講演情報

[15-O-L010-06]ロコモ―ショントレーニングの効果検証通所リハビリテーション利用者に対して

*川村 明日香1、氏家 恭世1 (1. 千葉県 介護老人保健施設 みさきの郷)
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通所リハビリテーション利用者に対し、ロコモーショントレーニングを8週間実施しバランス能力への効果を検証した。効果として静的・動的バランスどちらも改善されるとしているが、体調不良等で回数が十分に出来なかった方もおり、結果として静的バランスのみの改善しかみられなかった。しかし、体調不良者以外で評価すると動的バランスにも効果がみられる事から、継続する事でバランス能力への効果があると考えられた。
「はじめに、目的」
 新井らは、現在高齢化が進む我が国では、高齢者の介護予防のみならず運動器の障害、すなわちロコモティブシンドローム(以下ロコモ)の予防が重要であると述べている。ロコモとは、運動器の障害により日常生活の自立度が低下し、要介護の状態や要介護の危険性のある状態と定義され、2007年に提唱された概念である。またロコモの予防にはロコモーショントレーニング(以下ロコトレ)、と呼ばれる運動があり、片足立ち、スクワットが推奨されている。
 新井らは、地域在住のシルバー人材センターに登録している60歳以上の高齢者(平均年齢69.8歳)に対しロコトレの効果を検証し、足指把持力、片足立ち時間、Functional Reach Test(以下FRT)、Timed Up and Go Test(以下TUGT)に関し有意な改善が見られたと報告している。
 前回、この先行研究におけるバランス能力の改善に着目し、すでに要介護認定を受けている方でも同様な効果があるのではないかと考え、通所リハビリテーション利用者に対するロコトレを1日2回、4週間実施しFRT、TUGTへの影響を検証した。結果として、FRTの測定結果の改善(静的バランス能力の向上)のみみられ、TUGT(動的バランスの向上)の測定結果の改善はみられなかった。
 この結果の理由として、出口らは75歳以上の高齢者に対しバランスエクササイズを行った結果、FRTが4週間で効果が見られたのに対しTUGTは効果の出現に8週間を要したことから、静的バランス能力向上後に動的バランス能力の向上がみられるのではないか、としており同様の理由が挙げられると考えた。
 その為、今回はロコトレの期間と回数を変更し、通所リハビリテーション利用者へのバランス能力(FRTとTUGT)への影響を再度検証した。
「対象・方法」
 対象はこの研究に同意を頂いた、歩行可能でトレーニングの実施が可能である通所リハビリテーション利用者6名、平均年齢は81.5歳(66歳から87歳)、平均介護度1.83、男性2名、女性4名とした。ロコトレは日本整形外科学会が推奨している片足立ち、スクワットを行い、頻度は1日3セット、8週間毎日行った。測定項目としては、FRT、TUGTの測定を行った。これらの測定をロコトレ前後に行い、効果を検証した。
「倫理的配慮・説明と同意」
 本研究は対象者全員に対し、研究の概要と目的、個人情報の保護などが記載された説明文書を用いて説明を行い、書面にて同意を得た。また、本研究は当施設幹部会承認のもと行っている。
「結果」
 8週間のトレーニングを行った結果、FRTは27.4±3.2mから33.6±4.8cmに変化し有意な改善を示した。対してTUGTは15.8±1.2秒から15.1±2.2秒の変化となっており、有意な改善を示さなかった。(表1)
 また、施行期間中に転倒されてしまいロコトレが継続して出来なかった例(表1B様、F様)や、施行終了前より、既往の座骨神経痛が悪化してしまった例もあった。(表1C様)
(表1) 「考察」
 今回の測定の結果、新井らの先行研究にて有意な改善が見られていたTUGT、FRTの内FRTのみにしか有意な改善が見られなかった。この結果の原因として、痛みの出現やロコトレが施行出来ない期間が出てしまった事が挙げられる。8週間のロコトレの施行中に転倒してしまった方や、終了前から既往の座骨神経が悪化してしまった方がおり、3名ほど体調の優れない状態で測定した為、測定数値に影響が出てしまったのではないかと考えた。また、施行期間中に転倒してしまった事でロコトレを休んでしまった期間があった事も原因として挙げられる。体調不良や痛みが無かった3名の方は8週間ほぼ毎日ロコトレを施行出来ており、測定結果としてTUGTは16.2±1.5秒から13.5±1.7秒と有意な改善が見られている事から、動的バランスの向上が考えられる。
「結論」
 今回、通所リハビリテーション利用者に対する8週間のロコトレの効果として、6名全員の結果でみると、FRTの測定結果の改善、すなわち静的バランス能力の向上のみしかみられなかったが、体調不良が出現しなかった3名のみで結果をみるとTUGTの改善、動的バランス能力の向上もみられた。その為、要介護認定を受けていても、ロコトレを継続する事で、静的バランス、動的バランス共に効果があるのではないかと考える。また、今回本研究に同意を頂き施行出来た方が6名しかいなかった為、今後対象者を増やして行う事で更に有意な結果が得られるのではないかと考える。
研究終了後もロコトレを継続して頂き、目的である要介護、又はそれに準ずる状態の予防に繋げていきたいと考える。
「謝辞」
今回本研究の実施に関しご協力いただいたご利用者様、及びご家族様の皆様方に心より感謝いたします。
「参考文献」
1)社団法人日本整形外科学会:ロコモパンフレット
2)新井 智之ら:地域在住中高齢者に対するロコモーショントレーニングの効果検証
3)出口 直樹ら:バランス能力に必要な期間とエクササイズ頻度に関する研究