講演情報

[15-O-L013-03]85歳以上の通所リハビリ利用者の栄養状態調査と分析

*井上 昂風1、黒土 達也1、入江 ともみ1、里井 宏之1、村上 久美子1、橋口 玲子1 (1. 熊本県 介護老人保健施設 ぼたん園)
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通所リハビリに通う85歳以上の高齢者の栄養状態を調査し、栄養状態と関連する要因を分析したので報告する。85歳以上の男女90名を対象にMNA-SFで栄養評価し、栄養良好群と低栄養群の2群に分け、筋力、認知、日常生活動作の3項目を比較検証したところ栄養良好群48%、低栄養群52%で、各3項目に有意な差が見られた。栄養状態は85歳以上の高齢者の機能状態と密接に関連しており、改善には加齢に応じた専門職らの包括的な対策が必要。
【はじめに】
2025年問題が間近に迫っている中、超高齢社会は避けられない現状である。今後さらに超高齢者が急増すると家族の介護力の問題や介護費用の課題がある程度予想されている。当施設の通所リハビリテーション(以下、通所リハビリ)利用者の年齢層もここ10年で上昇しており、特に85歳以上の利用者の増加が顕著である。より長く超高齢者が在宅に住み続けるには、各介護サービスを利用し筋力や認知面などの心身機能と日常生活動作能力の維持向上を行う事は必要不可欠である。通所リハビリは1日、1週間、1ヵ月を通して在宅生活を続けるご利用者に各専門職が定期的に評価からアプローチまで利用者の状態の管理を行うことができる。その中でリハビリテーション(以下、リハビリ)と栄養は極めて重要であり、今回の介護報酬改定においても注目されている。本研究の目的は、当施設通所リハビリに通う85歳以上の超高齢者の栄養状態を調査し、栄養状態と筋力、認知機能、日常生活動作との関連を分析することで、超高齢者に対しリハビリ効果を最大化していくための分析をすることである。
【方法】
本研究は、通所リハビリを利用する85歳以上の男女90名(平均年齢90.5歳、男性23名、女性67名)を対象とした横断的研究である。対象者の栄養状態は短縮版Mini Nutritional Assessment(以後:MNA-SF)を用いて評価し、得点に基づき栄養良好群(12点以上)と低栄養群(11点以下)に分類した。栄養状態と関連する因子として、握力測定(以下:筋力)、認知症自律度(以下:認知)、Barthel Index(以下:BI)以下の3項目を測定した。統計解析には、各項目の平均値の差を比較するためにt検定を、関連性の評価には相関分析を用いた。
【結果】
調査対象の90名のうち、栄養良好と評価された者は43名(48%)、低栄養と評価された者は47名(52%)であった。年齢階級別に見ると85-89歳では栄養良好群24名、低栄養群18名、90-94歳では栄養良好群14名、低栄養群15名、95‐99歳では栄養良好群5名、低栄養群9名、100歳以上では栄養良好群0名、低栄養群5名となった。またMNA-SFと筋力、認知、BIの各項目において、栄養良好群と低栄養群の間に有意な差が見られ、栄養状態が85歳以上の高齢者の筋力、認知機能、日常生活動作に影響を与えることが示唆された。さらに相関分析においてもとMNA-SFと筋力、認知、BIの各項目に関連性が見られた。
【考察】
今回通所リハビリに通う85歳以上の超高齢者の栄養状態を調査し、栄養状態と筋力、認知機能、日常生活動作との関連を分析した。まず栄養状態の調査では、栄養良好群は48%、低栄養群は52%という結果になった。先行研究では、85歳以上は低栄養の割合が高いことを報告しているが、85歳以上でも栄養状態が良好な者は一定数存在していた。その背景には家族と同居し、且つ家族の支援が大きい者が多かった。家族が食事管理を行うことで、栄養状態の維持は可能と考えている。また、通所事業所における口腔・栄養関連サービスに関する調査研究事業の調査では、低栄養に該当する利用者を「把握していない」と回答した事業所は通所介護44.0%、通所リハビリ31.6%との報告があり、まずはじめの一歩として栄養状態の調査・把握は事業所として重要であると感じた。次にMNA-SFと筋力、認知、BIの各項目において、栄養良好群と低栄養群の間に有意な差が見られたことやMNA-SFと筋力、認知、BIの各項目に関連性が見られたことで、栄養状態が85歳以上の高齢者の筋力、認知、BIに影響を与えることが考えられる。筋力や認知面の低下は加齢に伴って起きる生物学的変化ではあるが、リハビリや栄養の介入によりある程度は予防が可能である。利用者の年齢層が上昇し、低栄養の方が増えている現状の中で、加齢に応じて低栄養の予防と改善を目指した栄養介入が必要と考えている。介護分野では医療分野に比べると化学的根拠があるデータが少ないが、当施設で定期的に管理できる体重やBMI、食事摂取量の把握などのアセスメントは、利用者の変化を早期に発見することができ、即座にアプローチすることができる。個別のニーズに応じた食事や栄養補助食品の活用と併用してリハビリプログラムの調整を行うことが効果的であり、筋力や認知、BIの維持向上に寄与すると考える。このように、栄養状態の適切な管理は超高齢者の生活の質の向上に貢献し、通所リハビリの効果を最大化するために必要不可欠であると考える。今後の課題としては、長期的な栄養管理とリハビリの効果を評価していくことや家族や介護者の協力を得て、利用者の1日を通して包括的な栄養・リハビリのケア体制を構築することが必要である。本研究の結果は、今後の超高齢化社会に対応するケアの指針として重要なものであり、各現場での実践に応用可能であると考える。