講演情報

[15-O-L010-01]ゲーム機器(任天堂スイッチ)を活用して楽しく脳トレ

*下中 源衛1、吉田 裕美1 (1. 香川県 介護老人保健施設五色台)
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今回、任天堂スイッチ及び脳トレソフトを用いて通所リハ利用者3名に対し、認知機能低下予防に効果的であるか、また楽しみをもって行っていただけるかを検証する目的で介入を行った。期間は3カ月間、100問計算・写真記憶・二重課題の3項目を選択し、それぞれの計測タイムや各種評価結果にて比較した。楽しみを感じながら行うことで3名とも計測タイム及び評価結果の向上が認められた為、その過程をここに報告する。
「はじめに」
近年、老健施設やデイケアなどにおける脳トレの方法は計算問題やパズルなど多岐にわたっている。またタブレットやスマートフォンの普及によりデジタル機器を使用した脳トレも行われている。そこで現在のデジタル社会において私自身が高齢になった時、どのような脳トレ方法があると楽しく実施でき、かつ継続できるかを考えたときゲーム機器が思い浮かんだ。そこで今回は任天堂スイッチ(以下スイッチ)及び脳トレソフトを導入することでどのような効果があるか興味を持ち介入を行った。
「目的」
スイッチを活用した脳トレに楽しみを感じていただけるか、また認知機能低下予防に有効かを検証する目的として介入を行った。
「介入期間および方法」
介入期間は3カ月間、1カ月ごと3期に分け、実施頻度は週2回、時間は約30分と設定した。使用機器は任天堂スイッチ、ソフトは脳を鍛える大人のトレーニングを使用。脳トレとして実施する項目は計算100問、写真記憶、二重課題の3項目を選択。
「評価方法」
認知機能評価をMini Mental State Examination(以下MMSE)及び3項目の計測タイム、身体機能面をBarthel Index(以下BI)、主観的評価として満足度を評価するためVisual Analogue Scale(以下VAS)及びアンケートを用いた。
「対象者」
介入を行うにあたり同意の得られた当施設デイケア利用者3名を対象とした。
A氏 女性 80歳 (孫と同居)
B氏 女性 72歳
C氏 男性 81歳
「経過及び評価結果」
第1期:介入開始前に初回評価としてMMSEとBIを実施。
  MMSE    BI
A氏 26点   90点
B氏 28点   95点
C氏 20点  100点
3名とも視力や書字に問題はなく、日常生活に大きな支障はない。
さらにA氏においては孫がスイッチを所持しているとの回答もあった。
第1期終了時各種評価結果
   MMSE  VAS   BI   計算100問  写真記憶  二重課題
A氏  27点    7    90点    6m10s   2m30s    4m34s
B氏  29点    7    95点    7m56s    3m6s    4m2s
C氏  22点    6   100点   10m34s    3m54s    5m10s
VAS=楽しく脳トレが行えているかの満足度
日常生活での変化
A氏-家族との会話の増加 B氏-他利用者との会話の増加 C氏-他利用者との会話の増加
第2期:当初あった不安感や苦手意識はスタッフとマンツーマンで行い安心を促す声掛けを継続して行うことで、苦手意識が低下し意欲的に実施されるようになった。
第2期終了時各種評価結果
   MMSE  VAS   BI   計算100問  写真記憶  二重課題
A氏  28点    9    90点    5m1s    1m50s    3m20s
B氏  30点    8   95点   7m10s    2m42s    3m23s
C氏  24点    8   100点   9m55s    3m22s    4m45s
日常生活での変化
A氏-自宅でもスイッチを使用 B氏-デイケア利用日が楽しみ C氏-スイッチへの苦手意識低下
第3期:スイッチの操作に慣れてこられ不安感や苦手意識はほぼなくなり、さらに前向きに実施されるようになった。
第3期終了時各種評価結果
   MMSE  VAS   BI   計算100問  写真記憶  二重課題
A氏  29点   10   90点   4m27s    1m25s     3m4s
B氏  30点    9   95点   6m59s    2m23s    3m6s
C氏  25点    9   100点   9m33s     2m59s    4m20s
日常生活での変化
A氏-自宅でも継続して行いたい B氏-さらに脳トレへの興味がわいた C氏-新しいことに挑戦でき自信がついた
初回評価(MMSE・BI)及び第1期終了時(VAS・3項目の計測タイム)と最終評価を比較し、向上数値を以下にまとめた。
   MMSE  VAS   BI     計算100問   写真記憶    二重課題
A氏  3点    3   変化なし    1m43s     1m5s     1m30s
B氏  2点    2   変化なし       57s       43s        56s
C氏  5点    3   変化なし     1m1s        55s        50s
特にA氏の計測タイムにおいてはB氏C氏と比較し大きく向上した。
「考察」
それぞれの評価項目において3名とも数値の向上が認められた要因として、スイッチを使用し脳トレを実施していることを他利用者と共有することで他者から興味を持たれ会話が増えることで、脳トレへの取り組み意欲が向上したことや、スイッチの操作や脳トレに慣れることで自信につながり、そのことが「楽しみ」につながったのではないかと考えられる。介入初期は3名ともゲーム機器に対し苦手意識を有していたが、慣れるまでスタッフとマンツーマンにて行い、プレッシャーを与えずゆとりをもって介入できたことが継続につながり、楽しみを感じながら継続的に脳トレを実施したことが脳の活性化に寄与し、それぞれの評価結果が向上した要因と考えられる。
また日常生活の変化やアンケートにおいても、家族や他者とのコミュニケーションが増えたことが活動意欲の向上や高い満足度となり「楽しく脳トレ」ができたことにつながっているのではないかと考える。つまり一人で脳トレを行うのではなく、家族や他者との関りを広げながら行うことがより効果的だと考えられる。
注目すべき点として脳トレ3項目の評価結果においてA氏がB氏C氏と比較し、大きく向上した背景として介入開始後A氏が家族間の会話で当施設にてスイッチを使用して脳トレを行っていることを伝えると、もともと孫がスイッチを所持していたことも相まって、自宅にて同様のソフトを使用し脳トレを継続して実施できたことが挙げられる。このことにより認知機能低下予防につながり、さらには家族間の関りが増えることで日常的に対象者の心身状態の把握が可能となり家族構成や家族協力の要因も大きく関わるが、在宅生活をより長く、より安心して送れるのではないかと考える。