講演情報
[15-O-L012-07]利用者の日課と生活歴に着目した通所リハでの取り組み~自分のことは自分でしたい~
*稲垣 俊1 (1. 大阪府 社会福祉法人 悠人会 介護老人保健施設 ベルアルト)
本症例は、慢性閉塞性肺疾患の増悪により在宅酸素療法導入も適切な使用が出来ず、入退院を繰り返され状態悪化が懸念されていた。今回通所リハビリテーションにて「メッツ日常生活動作表」を用いた介入で、運動耐容能の改善、生活範囲の拡大に効果がみられ、趣味活動の再開に繋げることができた。「本人が大切にしている日課」に着目した結果、本人の行動に変化がみられたと考える。
【はじめに】
通所リハビリテーション(以下、通所リハビリ)を在宅での呼吸リハビリテーション継続の場として利用し、介護保険制度などの社会資源を活用することが有用との報告1)がある。今回通所リハビリにて運動習慣や在宅酸素療法(以下、HOT)で酸素(以下、O2)の適切な使用が難しかった症例に対して「メッツ日常生活動作表」や「興味関心チェックシート」を用いた介入にて、運動耐容能の改善、生活範囲の拡大に効果がみられ、趣味活動の再開に繋げることができたため報告する。
【症例紹介】
70歳代中頃、男性、要支援2、独居、診断名:慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)急性増悪に伴う廃用症候群、既往歴:心房細動、脳梗塞(25年程前、右不全麻痺)、糖尿病、高血圧、利用サービス内容:週2回通所リハビリ、週1回訪問看護、週1回ヘルパー、現病歴:数年前にCOPDと診断。X-2年1月中旬、誤嚥性肺炎によるCOPD増悪で入院。3ヶ月後の退院時よりHOT導入開始。導入後もO2の適切な使用が出来ない状況だった。その後、心不全で入退院され、X年1月、再度COPD急性増悪で入院。退院後、同年3月より通所リハビリ利用開始。利用開始時:歩行は独歩で屋内自立、生活範囲は自宅内のみ。「以前はゴミ出ししていたが、動くと息切れする」「自転車も乗れない」と身の回り動作や外出に対して制限があると発言あり。「以前のように外に行きたい」との希望があった。身長:160cm、体重41kg(BMI:16)、下肢筋力:MMT3レベル、安静時酸素流入量1L/min、安静時経皮的酸素飽和度(以下、SpO2)は98%、呼吸器疾患特異的ADL評価(以下、NRADL)は38/100点、連続歩行距離は独歩10mで息切れ出現、修正ボルグスケール4~5(やや~強い)、労作時SpO2は90~89%であった。またO2使用について「余り使うとすぐ無くなってしまうから」と適正量を自己で減らしていた。課題として、(1)O2が上手く使えていない、(2)IADLの低下による生活範囲の狭小化、(3)外出機会の減少が挙げられた。それらに対して生活目標を「以前のように買い物など外出ができる」とした。
【取り組みと経過】
前期(1~2か月):「外に行きたい」との本人の希望から電動車椅子を導入し、買い物や外出などの日課が可能となり活動機会が増えた。しかし運動については自ら行う場面は少なく、自主練習の指導にも「自宅ではなかなか難しい」と発言があった。以前からサービス利用も消極的で「自分のことは自分でしたい」との気持ちが強くヘルパー利用も掃除のみ、それ以外の家事は自身で行っていた。そこで「メッツ日常生活動作表」(以下、メッツ表)を用いて、家事動作と訓練内容(運動量:METS)が同じであることを説明した。例えば「洗濯物を干すこと」は「3~4METS」の運動となり、自宅での家事動作の継続が運動になっていることを伝えた。また脈拍の触診など自身の体調の変化にも注意を向けてもらえるよう運動時に一緒に確認するようにした。
