講演情報
[15-O-L012-06]離床時の環境調整で離床時間延長を認めた症例血圧変動のある頸髄損傷利用者の一例
*平野 晃基1、太田 理沙1、前田 千晴1 (1. 佐賀県 介護老人保健施設グリーンヒル幸寿園)
脊髄損傷の既往がある通所リハ利用者が数ヶ月の入院を経て、身体状況の変化、離床時間の短縮を認めた。血圧変動が大きい状態であったため、離床時の環境設定を模索した。リクライニング車椅子のタイプ変更や、腹帯の使用などを行い、血圧の変動を確認した。結果、腹帯を装着することで車椅子を変更せず、離床時間延長できた。本人の「今までの車椅子で過ごしたい」という希望にも添える形となった。
【はじめに】
当施設通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用中の脊髄損傷者が数ヶ月の入院を経て、身体状態の変化があった。血圧の変動により離床時間の短縮、意識レベルの変動も見られる状態で、通所リハ利用中の活動性が著しく低下した。今回、そのような症例に対しての周辺環境設定や、通所リハ利用時の対応を考慮する上でリスク管理と本人の希望との折り合いに難渋したものの、離床時間延長に繋がったため報告する。
【症例紹介】
70歳代男性、要介護3。約7年前に高地からの転落でC6の前方脱臼にて頸髄損傷受傷。整復固定術施行される。慢性呼吸不全の既往もあり。受傷より約1年後に自宅退院となり通所リハ利用開始となった。
今回、X日 自宅で意識消失あり、救急搬送。慢性呼吸不全の急性増悪の診断で入院。入院中、在宅酸素の導入や、仙骨部の褥瘡形成あり。X+51日退院。Y日(X+52日)より通所リハ再開。退院後の利用サービスは、通所リハ 3回/週、訪問リハ 2回/週、訪問看護 3回/週。入院前よりリクライニング車椅子をレンタルされていた。リクライニング機能のみついている自操型の物(以下:普通タイプ)
【通所リハ再開後の経過(使用車椅子タイプ)】
Y日、通所リハ再開。血圧低値なことも多く、日中はベッド臥床にて過ごしていただき、リハビリ訓練時のみ離床する対応をしていた。(普通タイプでの離床訓練)Y+28日、送迎時の意識レベル低下あり。Y+31日にも再度送迎時の意識レベル低下あり、その時は救急搬送され点滴治療のみでその日に帰宅されている。Y+40日、訓練時使用する車椅子を、ティルト機能付きのリクライニング車椅子(以下:ティルトタイプ)へ変更。Y+68日、本人希望で、普通タイプでの離床訓練を再開。Y+98日、普通タイプでの離床時に腹帯を装着。
【訓練方法】
ベッド上での四肢、頸部ROM訓練後、徐々にG-up行い離床。離床中は15分おきに血圧測定行う。本人の自覚症状出現や、SBPが50mmHgを下回った時点で臥床させる。また、離床時間の目標を、自宅から施設までの送迎に要する時間である、30分としていたため、中止条件でなくとも30分経過で臥床させることもあった。ティルトタイプ使用時は適宜ティルト機能を活用する。腹帯には腰椎軟性コルセットを使用した。
【離床時の血圧(平均)変動について】SBP/DBP(単位 mmHg)
1)Y日~Y+39日、普通タイプ使用、合計16回訓練実施。目標(30分離床)達成は0回。離床前99.3/60.4、離床直後76.5/47.9、15分後53.3/35.1
2)Y+40日~Y+67日:ティルトタイプ使用、合計10回訓練実施。目標達成は7回。離床前100.8/64.1、離床直後89.6/55.7、15分後77.8/47.4、30分後78.6/48.3
3)Y+68日~Y+97日:普通タイプ使用、合計10回訓練実施。目標達成は8回。そのうち1回は50分間離床。離床前96.8/60.1、離床直後92.4/58.2、15分後69.2/41.9、30分後65.7/40.8
