーテル及び尿バッグを使用されている。膀胱留置カテーテルと尿バッグを使用されている入所者は、夜間も看護師が常駐している3階に入所していただいており、過去には最大で7人の使用者がおられ、看護師による排尿の性状や量の確認、交換作業等といった負担が増大した時期もあった。
そんな中、車いすのアームサポートに取り付けていた入所者の尿バッグが、車いすの車輪部分に巻き込まれて破損するというアクシデントが発生した。このような事故は滅多に発生しないが、確認のため過去5か月分のインシデント・アクシデントレポートを調査すると、同じような「車いすの車輪に尿バッグを巻き込みそうになったが未然に防いだ」という内容や「浴室の脱衣室で尿バッグが床に直置きされており感染の危険がある」、「入所者がベッドに臥床されている時に、ベッド柵に固定された尿バッグの位置が身体の高さよりも高い位置にあった」等の膀胱留置カテーテルと尿バッグに関連する報告が月5件~9件あったことが分かった。これらの内容は、以前より看護師から職員に注意されてきた内容であったが、口頭指導や文書等での意識付けだけでは根本的な解決には結びついていないのが現状である。このままでは、破損した尿バッグから漏れ出た尿で足を滑らせ転倒する事故や、尿の逆流により尿毒症や敗血症等の重篤な感染症を引き起こす可能性があるため、看護師を中心に入所者の生活や支援に関わるリハビリ職員や介護職員、支援相談員等の多職種連携で問題を解決することにした。
【方法】
1)車いすへの安全な設置方法を決定・統一する。
当施設の車いす使用者については、尿バッグを車いすのアームサポートか背面にS字フックを使って設置している。背面への設置は、入所者に認知症状があり膀胱留置カテーテルを自己抜去する可能性があるかどうか等で判断しているが、その判断は職員個々に任されている。また、背面に設置した尿バッグの中には、座面より高い位置に設置されているものもあり、安全で統一された設置方法を検討する必要があることが分かった。なお、博愛会病院と法人内の2つの施設サービス(多床室型老健と特養)でも車いすへの設置場所はほとんど変わりがなかった。
リハビリ職員から「尿バッグを座面より下にしたいのであれば、車いすの下にネットを付けて、そこに置いてみてはどうか」という提案があり、職員の自宅にあった農業用ネットを取り付けてみることに。この方法は、膀胱留置カテーテルのルートや尿バックの位置も適切に確保でき、座面より可能な限り下にできるため逆流等の心配もない。とても良い方法と思われたが、この農業用ネットはカットしたネットの切れ端がボロボロと落ち、また、車いすに固定するために結束バンドや金具が必要なため、車いすを交換しようとした場合に手間がかかることが分かった。そこで、これらの問題を解決できる物はないかと探索したところ、100円均一で「キャンプチェア用ネット」を発見した。これは、低コストで尿バックを置くのに大きさも丁度良く、汚染しても洗濯できる点で優れていた。また、簡単に装脱着が可能なバックルが付いており誰でも取り扱いが簡単である。実際に、装着した車いすを試走すると、膀胱留置カテーテルや尿バッグは車いすの下を通すため車輪に巻き込まれる心配がなく走行できること分かった。
併せて、尿バッグを中身が見えない洗濯可能な袋に入れ、S字フック(大・中・小3種類から入所者の体格や車いすの大きさ等で選択できる)を使い、ネットに立て置く方法を採用した。そして、この方法を職員で統一することにした。
2)歩行器や浴室・ベッド臥床時の管理方法を統一する。
歩行器では、腰の位置より下に設置する。浴室の脱衣室では、S字フックを使い床に直置きにならないよう調整し手すり等に掛け、機械浴槽についても尿バッグを掛ける吸盤フックを取り付けた。ベッド臥床時には、ベッドの高さより下で、かつ床には置かないようS字フックを使いベッド柵に掛けるようにした。
3)標準化・定着できる体制を整える。
新人や異動職員が入職した時は看護長が教育を行い、各ユニットリーダーは、毎月1回のユニットカンファレンスで、尿バッグ等が正しい位置に設置されているか、ネット等の物品も含めて破損や劣化はないかを確認することで、問題が再発しないよう取り組んだ。
【結果】
尿バックを車いすの車輪に巻き込む事故や尿バッグを床へ直置きすることも無くなり感染リスクも減少したため、膀胱留置カテーテルと尿バッグに関連するアクシデント報告は0件となった。また、ご家族からも「私も車輪に巻き込んだことがあります。袋に入れていただく配慮までしていただき嬉しいです。」と喜びの声をいただいた。この声を聞き、職員の意識とモチベーションUPにも繋がった。
【まとめ】
「車いすのアームサポートに尿バッグがついている」という、職員の当たり前に気がつき取り組めたことは大変良かった。膀胱留置カテーテルや尿バックの管理については、看護師の役割という認識が強くあったが、介護職員を含めた全員で対応する意識へ転換できた。今後は、この取り組みが風化することがないよう「標準化と定着」ができるよう取り組んで行く。