講演情報
[15-O-L011-01]非通所日に外出を促す仕組みによるADLの維持向上効果福祉Mover(ShareMover)を活用した取り組み
*淡嶋 雅俊1 (1. 群馬県 介護老人保健施設 創春館)
本研究では福祉Moverを用いてデイケア利用者の非通所日の外出を支援する仕組みを実施しその効果について検討することを目的とした。対象者のBI値の転帰をみるとほとんどが「維持」、わずかに「改善」があった。加齢に伴う影響を加味すればADLの維持・向上の一助になったのではないかと考えた。インタビューによって得られた反応は好意的であった。こうした仕組みが整備されていることが今後の高齢社会において重要であると考える。
【はじめに】デイケアに通所する目的の一つはADLの維持、そして向上をはかり、自らの人生のクオリティを上げるためである。しかしながら目的と手段が入れ替わり、利用者はデイケアへの通所することそのものが目的と捉えてしまい、デイケアのスタッフは日々の業務に追われ本来の目的を見失いがちである。その原因の一つとして、これまでのデイケアの業務の中にそれを解決する仕組みがないことが挙げられる。そこで、本研究では新たにデイ利用者の非通所日の外出を支援する仕組みを導入・実施し、その効果について検討する。【目的】非通所日の外出を支援する仕組みを導入し、実際に利用者に活用してもらい、客観的な指標を用いてADLの変化への影響について明らかにする。また、インタビューを通して定性的な効果を測定する。【方法】送迎計画作成支援ソフトウェア福祉Mover(ソーシャルムーバー社)を用いた非通所日の外出のサポートを希望する利用者を募集する。そして、対象者にはスマホ教室から運動療法、外出支援、相談援助を実施する。対象者のBIの値を経時的(1年間)にADLの変化を測定する。BIの推移の転帰別に単純集計を行う。また、対象者にインタビューを行い、定性的な効果を確認する。対象者:通所リハビリ利用者のうち、非通所日の外出支援を希望し利用した者 11名対象期間:令和5年8月~令和6年7月【参考】福祉Mover(ソーシャルムーバー社):送迎計画作成をデジタル化することで業務効率化をはかるソフトウェア。その機能の一つとしてShareMover(シェアムーバー)があり、デイケア利用者が非通所日のお出かけの希望(デマンド)を伝えることで、デイ送迎車の空き座席をシェアし目的地まで送迎することができる(移動に対する利用者の料金負担は無し)。【結果】対象者の年齢は60歳代4名(36.4%)、70歳代3名(27.3%)、80歳代3名(27.3%)、90歳代1名(9.1%)であった。性別は、男性7名(63.6%) 女性4名(36.4%)であった。対象者のBI値の転帰別の人数と割合は、対象期間中に「1.改善した後、維持」2名(18.2%)、「2.改善した後、悪化」0名(0%)、「3.変動なく維持」9名(81.8%)、「4.悪化した後、改善」0名(0%)、「5.悪化した後、維持」0名(0%)であった。 インタビューにより以下のような意見が得られた。「免許を返納したので気軽に外出することができない。娘や息子に頼んで外出していたが遠慮や後ろめたさがあった。このサービスのおかげで外出する機会が増えて助かった。もっと外に出たいと感じるようになった。」「無料では申し訳ないのでいくらかお支払いしたいくらいだ。」「外出先で移動距離が長く疲れた。体力をつけるリハビリをしたいと思う。」「創春館だけでなく他のデイサービスでも外出支援できるようにしてほしい。」「(本システムの制限として自宅から2キロ圏内を外出支援範囲内としているが)もう少し距離を伸ばして対応してくれると助かる。」「いつもデイ利用時に来てくれるドライバーさんや送迎車で来てくれるので、慣れないタクシーさんにお願いするより安心する。」「これからも継続してこのサービスを続けてほしい。」【考察】BI値による転帰をみると、ほとんどが「変化なく、維持」で横ばいであり、わずかに「改善した後、維持」がおり、期間中「悪化」した者はいなかった。本研究による影響がすべてとは判断できないが加齢に伴う衰えを加味すれば、非通所日の外出支援の仕組みが対象者のADLの維持・向上の一助になっているのではないかと考えられる。インタビューによって得られた反応は概ね好意的である。中でも「非通所日の外出を支援してくれる仕組みがあるからこそ、出かける意欲が湧いてきた」といった趣旨の発言は重要であると考える。介護サービスを利用していく中で、いつしかデイケアに通うことが目的となってしまいがちである。通所日には積極的にリハビリをする姿勢を見せつつ、非通所日には1日中テレビを見ながら横になっているというケースを耳にすることがある。しかし、本来は日常の生活を安定的に送り余暇時間を充実させたり、買い物や旅行、お墓参り等のお出掛けを実行するためにリハビリを行っているはずである。「外出先で移動距離が長く疲れた。体力をつけるリハビリをしたいと思う。」という声はまさにその目的を思い出したとも言える発言である。こうした本来の目的を果たすための仕組みとして、非通所日に外出を支援するサービスが整備されていることがこれからの高齢社会において重要であると考える。一方で、非通所日の外出支援の取り組みを始めてから「あのデイは休みの日の外出を支援してくれる」と評判になり、デイケア利用の新規申し込みが増えるという副次的な効果も得られた。介護サービスは地域の高齢者の生活を支えるインフラの一つとも言える。その経営の安定化も非常に重要な課題であるが、本事業のようなこれまでにない新たな取り組みを始めることによって経営においてもプラスになるという重要な示唆が得られた。