4)Y+98日~:普通タイプ車椅子+腹帯装着、合計10回訓練実施。目標達成は9回。そのうち4回は1時間以上離床。離床前103.6/66.3、離床直後87.1/57.5、15分後76.1/47.5、30分後78.5/53.2
【まとめ】
今回、頸髄損傷の既往をもつ通所リハ利用者が、数ヶ月の入院で身体状況に変化があった。入院前と比較し離床時の血圧低下が著しい状態での通所リハ再開となったため、リスク管理の観点から、送迎を単発対応にする、スタッフを複数人体制で対応を行うこととなった。そのような対応の中でも、送迎時に意識レベル低下が起こることもあった。通所リハに携わるリハビリスタッフとして、本人の周辺環境の調整を検討した。まずは車椅子をティルトタイプに変更することを検討し、訓練にて導入。血圧の変動も普通タイプと比較すると安定していた。しかし、本人の希望によりティルトタイプ導入には至らず、再度普通タイプでの訓練を行うこととなった。本人は、家族との外出を目標にされていおり、その際に普通タイプの車椅子でないと家族の車に乗車できないとの理由で、ティルトタイプの導入に強い拒否があった。本人の希望に沿うために、普通タイプでの離床訓練を再開し、退院当初と比較すると離床時間も延長したものの、血圧の変化量は大きく、30分程度で自覚症状が出現することも多かった。そのため、できる限り血圧の変動を少なくする目的で、腹帯を使用することとした。脊髄損傷者における起立性低血圧を予防するには腹帯や下肢緊迫帯などが用いられており、その有用性が述べられている文献は多い。腹帯装着下では、未装着で普通タイプに離床する場合と比較し、血圧の安定が見られ、ティルトタイプと似たような血圧変動を辿る結果が得られた。腹帯+普通タイプで離床することで離床時間の延長を認め、本人の「今までの車椅子が良い」という希望にも添える形となり、目標の30分を超え、1時間程度離床できる回数も増えた。その後は送迎時の意識レベル低下もなく、現在普通タイプを使用し通所リハを継続して利用されている。訓練時間での離床時間は延長したものの、日中はベッドで過ごされる時間が未だ多く、食事摂取もベッド上で行われている。今後は訓練時間以外の離床時間を増やせるようさらに環境の調整を考慮していく必要があると考える。
当施設通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用中の脊髄損傷者が数ヶ月の入院を経て、身体状態の変化があった。血圧の変動により離床時間の短縮、意識レベルの変動も見られる状態で、通所リハ利用中の活動性が著しく低下した。今回、そのような症例に対しての周辺環境設定や、通所リハ利用時の対応を考慮する上でリスク管理と本人の希望との折り合いに難渋したものの、離床時間延長に繋がったため報告する。
【症例紹介】
70歳代男性、要介護3。約7年前に高地からの転落でC6の前方脱臼にて頸髄損傷受傷。整復固定術施行される。慢性呼吸不全の既往もあり。受傷より約1年後に自宅退院となり通所リハ利用開始となった。
今回、X日 自宅で意識消失あり、救急搬送。慢性呼吸不全の急性増悪の診断で入院。入院中、在宅酸素の導入や、仙骨部の褥瘡形成あり。X+51日退院。Y日(X+52日)より通所リハ再開。退院後の利用サービスは、通所リハ 3回/週、訪問リハ 2回/週、訪問看護 3回/週。入院前よりリクライニング車椅子をレンタルされていた。リクライニング機能のみついている自操型の物(以下:普通タイプ)
【通所リハ再開後の経過(使用車椅子タイプ)】
