講演情報

[15-O-L010-07]通所リハにおいて脳賦活運動と机上課題を導入した効果

*甲斐 里奈1 (1. 大阪府 箕面市立介護老人保健施設)
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当施設の通所リハビリテーション(以下,通所リハ)では、認知症予防を目的として、新たに集団での脳賦活運動と机上課題を導入した。結果、2か月介入後、全体的に認知機能が改善し、日常での活動意欲の向上を認めた。また、8か月介入後も、認知機能は更に改善し、運動による介入のみならず、同時に脳賦活を促す課題を与えることが認知症予防、認知機能の改善に繋がると示唆された。
【はじめに】
 認知症の人が他の人々と支え合いながら共生できる環境整備が求められている。当施設の通所リハでは、令和5年10月より、認知症予防を目的として新たに集団での脳賦活運動と机上課題を導入した。その結果、認知機能の改善が図られたので報告する。
【対象】
 当施設の通所リハを、令和4年4月以降に新規利用された24名(平均年齢:85.1±6.8歳,要介護1:11名,要介護2:7名,要介護3:2名、要介護4:3名,要介護5:1名)を対象とした。対象者は8名が認知症と診断され(アルツハイマー型:4名,その他:4名)、認知症疑いまたは軽度認知障害(以下,MCI)該当者が16名含まれていた。
【期間】
 令和5年10月~令和6年6月(8か月)
【方法】
 認知症予防の脳賦活運動および机上課題を集団で実施した。脳賦活運動は、運動課題と脳活性化を促す認知課題を同時に行う運動を15分実施した。机上課題は、パズル・トランプ・型はめなどの道具を用いた課題を実施時の個々の状態に合わせて15分実施した。机上課題終了後は、利用者の頑張りを具体的に褒め、喜びを共有した。成功や達成が体感できることを重視し、声掛け、適切な行動への誘導、難易度を適宜変更しながら、プログラムに多様性を持たせることを意識した。
 通所リハの利用は、認知症の診断がある利用者の内、週1回が4名、週2回が4名であった。また、認知症疑いまたはMCI該当者は、週1回が4名、週2回が7名、週3回以上が5名であった。
 認知機能の評価としてMMSEを介入前、2か月後および8か月後に実施し、MMSEの2か月後および8か月後の変化量(介入後-介入前)を算出した。リハビリの進捗状況は、定期的にリハビリ会議で利用者、家族、ケアマネジャー、介護士等と共有し、在宅での変化を聞き取った。
【結果】
 MMSEにおいて、認知症と診断された8名のうち2か月後6名が改善(週1回:2名,週2回:4名)、8か月後7名が改善した(週1回:3名,週2回:4名)。8か月後のMMSE変化量は週1回利用より週2回利用の方が大きかった(週1回:2.8±1.8,週2回:4.5±2.6)。また、認知症疑いまたはMCI該当者16名は2か月後14名が改善(週1回:3名,週2回:6名,週3回以上:5名)、8か月後13名が改善した(週1回:3名,週2回:5名,週3回以上:5名)。8か月後のMMSE変化量は週1回利用より週2回および週3回以上利用の方が大きかった(週1回:1.5±3.2,週2回:3.4±3.6,週3回以上:3.6±2.1)。
 在宅生活では、2か月目から意欲の向上が認められた。家族より、在宅生活での変化を感じる声も多く聞かれ、在宅生活の変化は、8か月後も維持できていた。
 次に、認知症(アルツハイマー型)と診断されている3名の実例を紹介する。A氏(週2回利用)は、実際になかったことを本当にあったかのように話をしたり、何度も同じことを聞き、特定の利用者の行動をいつも真似ていた。すぐに気が散り、寝ていることも多く、自宅では、散歩に行っても帰宅困難となることが多いため、靴にはGPSをつけていた。介入を続けた結果、話の辻褄が合うようになり、多くの利用者との交流を行うようになった。活動には意欲的に集中して取り組み、集団で会話を行ったり、笑顔でいることも増えた。自宅では、散歩後に帰宅ができるようになり、友達との会話も想起できるようになった。通所リハの利用日前日には、レクリエーションで歌う歌を練習したり、自ら準備をするようになった。夫婦での会話も増え、共に散歩や買い物に行くことが再び出来るようになった。
 B氏(週1回利用)は、何もしたくない、何もする気が起きないと言っていたが、自宅でも散歩に行くようになった。
 C氏(週2回利用)は、表情が硬く、1人で過ごしていることが多かったが、自ら集団を作って自主トレーニングを行い、他者交流を図って、笑顔で過ごすことが増えた。同じ話を繰り返していた会話の内容にも変化がみられ、入居している施設でも積極的に散歩や自主トレーニング等の活動を行うようになった。
【考察】
 今回、集団での認知症予防の取り組みを行った結果、2か月介入後・8か月介入後ともに認知症疑いやMCI 該当者だけでなく、認知症の診断がある利用者でも認知機能の改善を認めた。また、活動意欲が向上し、会話や交流の機会が増えたため、生活の質の向上に繋がった可能性が示唆された。集団の効果としては、楽しさが増大し、継続する意志を強めるとされる。できた・やり遂げたという達成感が多くの人と共有することで増幅され、継続する意思を高めた可能性が考えられた。
 また、運動の習慣化に影響する要因として、プログラムの多様性があげられている。脳賦活運動と机上課題を組み合わせたことと、机上課題のプログラムに多様性をもたせることで、運動の習慣化に繋がった可能性がある。さらに、取り組みの状況は、リハビリ会議を通じて多職種連携を図りながら適宜内容の見直しを図った。より効果的なプログラムを提供し、在宅や通所リハでの自主トレーニングなど運動を取り入れる生活スタイルが確立したことで、週1回の利用であっても、生活での変化に繋がったと考えられる。
【まとめ】
 集団で運動と同時に脳賦活を促す課題を行うことが、認知症予防、認知機能の改善に有効である可能性が示唆された。更に、定期的に家族・ケアマネジャー・介護士等と在宅生活の状況や課題を共有しながらプログラムを継続することは、より効果的な認知症予防に繋がると期待される。