講演情報
[15-O-L012-04]通所リハビリでの運動と栄養への取り組み~自宅での食事に着目して~
*三田 いずみ1、濱田 美保1、一谷 真稲2 (1. 埼玉県 介護老人保健施設高齢者ケアセンターゆらぎ、2. 大宮共立病院)
通所リハ利用者のリハビリ効果を高める目的で、自宅での食事に対して管理栄養士による評価・アドバイスを実施。定期的な身体測定を行い、その有効性について検討した。その結果、食事に対する意識、運動に対するモチベーションが向上し、身体機能の向上が見受けられた。また、心身機能低下の早期発見に繋がるケースもあった。一方、食事摂取量の把握が困難なことや、独居生活者への食事に対する介入方法も今後の課題となった。
【はじめに】
当施設では、通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用者に対し、リハビリテーションの効果を高める目的で自宅での食事に対する取り組みを実施した。対象利用者の経過とともに、今回の取り組みについての考察・課題について以下に報告する。
【取り組み内容】
実施期間:令和5年5月~11月
(1) 対象利用者の自宅での3日分の食事内容を確認(写真撮影・筆記含む)
(2) 管理栄養士による評価・食事に対するアドバイスを実施
(3) 3か月後、再度食事内容を確認(簡易的に筆記や聴取にて)
(4) 体重・BMI・下腿周径・握力・歩行速度の測定を毎月実施し、経過観察
【ケース1】 73歳男性 疾患:胃癌・イレウス
介護度:要介護5 家族構成:妻と二人暮らし
障害高齢者の日常生活自立度:J2
認知症高齢者の日常生活自立度:自立
利用サービス:通所リハ週2回(短時間利用)
本人の希望:運動をして体力をつけたい。体重を増量したい。
日常生活:食事は胃癌術後の為、1回の量を少なくして夜食やおやつなど小分けにして摂取している。
<管理栄養士による食事評価・アドバイス>
主食は毎食、たんぱく質も満遍なく摂取出来ている。野菜類は緑黄色・淡色両方を意識することによりバランスが良くなる。乳製品はカルシウムの貴重な供給源となるため、意識して摂れるとよい。
<身体評価> ※変化のあった点を記載
5月:体重56.8kg、BMI20.4、握力(右)22.7kg、(左)16.2kg、歩行速度1.13m/秒
8月:体重61.6kg、BMI22.1、握力(右)25.1kg、(左)19.7kg、歩行速度0.87m/秒
11月:体重58.5kg、BMI21.0、握力(右)25.5kg、(左)19.9kg、歩行速度0.84m/秒
MNA-SF:5月10ポイント(低栄養の恐れあり) 11月12ポイント(栄養状態良好)
<食事再確認>
3か月前と比較し、夕食の主菜・副菜は量を多めに食べている。
<取り組み期間中の変化>
・リハビリテーションプログラムが座位の運動中心から立位の運動中心へ変更、マシンでの自主トレーニングにも取り組めるようになった。
・自宅での自主トレーニングとしてエアロバイクや起立運動を行うようになった。
【ケース2】 90歳女性 疾患:右脛骨近位部骨折
介護度:要介護1 家族構成:独居
障害高齢者の日常生活自立度:J2
認知症高齢者の日常生活自立度:I
利用サービス:通所リハ週2回、料理ヘルパー週1回、ショートステイ月1~2回程度
本人の希望:これからも住み慣れた自宅で暮らしていきたい。
日常生活:近所への外出はT字杖歩行にて自立。以前はバスを利用することもあったが、最近は転倒の不安もあり1人では困難。週末は娘が家事をしに来る。
<管理栄養士による食事評価・アドバイス>
たんぱく質・野菜類も満遍なくとれている。間食にヨーグルトも選択肢とすることでカルシウムの補給ができる。マヨネーズやオイル入りのドレッシングで食材のボリュームを増やさずカロリーアップが期待できる。
<身体評価> ※変化のあった点を記載
5月:体重40.4kg、BMI17.3、握力(右)14.4kg、(左)11.1kg
8月:体重36.8kg、BMI15.7、握力(右)13.5kg、(左)10.8kg
11月:体重38.2kg、BMI16.3、握力(右)11.4kg、(左)10.1kg
