講演情報
[15-O-L011-07]復職を目指した一事例生活行為向上リハビリテーションを活用した介入効果
*窪田 峻大1、東山 菜々1、山崎 友美1、坂井 亜紀1、金山 洋子1、亀井 哲也1 (1. 富山県 介護老人保健施設みどり苑)
当苑通所リハビリテーションにおいて左視床出血により右片麻痺を呈した利用者を担当する機会を得た.復職を目標とする事例に対して生活行為向上リハビリテーションを実施し,自宅及び職場への訪問や環境調整,家族や多職種と連携した介入を行ったため報告する.
1.はじめに
当苑通所リハビリテーション(以下,通所リハ)において左視床出血により右片麻痺を呈した利用者を担当する機会を得た.復職を目標とする事例に対して生活行為向上リハビリテーションを実施し,自宅及び職場への訪問や環境調整,家族や多職種と連携した介入を行ったため報告する.
2.事例紹介
50代男性,妻と2人暮らし.X年Y月Z日,リモートワーク中に自宅で倒れ,左視床出血を発症.急性期,回復期病院を経て,Z+200日自宅退院.Z+204日に復職(システムエンジニア)を目的に,通所リハ利用開始(週4回)となった.
3.初期評価
BRSは上肢II・下肢II・手指II,右上腕~手指に異常感覚あり,右上肢アームスリング固定,握力は右測定不可・左20.1kg.歩行はワイド型の4点杖と短下肢装具装着し屋内移動は自立レベル,屋外移動は送迎時の約10m見守りレベル.10m歩行は48.6秒(40歩),3mTUGは47.0秒.入浴は通所リハにて実施,浴室内はシャワーキャリーにて移動介助,個別浴槽への出入りは手すり使用し見守りレベル,浴槽内立ち上がりは軽介助レベル,洗身洗髪は一部介助レベル.FIMは104/126点.介護度は要介護5.初回利用時の面接にて「仕事復帰は何とかなると思う」と楽観的な様子で,今後の目標については不明瞭,リハビリに対して受動的な印象を受けた.アセスメントの結果から,長期目標を復職とし,短期目標はADLに焦点を当て,歩行能力(耐久性,安定性)の向上,自宅内入浴動作の自立とした.
4.介入方法(生活行為向上リハビリテーションプログラム)
通所訓練期:利用開始~3か月 ※()内は自主訓練
【心身機能プログラム】
1)左上下肢関節可動域訓練 2)下肢体幹筋力増強訓練 3)起立立位バランス訓練
(ストレッチ,マシントレーニング)
【活動プログラム】
1)歩行訓練,歩行補助具の検討 2)施設敷地内での屋外歩行訓練
3)自宅玄関を想定した段差昇降訓練 4)自宅入浴環境を模した状態での入浴動作訓練
(歩行訓練,マシントレーニング)
【参加プログラム】
1)家族に対して事例の身体状態や自宅でしてもらうことについて相談・指導
2)職場内外の動線確認・事例の現状や受け入れ体制など情報共有,環境調整の提案
(パソコン作業,妻と一緒に近所の散歩・買い物へでかける)
社会適応訓練期:4か月~6か月 ※()内は自主訓練
【心身機能プログラム】
1)下肢体幹筋力増強訓練 2)起立立位バランス訓練 (ストレッチ,マシントレーニング)
【活動プログラム】
1)トレッドミルを使用した応用歩行訓練 2)施設敷地内での屋外歩行訓練
3)自宅入浴環境を模した状態での入浴動作訓練 4)自宅周囲での屋外歩行訓練
5)自宅環境での入浴を行う,福祉用具の選定,入浴手順の確認指導
(階段昇降訓練,歩行訓練,マシントレーニング)
【参加プログラム】
1)出勤退勤方法の検討,事例,家族,OTR,通所リハ相談員,CMで今後の方針確認
2)職場に行き短時間業務する
3)家族・職場スタッフに対して,事例の身体状態や勤務方法について相談・指導,
Web会議にて企業側と就労条件の調整について打ち合わせ
(パソコン作業,妻と一緒に近所の散歩・買い物へでかける)
5.最終評価
BRSは上肢II・下肢III・手指IVと下肢,手指に随意性の向上を認め,握力も右6.2kg・左25.6kgと向上した.右上腕~手指の異常感覚は残存.4点杖は支持基底面の小さいものに変更し,10m歩行は28.7秒(29歩),3mTUGは29.6秒と,歩幅が拡大し,歩行速度も向上した.また屋外歩行はリュックサック(2kg)を背負いながら400m程度(所要時間20分程度)の歩行が可能となり耐久性も向上した.入浴は,自宅環境にて浴室内移動のみ妻の見守りを要すも浴槽内出入りは手すり,バスボード,浴槽台を使用し自立,洗身洗髪動作は洗体タオル使用し自立となった.FIMは107/126点.要介護度は要介護5から要介護1に改善した.復職に関しては,2週間の模擬出社,産業医面談を経て復職予定となっている.
