講演情報
[15-O-L012-08]こうして、私の世界は広がりました~生活行為向上リハビリテーションの活用法~
*北原 千穂1、川口 沙織1、佐藤 有理1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設 若葉が丘)
行動範囲が広がった一事例を紹介しながら、生活行為向上リハビリテーション(以下、生活行為)の活用法について報告する。リハ会議や月1回の訪問、医師による計画書の説明を工夫し、生活行為を実施した。その結果、事例の効果は実証され、手間を減らすことで算定のハードルを下げることに繋がった。また、ケアマネジャーにも効果を実感してもらい、認知度が向上した。課題として、生活行為に適応する利用者の選定があがった。
【はじめに】
介護予防における生活行為向上リハビリテーションの効果は、科学的に証明されている。それにも関わらず生活行為向上リハビリテーション実施加算(以下、生活行為)の算定率は1.74%と低く、理由として医師を含むリハビリ会議(以下、リハ会議)の開催等を満たすことが困難、生活行為向上リハビリ実施計画書の医師からの説明と同意、月1回以上の自宅訪問の時間や労力、加算点数の高さ等が挙げられている。
当施設でも多忙な医師との調整が円滑に行えるか懸念があったが、様々な取り組みを行い2024年4月までに生活行為を35人実施している。ご利用者の目標達成に向けての支援に力を入れるのはもちろんのこと、生活行為の要件を満たすための時間や労力をできるだけ抑えて実施しているため、多くのご利用者への生活行為実施が可能となっている。行動範囲が広がった一事例を紹介しながら、生活行為の活用法について報告する。
【目的】
(1)生活行為を実施し、目標の明確化を図り、ご利用者のADLとIADLの向上を目指す。
(2)リハ会議や計画書の説明にかかる時間と労力を減らす。
(3)月1回の自宅訪問を行う過程を短縮する。
(4)生活行為の認知度向上を図る。
【取り組み】
(1)短期目標と長期目標の明確化を図り本人と共有。リハビリ職員による個別リハビリ40分提供。
(2)1.リハ会議
・事前に医師と1日のスケジュールを確認し13:00~14:30に実施。
・開催時には朝、医師の机に予定表を掲示。
・欠席時に対応するため、月始めに設定。
・毎月の設定は担当者がスケジュール表に手書きで記入。
・基本15分とし、出席する介護職は毎回同じ職員とする。
・出欠は事前にFAXにて行いFAX用紙は日付を変えて同じものを使用。
2.計画書
・事前に生活行為リハビリ実施計画書とリハビリ計画書を作成し、リハ会議後に追加と修正を行う。当日に医師よりご利用者に説明と同意を頂く。欠席者にはリハ会議録をFAXにて送信。
(3)訪問はデイケア終了後、送迎車に同行。帰りタイミングが合う送迎車と待ち合わせる。
(4)訪問する日をケアマネジャー(以下、CM)にも伝え、タイミングが合えば見て頂き効果を実感してもらう。同席困難時は訪問終了後、訪問内容と次回の内容をCMへ電話連絡し報告。
【事例紹介】
基本情報:Aさん 77歳女性 要支援2 高齢の姉と2人暮らし
基本疾患:うっ血性心不全
合併症:くも膜下出血(幼少期)、高コレステロール血症
初期評価:
・TUG 18.6秒
・片脚立位両側 困難
・BI 100点
・FAI 16点
利用前生活:
2022年頃より発熱繰り返し、歩行のふらつき増加し外出頻度低下あり。近隣の病院までタクシーで移動するようになっていた。
また自宅玄関前や庭にて転倒も増えていた。主治医よりリハビリが必要と言われ短時間デイケア利用開始となる。
【経過】
生活行為実施期間2023年7月~12月
図表参照
【結果】
(1)身体機能、ADL、IADL評価点数最終評価:
・TUG 17.1秒
・片脚立位左側 6.6秒 ・片脚立位右側 困難
・BI 100点
・FAI 25点
交通手段の利用、庭仕事、力仕事、買い物、外出、屋外歩行にて向上
利用後生活:利用開始時と比較し、バランス能力向上、IADLの向上がみられ、外出頻度が増えた。