MNA-SF: 5月 11ポイント(低栄養の恐れあり)11月 10ポイント(低栄養の恐れあり)
HDS-R: 5月 25/30点 11月 15/30点
<食事再確認>
品数は多いが、摂取量は減っている。(納豆は1パックを2回に分けて食べるなど)
<取り組み期間中の変化>
・7月に義歯調整。調整中は食事摂取量も減少。
・8月、ケアマネージャー・家族へ状況報告。夏場は毎年食欲が減退気味との情報を得る。
・10月頃より会話の中で言葉が出てこない、住所を書く場面で度忘れした、とのエピソードあり。
・リハビリテーションプログラムとして立位バランス練習を行っているが、10月中旬ごろよりふらつき・本人の不安感もあり、内容変更している。
【考察】
ケース1に関しては5月の測定当初と比較し、体重・握力ともに増加の傾向が見られる。自宅でも運動に意欲的に取り組まれ、自宅での食事量も増えている。本人より「体力をつけたい、増量したい」との希望が聞かれており、今回の取り組みで運動や食事に対するモチベーションも向上したと考えられる。しかし、現状としてサルコペニアが疑われる為、今後も栄養と運動のバランスを意識したアプローチが必要となる。
ケース2に関しては、下腿周径・歩行速度は維持出来ていたが体重減少、握力低下が認められた。また立位バランスの低下や認知機能面の低下も感じられるようになってきている。MNA-SFにおいても「低栄養の恐れあり」との評価であり、心身機能ともに低下し始めている現状である。サルコペニアやフレイルは早期発見により介入効果も期待できること、また低栄養状態でのレジスタンス運動は栄養状態の悪化をもたらす可能性もあることから、食事内容だけでなく食事量の評価と自宅での活動量の評価を行い、運動負荷量の検討と栄養面への更なるアプローチが必要となると考える。
【今後の課題】
今後の課題として「食事量の把握」が挙げられる。今回の取り組みでは摂取カロリーの把握に至らず、アドバイスも必要な栄養素が中心となった。低栄養が疑われる場合、栄養改善へのアドバイスのみならず、適切な運動負荷量の設定においても重要な情報となる為、食事量の確認方法が課題となる。特に独居生活者の食事管理については家族やケアマネージャー、ヘルパー等多職種での協力と、食事介入の目的を共有する働きかけも必要になる。
今回の取り組みが栄養・運動に対する意識向上につながることを感じられるとともに、在宅生活者の食事介入の難しさを強く感じた。今後も対象者に合わせたより良い取り組みの検討を重ねていきたい。
当施設では、通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用者に対し、リハビリテーションの効果を高める目的で自宅での食事に対する取り組みを実施した。対象利用者の経過とともに、今回の取り組みについての考察・課題について以下に報告する。
【取り組み内容】
実施期間:令和5年5月~11月
(1) 対象利用者の自宅での3日分の食事内容を確認(写真撮影・筆記含む)
(2) 管理栄養士による評価・食事に対するアドバイスを実施
(3) 3か月後、再度食事内容を確認(簡易的に筆記や聴取にて)
(4) 体重・BMI・下腿周径・握力・歩行速度の測定を毎月実施し、経過観察
【ケース1】 73歳男性 疾患:胃癌・イレウス
介護度:要介護5 家族構成:妻と二人暮らし
障害高齢者の日常生活自立度:J2
認知症高齢者の日常生活自立度:自立
利用サービス:通所リハ週2回(短時間利用)
本人の希望:運動をして体力をつけたい。体重を増量したい。
日常生活:食事は胃癌術後の為、1回の量を少なくして夜食やおやつなど小分けにして摂取している。
<管理栄養士による食事評価・アドバイス>
主食は毎食、たんぱく質も満遍なく摂取出来ている。野菜類は緑黄色・淡色両方を意識することによりバランスが良くなる。乳製品はカルシウムの貴重な供給源となるため、意識して摂れるとよい。
<身体評価> ※変化のあった点を記載
5月:体重56.8kg、BMI20.4、握力(右)22.7kg、(左)16.2kg、歩行速度1.13m/秒
8月:体重61.6kg、BMI22.1、握力(右)25.1kg、(左)19.7kg、歩行速度0.87m/秒
