講演情報

[15-O-L012-02]家庭用TVゲーム(体験型)を活用したリハビリの有効性

*倉地 康人1、蒔田 学1、鈴木 成美1、大野 元督1 (1. 愛知県 医療法人親和会老人保健施設松和苑)
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デイケアご利用者様のバランス機能、満足度向上を目的に家庭用TVゲームを導入して得られた効果について報告する。通常のリハビリ後に15分間TVゲームを実施して、3週間毎にバランス機能評価(全9週間)を行った結果、バランス評価に一定の効果が得られ、ご利用者様の満足度向上にも繋がった。反復的に運動・動作を行うだけではなく「楽しむ事」がモチベーションを高く保ち、短期間で大幅な機能の改善に繋がったと考える。
【はじめに】
 当施設のデイケアご利用者様から「転ばないように日常を過ごしたい」「最近転びやすくなった」とバランス機能の衰えを不安に思われる方が増え、実際にご自宅で転倒している方も多く報告を受けている。その一方でバランス訓練は大変でなかなか続かない。との声も聞かれる。そこで、エンターテイメント性を取り入れ、楽しみながらバランス機能向上と日常生活の活性化へと繋げる事を目的に家庭用TVゲーム機(体験型)を導入した。これはTV画面を通して、擬似的に手軽に楽しくスポーツ体験を楽しめるものである。導入から9週間で得られたご利用者様の反応・効果を報告する。

【研究方法】
《期間》令和6年5月1日~6月30日
《評価方法》
3週間ごとにバランス機能を評価
《対象者》
本施設通所リハビリご利用中の6名(立位姿勢を保つ事ができ、歩行時にふらつきが生じる方を対象とする)
《実施方法》
リハビリメニュー後に15分間、直感的に動かすスポーツゲーム(ボウリング、テニス、バレー)を実施。
取り組みにより得られたバランス機能(ステップ動作、立位バランス、転倒予防機能)の効果を以下の検査にて数値化して、経過観察を行った。
(1)TUG(Timed up &Go Test)
《基準》A.自立歩行:10秒未満、B.ほぼ自立:11-19秒、C.歩行が不安定:20-29秒以上、D歩行障害あり:30秒以上
(2)FRT(Functional Reach Test)
《基準》A.転倒リスク低:30cm以上、B.転倒リスク中:25-30cm、C.転倒リスク高:20cm未満
(3)片脚立位テスト
《基準》A.転倒リスク低:21秒以上、B.転倒リスク高:20-16秒、C.運動器不安定症リスク高:15秒未満

【結果】
 開始から3週間の時点ではゲームの操作方法がわからず、途中で諦めてしまうご利用者様もいた。繰り返し説明する事や慣れるまでに時間を要しており、ご利用者様の潜在能力を最大限に引き出す事ができず、数値として大きな変化は見られなかった。開始から6週間目に入り、ご利用者様がゲームの操作方法にも慣れて、自主的に行う時間が増加。初回時と比較して対象者6名の平均数値は(1)TUG:1,8秒(2)FRT:2,3cm(3)片脚立位:2,1秒の向上が見られる。開始から9週間目では、意欲的にゲームを取り組むようになり、ご利用者様同士での対決や協力プレイなど互いに高め合う光景も見られた。評価の数値としては初回時と比較して対象者6名の平均数値は(1)TUG:2,9秒(2)FRT:3,5cm(3)片脚立位:3,8秒の向上が見られる。

【考察】
 体験型TVゲームの操作に必要となる「ステップ動作」「リーチ動作」を繰り返し行う事で、歩行・バランス機能の「踏ん張る」「踏み込む」「体幹を支える」という運動学習が自然と行われていた。一般的に、意識下においての機能訓練という努力のみでは身体能力の向上に困難さや面倒さを感じる事も多いが、今回のケースでは、「ステップ動作」「リーチ動作」を繰り返し行う事ではあるが、ゲームを通じて「楽しむ」と言う感情が、機能訓練と言う名の努力よりも、無意識下で勝つ事が好循環となり、自然と良い結果へと繋がった事が挙げられる。また、普段交流のなかったご利用者様同士でもゲームを通じて協力・競い合うコミュニケーションツールとしても有効であった。中でもご利用者様から「孫と自宅で一緒にゲームをするようになった」と嬉しそうにお話されるのも印象的だった。
 今回の取り組み開始前から個別リハビリとして、バランス訓練を積極的に取り組んでいたが、「ご利用者様が自主的に実施する意欲向上」「身体機能の向上」に結びつける事に難航しており、飛躍的な成果を出す事が出来ていなかった。体験型TVゲームを導入する事で、楽しみを持ってトレーニングをする事や、他ご利用者様と情報共有できる仕組みを作り上げた事で、モチベーションを高く保ち、短期間で大幅な機能の改善につながったといえる。

【まとめ】
 これまで私たちは理学療法士として機能を回復する・維持する事を目的に反復トレーニング、自主トレメニューの提案等を行ってきたが、ご利用者様の自主性を高める事ができず、余暇時間を有意義に提供する事ができなかった。
今回の取り組みにより「楽しむ」「意欲を高める」ことが大きく作用して、ご利用者様が積極的にトレーニングを行うようになり、自主性を持って取り組む事ができた。対象者以外のご利用者様も「プレイしてみたい」という声が挙がっており、今後も職員も含めて楽しみながらリハビリに取り組んでいきたい。