後期(3か月):下肢筋力訓練や歩行練習に少しずつ慣れ、声かけは必要だが自主的に運動するようになる。しかし「自宅では少し動くと息切れがする」と発言が聞かれ、在宅での活動に課題がみられた。そこで「メッツ表」での説明に加え、O2と動作の同調を都度フィードバックすることとした。また「以前のように外に出歩けたら」との希望について、より具体的な活動を探った。興味関心チェックシートを用いて聞き取りした結果、「銭湯に行きたい」「自宅で好きなDVDをまた観てみたい」「買い物に行きたい」が挙がった。その中で再開可能な活動として「DVDを借りに行くこと」を目的活動として設定し、そのために必要な工程(移動・DVDを借りる・返却の手続きなど)の確認を一緒に行った。普段から電動車椅子で外出されており、レンタル店までの移動は問題なく、自身で借りることができるよう手続き方法の説明、外出同行などの環境調整を行った結果、一人で行える活動となった。
【結果・まとめ】
(1)O2使用は依然適正量を自己で減らすことがあるが、場面に応じて容量を増やすようになり理解度に変化がみられた。(2)IADLは電動車椅子にて洗濯(コインランドリー)やゴミ出し、買い物などが自身で可能となる。(3)生活範囲は日課以外に趣味の外出も行うようになる。また「外出しない日はマンション廊下を2往復しているよ」と活動量の増加がみられた。安静時酸素流入量1L/min、安静時SpO2は98%、NRADLは39/100点、連続歩行距離は独歩90mで息切れ出現、修正ボルグスケール4~5(やや強い~強い)、労作時SpO2は94~92%であった。他利用者とも交流がみられるようになり、「映画館にも行ってみたい」など新たな希望が挙がるようになった。
【考察】
在宅での生活機能向上に関して、大池2)は呼吸機能疾患患者の生活機能向上のためには、実用的、習慣的な動作への改善が、日常の活動量の増加に繋がり、身体機能面において利点が多いと報告している。自主的な運動は難しい症例が、電動車椅子の使用により活動範囲が拡大し、家事動作を自身で行いたいという気持ちを踏まえて、「メッツ表」を用いて「身の回りの動作の継続が運動になっていること」を伝え、フィードバックしたことが「継続した運動機会」となり運動の習慣化に繋がったと考える。
【文献】
1)山野上志織、他「デイケアにおける呼吸リハビリテーションの長期継続率」(日本呼吸器学会雑誌(1343-3490)44巻1号)
2)大池貴行「呼吸器疾患患者の生活機能トレーニングの考え方とその実際」
通所リハビリテーション(以下、通所リハビリ)を在宅での呼吸リハビリテーション継続の場として利用し、介護保険制度などの社会資源を活用することが有用との報告1)がある。今回通所リハビリにて運動習慣や在宅酸素療法(以下、HOT)で酸素(以下、O2)の適切な使用が難しかった症例に対して「メッツ日常生活動作表」や「興味関心チェックシート」を用いた介入にて、運動耐容能の改善、生活範囲の拡大に効果がみられ、趣味活動の再開に繋げることができたため報告する。
【症例紹介】
70歳代中頃、男性、要支援2、独居、診断名:慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)急性増悪に伴う廃用症候群、既往歴:心房細動、脳梗塞(25年程前、右不全麻痺)、糖尿病、高血圧、利用サービス内容:週2回通所リハビリ、週1回訪問看護、週1回ヘルパー、現病歴:数年前にCOPDと診断。X-2年1月中旬、誤嚥性肺炎によるCOPD増悪で入院。3ヶ月後の退院時よりHOT導入開始。導入後もO2の適切な使用が出来ない状況だった。その後、心不全で入退院され、X年1月、再度COPD急性増悪で入院。退院後、同年3月より通所リハビリ利用開始。利用開始時:歩行は独歩で屋内自立、生活範囲は自宅内のみ。「以前はゴミ出ししていたが、動くと息切れする」「自転車も乗れない」と身の回り動作や外出に対して制限があると発言あり。「以前のように外に行きたい」との希望があった。身長:160cm、体重41kg(BMI:16)、下肢筋力:MMT3レベル、安静時酸素流入量1L/min、安静時経皮的酸素飽和度(以下、SpO2)は98%、呼吸器疾患特異的ADL評価(以下、NRADL)は38/100点、連続歩行距離は独歩10mで息切れ出現、修正ボルグスケール4~5(やや~強い)、労作時SpO2は90~89%であった。またO2使用について「余り使うとすぐ無くなってしまうから」と適正量を自己で減らしていた。課題として、(1)O2が上手く使えていない、(2)IADLの低下による生活範囲の狭小化、(3)外出機会の減少が挙げられた。それらに対して生活目標を「以前のように買い物など外出ができる」とした。