11月:体重58.5kg、BMI21.0、握力(右)25.5kg、(左)19.9kg、歩行速度0.84m/秒
MNA-SF:5月10ポイント(低栄養の恐れあり) 11月12ポイント(栄養状態良好)
<食事再確認>
3か月前と比較し、夕食の主菜・副菜は量を多めに食べている。
<取り組み期間中の変化>
・リハビリテーションプログラムが座位の運動中心から立位の運動中心へ変更、マシンでの自主トレーニングにも取り組めるようになった。
・自宅での自主トレーニングとしてエアロバイクや起立運動を行うようになった。
【ケース2】 90歳女性 疾患:右脛骨近位部骨折
介護度:要介護1 家族構成:独居
障害高齢者の日常生活自立度:J2
認知症高齢者の日常生活自立度:I
利用サービス:通所リハ週2回、料理ヘルパー週1回、ショートステイ月1~2回程度
本人の希望:これからも住み慣れた自宅で暮らしていきたい。
日常生活:近所への外出はT字杖歩行にて自立。以前はバスを利用することもあったが、最近は転倒の不安もあり1人では困難。週末は娘が家事をしに来る。
<管理栄養士による食事評価・アドバイス>
たんぱく質・野菜類も満遍なくとれている。間食にヨーグルトも選択肢とすることでカルシウムの補給ができる。マヨネーズやオイル入りのドレッシングで食材のボリュームを増やさずカロリーアップが期待できる。
<身体評価> ※変化のあった点を記載
5月:体重40.4kg、BMI17.3、握力(右)14.4kg、(左)11.1kg
8月:体重36.8kg、BMI15.7、握力(右)13.5kg、(左)10.8kg
11月:体重38.2kg、BMI16.3、握力(右)11.4kg、(左)10.1kg
MNA-SF: 5月 11ポイント(低栄養の恐れあり)11月 10ポイント(低栄養の恐れあり)
HDS-R: 5月 25/30点 11月 15/30点
<食事再確認>
品数は多いが、摂取量は減っている。(納豆は1パックを2回に分けて食べるなど)
<取り組み期間中の変化>
・7月に義歯調整。調整中は食事摂取量も減少。
・8月、ケアマネージャー・家族へ状況報告。夏場は毎年食欲が減退気味との情報を得る。
・10月頃より会話の中で言葉が出てこない、住所を書く場面で度忘れした、とのエピソードあり。
・リハビリテーションプログラムとして立位バランス練習を行っているが、10月中旬ごろよりふらつき・本人の不安感もあり、内容変更している。
【考察】
ケース1に関しては5月の測定当初と比較し、体重・握力ともに増加の傾向が見られる。自宅でも運動に意欲的に取り組まれ、自宅での食事量も増えている。本人より「体力をつけたい、増量したい」との希望が聞かれており、今回の取り組みで運動や食事に対するモチベーションも向上したと考えられる。しかし、現状としてサルコペニアが疑われる為、今後も栄養と運動のバランスを意識したアプローチが必要となる。
ケース2に関しては、下腿周径・歩行速度は維持出来ていたが体重減少、握力低下が認められた。また立位バランスの低下や認知機能面の低下も感じられるようになってきている。MNA-SFにおいても「低栄養の恐れあり」との評価であり、心身機能ともに低下し始めている現状である。サルコペニアやフレイルは早期発見により介入効果も期待できること、また低栄養状態でのレジスタンス運動は栄養状態の悪化をもたらす可能性もあることから、食事内容だけでなく食事量の評価と自宅での活動量の評価を行い、運動負荷量の検討と栄養面への更なるアプローチが必要となると考える。
【今後の課題】
今後の課題として「食事量の把握」が挙げられる。今回の取り組みでは摂取カロリーの把握に至らず、アドバイスも必要な栄養素が中心となった。低栄養が疑われる場合、栄養改善へのアドバイスのみならず、適切な運動負荷量の設定においても重要な情報となる為、食事量の確認方法が課題となる。特に独居生活者の食事管理については家族やケアマネージャー、ヘルパー等多職種での協力と、食事介入の目的を共有する働きかけも必要になる。
今回の取り組みが栄養・運動に対する意識向上につながることを感じられるとともに、在宅生活者の食事介入の難しさを強く感じた。今後も対象者に合わせたより良い取り組みの検討を重ねていきたい。