6.考察
今回,復職を目標とした事例に対し,生活行為向上リハビリテーションを行うことで,不明瞭であった目標を明確化でき,具体的な介入に繋がったと考える.
通所訓練期の段階で,実際に職場内の動線を確認し,職場環境の調整を行ったことで,リハ職だけでなく,本人自身が必要なリハビリのイメージができた.これにより耐久性や歩行速度など,現状と課題が明確化したことで,リハビリに対する意欲が向上したと考えられる.以降リハビリ以外の時間に自主的に歩行訓練やマシントレーニングを行うなど,1日の活動量や運動量が増え,全身耐久性の向上に繋がったと考える.
入浴動作については,介護職員と目標や介護方法の統一をしたことで,洗身洗髪動作,浴槽出入りの自立に繋がったと考える.また,自宅での入浴動作も家族と一緒に確認し,不安が解消したことで,自宅での入浴が可能となったと考える.
企業側に事例の現状を伝え,復職に向けた環境調整の依頼,通勤方法の検討を行ったことで復職の見込みとなった。しかし業務内容については不透明であり,また8時間労働が可能な耐久性の面でも不安があるため,短時間就労など段階的な勤務体制の提案を行った.
次回また復職支援に携わる機会があった場合は,今回の経験を活かし,業務内容についても詳しく踏み込んだアプローチを行い,企業と連携した支援を行っていきたいと考える.
当苑通所リハビリテーション(以下,通所リハ)において左視床出血により右片麻痺を呈した利用者を担当する機会を得た.復職を目標とする事例に対して生活行為向上リハビリテーションを実施し,自宅及び職場への訪問や環境調整,家族や多職種と連携した介入を行ったため報告する.
2.事例紹介
50代男性,妻と2人暮らし.X年Y月Z日,リモートワーク中に自宅で倒れ,左視床出血を発症.急性期,回復期病院を経て,Z+200日自宅退院.Z+204日に復職(システムエンジニア)を目的に,通所リハ利用開始(週4回)となった.
3.初期評価
BRSは上肢II・下肢II・手指II,右上腕~手指に異常感覚あり,右上肢アームスリング固定,握力は右測定不可・左20.1kg.歩行はワイド型の4点杖と短下肢装具装着し屋内移動は自立レベル,屋外移動は送迎時の約10m見守りレベル.10m歩行は48.6秒(40歩),3mTUGは47.0秒.入浴は通所リハにて実施,浴室内はシャワーキャリーにて移動介助,個別浴槽への出入りは手すり使用し見守りレベル,浴槽内立ち上がりは軽介助レベル,洗身洗髪は一部介助レベル.FIMは104/126点.介護度は要介護5.初回利用時の面接にて「仕事復帰は何とかなると思う」と楽観的な様子で,今後の目標については不明瞭,リハビリに対して受動的な印象を受けた.アセスメントの結果から,長期目標を復職とし,短期目標はADLに焦点を当て,歩行能力(耐久性,安定性)の向上,自宅内入浴動作の自立とした.