(2)毎月の医師とのスケジュール調整なし。介護職の入れ替えなく時間短縮。毎月のFAX作成なし。リハ会議同日に、医師が利用者へ計画書の説明と同意が行える。
(3)訪問日のスケジュール調整なし。移動手段の考慮の必要性なし。
(4)生活行為の認知度が上がり、CMからの依頼件数は11/35件となっている。
【考察】
(1)Aさんの当初の希望は具体性に欠けていた。訪問により、外出だけではなく自宅内での動作の不安定さや福祉用具の必要性が可視化された。訪問時にご本人と短期目標の達成状況をすり合わせ、次回の課題を確認したことでリハビリに目的意識をもって取り組めたと言える。それにより長期目標の達成、IADLの向上がみられたと考えられる。
(2)1.リハ会議
医師をはじめ、他職種とのスケジュール調整には時間を要す。事前の準備や管理にて、6か月間毎月行うスケジュール調整の時間や労力を最小限に開催することができたと言える。また、当施設の医師が実施に協力的であることも一因と考えられる。
2.計画書
同日の計画書の説明により、医師とご利用者とのセッティングをする時間が短縮されたと言える。
(3)スケジュール調整や交通手段を決めることは、ご家族とのやりとりや施設内での車の手配といった手間がかかる。「時間はデイケア後、送迎車で一緒に行く」とある程度決めておくとご本人やご家族、施設職員も動きやすく予定が立ちやすいと考えられる。
(4)訪問時や訪問後のCMへの情報共有は、ご利用者の目標達成への経過や成果が理解しやすい。CMが生活行為の効果を実感したことで、認知度が上がり他のご利用者への依頼に繋がったと言える。
【まとめ】
介護予防における生活行為の効果はAさんにおいても実証された。そのために必要な時間と労力を最小限に抑えることは、算定のハードルを下げることに繋がる。また、生活行為がCMに認知・理解されることはご利用者の依頼にも繋がる。
今後の課題としては、生活行為適応者の選定である。現在はご本人とご家族の希望、リハビリ職員の見立てにより選定している。まずはBIやFAIの数値による生活行為効果の統計をとりたい。客観的評価に基づく有効性を証明し、生活行為に適応するご利用者に活用していきたいと思う。
【Aさんのその後】
Aさんは更なる体力向上を目指し訪問リハビリテーションを開始。2024年5月に県外まで外出できるようになった。
【参考文献】
厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第150回)(第219回)
介護予防における生活行為向上リハビリテーションの効果は、科学的に証明されている。それにも関わらず生活行為向上リハビリテーション実施加算(以下、生活行為)の算定率は1.74%と低く、理由として医師を含むリハビリ会議(以下、リハ会議)の開催等を満たすことが困難、生活行為向上リハビリ実施計画書の医師からの説明と同意、月1回以上の自宅訪問の時間や労力、加算点数の高さ等が挙げられている。
当施設でも多忙な医師との調整が円滑に行えるか懸念があったが、様々な取り組みを行い2024年4月までに生活行為を35人実施している。ご利用者の目標達成に向けての支援に力を入れるのはもちろんのこと、生活行為の要件を満たすための時間や労力をできるだけ抑えて実施しているため、多くのご利用者への生活行為実施が可能となっている。行動範囲が広がった一事例を紹介しながら、生活行為の活用法について報告する。
【目的】
(1)生活行為を実施し、目標の明確化を図り、ご利用者のADLとIADLの向上を目指す。
(2)リハ会議や計画書の説明にかかる時間と労力を減らす。
(3)月1回の自宅訪問を行う過程を短縮する。
(4)生活行為の認知度向上を図る。
【取り組み】
(1)短期目標と長期目標の明確化を図り本人と共有。リハビリ職員による個別リハビリ40分提供。
(2)1.リハ会議
・事前に医師と1日のスケジュールを確認し13:00~14:30に実施。
・開催時には朝、医師の机に予定表を掲示。
・欠席時に対応するため、月始めに設定。
・毎月の設定は担当者がスケジュール表に手書きで記入。
・基本15分とし、出席する介護職は毎回同じ職員とする。