Y日、通所リハ再開。血圧低値なことも多く、日中はベッド臥床にて過ごしていただき、リハビリ訓練時のみ離床する対応をしていた。(普通タイプでの離床訓練)Y+28日、送迎時の意識レベル低下あり。Y+31日にも再度送迎時の意識レベル低下あり、その時は救急搬送され点滴治療のみでその日に帰宅されている。Y+40日、訓練時使用する車椅子を、ティルト機能付きのリクライニング車椅子(以下:ティルトタイプ)へ変更。Y+68日、本人希望で、普通タイプでの離床訓練を再開。Y+98日、普通タイプでの離床時に腹帯を装着。
【訓練方法】
ベッド上での四肢、頸部ROM訓練後、徐々にG-up行い離床。離床中は15分おきに血圧測定行う。本人の自覚症状出現や、SBPが50mmHgを下回った時点で臥床させる。また、離床時間の目標を、自宅から施設までの送迎に要する時間である、30分としていたため、中止条件でなくとも30分経過で臥床させることもあった。ティルトタイプ使用時は適宜ティルト機能を活用する。腹帯には腰椎軟性コルセットを使用した。
【離床時の血圧(平均)変動について】SBP/DBP(単位 mmHg)
1)Y日~Y+39日、普通タイプ使用、合計16回訓練実施。目標(30分離床)達成は0回。離床前99.3/60.4、離床直後76.5/47.9、15分後53.3/35.1
2)Y+40日~Y+67日:ティルトタイプ使用、合計10回訓練実施。目標達成は7回。離床前100.8/64.1、離床直後89.6/55.7、15分後77.8/47.4、30分後78.6/48.3
3)Y+68日~Y+97日:普通タイプ使用、合計10回訓練実施。目標達成は8回。そのうち1回は50分間離床。離床前96.8/60.1、離床直後92.4/58.2、15分後69.2/41.9、30分後65.7/40.8
4)Y+98日~:普通タイプ車椅子+腹帯装着、合計10回訓練実施。目標達成は9回。そのうち4回は1時間以上離床。離床前103.6/66.3、離床直後87.1/57.5、15分後76.1/47.5、30分後78.5/53.2
【まとめ】
今回、頸髄損傷の既往をもつ通所リハ利用者が、数ヶ月の入院で身体状況に変化があった。入院前と比較し離床時の血圧低下が著しい状態での通所リハ再開となったため、リスク管理の観点から、送迎を単発対応にする、スタッフを複数人体制で対応を行うこととなった。そのような対応の中でも、送迎時に意識レベル低下が起こることもあった。通所リハに携わるリハビリスタッフとして、本人の周辺環境の調整を検討した。まずは車椅子をティルトタイプに変更することを検討し、訓練にて導入。血圧の変動も普通タイプと比較すると安定していた。しかし、本人の希望によりティルトタイプ導入には至らず、再度普通タイプでの訓練を行うこととなった。本人は、家族との外出を目標にされていおり、その際に普通タイプの車椅子でないと家族の車に乗車できないとの理由で、ティルトタイプの導入に強い拒否があった。本人の希望に沿うために、普通タイプでの離床訓練を再開し、退院当初と比較すると離床時間も延長したものの、血圧の変化量は大きく、30分程度で自覚症状が出現することも多かった。そのため、できる限り血圧の変動を少なくする目的で、腹帯を使用することとした。脊髄損傷者における起立性低血圧を予防するには腹帯や下肢緊迫帯などが用いられており、その有用性が述べられている文献は多い。腹帯装着下では、未装着で普通タイプに離床する場合と比較し、血圧の安定が見られ、ティルトタイプと似たような血圧変動を辿る結果が得られた。腹帯+普通タイプで離床することで離床時間の延長を認め、本人の「今までの車椅子が良い」という希望にも添える形となり、目標の30分を超え、1時間程度離床できる回数も増えた。その後は送迎時の意識レベル低下もなく、現在普通タイプを使用し通所リハを継続して利用されている。訓練時間での離床時間は延長したものの、日中はベッドで過ごされる時間が未だ多く、食事摂取もベッド上で行われている。今後は訓練時間以外の離床時間を増やせるようさらに環境の調整を考慮していく必要があると考える。