4.介入方法(生活行為向上リハビリテーションプログラム)
通所訓練期:利用開始~3か月 ※()内は自主訓練
【心身機能プログラム】
1)左上下肢関節可動域訓練 2)下肢体幹筋力増強訓練 3)起立立位バランス訓練
(ストレッチ,マシントレーニング)
【活動プログラム】
1)歩行訓練,歩行補助具の検討 2)施設敷地内での屋外歩行訓練
3)自宅玄関を想定した段差昇降訓練 4)自宅入浴環境を模した状態での入浴動作訓練
(歩行訓練,マシントレーニング)
【参加プログラム】
1)家族に対して事例の身体状態や自宅でしてもらうことについて相談・指導
2)職場内外の動線確認・事例の現状や受け入れ体制など情報共有,環境調整の提案
(パソコン作業,妻と一緒に近所の散歩・買い物へでかける)
社会適応訓練期:4か月~6か月 ※()内は自主訓練
【心身機能プログラム】
1)下肢体幹筋力増強訓練 2)起立立位バランス訓練 (ストレッチ,マシントレーニング)
【活動プログラム】
1)トレッドミルを使用した応用歩行訓練 2)施設敷地内での屋外歩行訓練
3)自宅入浴環境を模した状態での入浴動作訓練 4)自宅周囲での屋外歩行訓練
5)自宅環境での入浴を行う,福祉用具の選定,入浴手順の確認指導
(階段昇降訓練,歩行訓練,マシントレーニング)
【参加プログラム】
1)出勤退勤方法の検討,事例,家族,OTR,通所リハ相談員,CMで今後の方針確認
2)職場に行き短時間業務する
3)家族・職場スタッフに対して,事例の身体状態や勤務方法について相談・指導,
Web会議にて企業側と就労条件の調整について打ち合わせ
(パソコン作業,妻と一緒に近所の散歩・買い物へでかける)
5.最終評価
BRSは上肢II・下肢III・手指IVと下肢,手指に随意性の向上を認め,握力も右6.2kg・左25.6kgと向上した.右上腕~手指の異常感覚は残存.4点杖は支持基底面の小さいものに変更し,10m歩行は28.7秒(29歩),3mTUGは29.6秒と,歩幅が拡大し,歩行速度も向上した.また屋外歩行はリュックサック(2kg)を背負いながら400m程度(所要時間20分程度)の歩行が可能となり耐久性も向上した.入浴は,自宅環境にて浴室内移動のみ妻の見守りを要すも浴槽内出入りは手すり,バスボード,浴槽台を使用し自立,洗身洗髪動作は洗体タオル使用し自立となった.FIMは107/126点.要介護度は要介護5から要介護1に改善した.復職に関しては,2週間の模擬出社,産業医面談を経て復職予定となっている.
6.考察
今回,復職を目標とした事例に対し,生活行為向上リハビリテーションを行うことで,不明瞭であった目標を明確化でき,具体的な介入に繋がったと考える.
通所訓練期の段階で,実際に職場内の動線を確認し,職場環境の調整を行ったことで,リハ職だけでなく,本人自身が必要なリハビリのイメージができた.これにより耐久性や歩行速度など,現状と課題が明確化したことで,リハビリに対する意欲が向上したと考えられる.以降リハビリ以外の時間に自主的に歩行訓練やマシントレーニングを行うなど,1日の活動量や運動量が増え,全身耐久性の向上に繋がったと考える.
入浴動作については,介護職員と目標や介護方法の統一をしたことで,洗身洗髪動作,浴槽出入りの自立に繋がったと考える.また,自宅での入浴動作も家族と一緒に確認し,不安が解消したことで,自宅での入浴が可能となったと考える.
企業側に事例の現状を伝え,復職に向けた環境調整の依頼,通勤方法の検討を行ったことで復職の見込みとなった。しかし業務内容については不透明であり,また8時間労働が可能な耐久性の面でも不安があるため,短時間就労など段階的な勤務体制の提案を行った.
次回また復職支援に携わる機会があった場合は,今回の経験を活かし,業務内容についても詳しく踏み込んだアプローチを行い,企業と連携した支援を行っていきたいと考える.