【取り組みと経過】
前期(1~2か月):「外に行きたい」との本人の希望から電動車椅子を導入し、買い物や外出などの日課が可能となり活動機会が増えた。しかし運動については自ら行う場面は少なく、自主練習の指導にも「自宅ではなかなか難しい」と発言があった。以前からサービス利用も消極的で「自分のことは自分でしたい」との気持ちが強くヘルパー利用も掃除のみ、それ以外の家事は自身で行っていた。そこで「メッツ日常生活動作表」(以下、メッツ表)を用いて、家事動作と訓練内容(運動量:METS)が同じであることを説明した。例えば「洗濯物を干すこと」は「3~4METS」の運動となり、自宅での家事動作の継続が運動になっていることを伝えた。また脈拍の触診など自身の体調の変化にも注意を向けてもらえるよう運動時に一緒に確認するようにした。
後期(3か月):下肢筋力訓練や歩行練習に少しずつ慣れ、声かけは必要だが自主的に運動するようになる。しかし「自宅では少し動くと息切れがする」と発言が聞かれ、在宅での活動に課題がみられた。そこで「メッツ表」での説明に加え、O2と動作の同調を都度フィードバックすることとした。また「以前のように外に出歩けたら」との希望について、より具体的な活動を探った。興味関心チェックシートを用いて聞き取りした結果、「銭湯に行きたい」「自宅で好きなDVDをまた観てみたい」「買い物に行きたい」が挙がった。その中で再開可能な活動として「DVDを借りに行くこと」を目的活動として設定し、そのために必要な工程(移動・DVDを借りる・返却の手続きなど)の確認を一緒に行った。普段から電動車椅子で外出されており、レンタル店までの移動は問題なく、自身で借りることができるよう手続き方法の説明、外出同行などの環境調整を行った結果、一人で行える活動となった。
【結果・まとめ】
(1)O2使用は依然適正量を自己で減らすことがあるが、場面に応じて容量を増やすようになり理解度に変化がみられた。(2)IADLは電動車椅子にて洗濯(コインランドリー)やゴミ出し、買い物などが自身で可能となる。(3)生活範囲は日課以外に趣味の外出も行うようになる。また「外出しない日はマンション廊下を2往復しているよ」と活動量の増加がみられた。安静時酸素流入量1L/min、安静時SpO2は98%、NRADLは39/100点、連続歩行距離は独歩90mで息切れ出現、修正ボルグスケール4~5(やや強い~強い)、労作時SpO2は94~92%であった。他利用者とも交流がみられるようになり、「映画館にも行ってみたい」など新たな希望が挙がるようになった。
【考察】
在宅での生活機能向上に関して、大池2)は呼吸機能疾患患者の生活機能向上のためには、実用的、習慣的な動作への改善が、日常の活動量の増加に繋がり、身体機能面において利点が多いと報告している。自主的な運動は難しい症例が、電動車椅子の使用により活動範囲が拡大し、家事動作を自身で行いたいという気持ちを踏まえて、「メッツ表」を用いて「身の回りの動作の継続が運動になっていること」を伝え、フィードバックしたことが「継続した運動機会」となり運動の習慣化に繋がったと考える。
【文献】
1)山野上志織、他「デイケアにおける呼吸リハビリテーションの長期継続率」(日本呼吸器学会雑誌(1343-3490)44巻1号)
2)大池貴行「呼吸器疾患患者の生活機能トレーニングの考え方とその実際」