・出欠は事前にFAXにて行いFAX用紙は日付を変えて同じものを使用。
2.計画書
・事前に生活行為リハビリ実施計画書とリハビリ計画書を作成し、リハ会議後に追加と修正を行う。当日に医師よりご利用者に説明と同意を頂く。欠席者にはリハ会議録をFAXにて送信。
(3)訪問はデイケア終了後、送迎車に同行。帰りタイミングが合う送迎車と待ち合わせる。
(4)訪問する日をケアマネジャー(以下、CM)にも伝え、タイミングが合えば見て頂き効果を実感してもらう。同席困難時は訪問終了後、訪問内容と次回の内容をCMへ電話連絡し報告。
【事例紹介】
基本情報:Aさん 77歳女性 要支援2 高齢の姉と2人暮らし
基本疾患:うっ血性心不全
合併症:くも膜下出血(幼少期)、高コレステロール血症
初期評価:
・TUG 18.6秒
・片脚立位両側 困難
・BI 100点
・FAI 16点
利用前生活:
2022年頃より発熱繰り返し、歩行のふらつき増加し外出頻度低下あり。近隣の病院までタクシーで移動するようになっていた。
また自宅玄関前や庭にて転倒も増えていた。主治医よりリハビリが必要と言われ短時間デイケア利用開始となる。
【経過】
生活行為実施期間2023年7月~12月
図表参照
【結果】
(1)身体機能、ADL、IADL評価点数最終評価:
・TUG 17.1秒
・片脚立位左側 6.6秒 ・片脚立位右側 困難
・BI 100点
・FAI 25点
交通手段の利用、庭仕事、力仕事、買い物、外出、屋外歩行にて向上
利用後生活:利用開始時と比較し、バランス能力向上、IADLの向上がみられ、外出頻度が増えた。
(2)毎月の医師とのスケジュール調整なし。介護職の入れ替えなく時間短縮。毎月のFAX作成なし。リハ会議同日に、医師が利用者へ計画書の説明と同意が行える。
(3)訪問日のスケジュール調整なし。移動手段の考慮の必要性なし。
(4)生活行為の認知度が上がり、CMからの依頼件数は11/35件となっている。
【考察】
(1)Aさんの当初の希望は具体性に欠けていた。訪問により、外出だけではなく自宅内での動作の不安定さや福祉用具の必要性が可視化された。訪問時にご本人と短期目標の達成状況をすり合わせ、次回の課題を確認したことでリハビリに目的意識をもって取り組めたと言える。それにより長期目標の達成、IADLの向上がみられたと考えられる。
(2)1.リハ会議
医師をはじめ、他職種とのスケジュール調整には時間を要す。事前の準備や管理にて、6か月間毎月行うスケジュール調整の時間や労力を最小限に開催することができたと言える。また、当施設の医師が実施に協力的であることも一因と考えられる。
2.計画書
同日の計画書の説明により、医師とご利用者とのセッティングをする時間が短縮されたと言える。
(3)スケジュール調整や交通手段を決めることは、ご家族とのやりとりや施設内での車の手配といった手間がかかる。「時間はデイケア後、送迎車で一緒に行く」とある程度決めておくとご本人やご家族、施設職員も動きやすく予定が立ちやすいと考えられる。
(4)訪問時や訪問後のCMへの情報共有は、ご利用者の目標達成への経過や成果が理解しやすい。CMが生活行為の効果を実感したことで、認知度が上がり他のご利用者への依頼に繋がったと言える。
【まとめ】
介護予防における生活行為の効果はAさんにおいても実証された。そのために必要な時間と労力を最小限に抑えることは、算定のハードルを下げることに繋がる。また、生活行為がCMに認知・理解されることはご利用者の依頼にも繋がる。
今後の課題としては、生活行為適応者の選定である。現在はご本人とご家族の希望、リハビリ職員の見立てにより選定している。まずはBIやFAIの数値による生活行為効果の統計をとりたい。客観的評価に基づく有効性を証明し、生活行為に適応するご利用者に活用していきたいと思う。
【Aさんのその後】
Aさんは更なる体力向上を目指し訪問リハビリテーションを開始。2024年5月に県外まで外出できるようになった。
【参考文献】
厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第150回)(第219回)