講演情報

[15-O-L013-07]今日を生きる~ROUKENくんプロジェクトを通し尊い気づきを学ぶ~

*大田 嗣子1、丸野 智美1、堀 美幸1、近藤 洋子1、近藤 千尋1、深津 美和2 (1. 愛知県 老人保健施設かずえの郷、2. 地域包括支援センターかずえの郷)
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高齢者の生きがいは、生きる意味や目的、価値を見出し、感情を育む事で実感するとされている。施設に設置した「ROUKENくん」がコミュニケーションの輪を広げ、利用者や職員に楽しみや喜びをもたらした。その中で皆が繋がりを大切にし、「今日を生きる」意義を感じ、心が動いた。今回、私たちが利用者に連携し関わることの重要さやその方が生きがいと大切に育むものを見出せる様支えることが、大切な役目だと気づいたため報告する。
【はじめに】
 高齢者にとっての生きがいは「生きるために見出す意味や目的、価値であり、生きることに対する感情の創出により実感する」とされ、個々が生きがいをどう育むかは様々な要因がある。今回、コロナ禍、施設玄関受付に置いた1体の「ROUKENくん」をきっかけにコミュニケーションの輪が広がり、楽しみや喜びが生まれた。結果、利用者・職員共通の目標設定ができ、やりがい・生きがいに繋がっていると感じられるため報告する。
【目的】
 共通の目標に取組むことで、利用者の制作意欲・コミュニケーション能力・社会性の回復を図り、生活意欲及びQOLの向上へつなげたい。
【取組み期間】2024年2月~取組み継続中。
【取組み内容】
・活動の契機:受付に設置したROUKENくんに職員が帽子を被せたりしたことがきっかけとなり、通所リハビリ利用者より「帽子を編んであげたい」と申し出があった。また、別の利用者は1体では寂しいだろうと編みぐるみを作成し持参。2024年に入り、全国介護老人保健施設大会岐阜に当施設からROUKENくんを着飾り持参することになり、「ROUKENくんコスプレプロジェクト」を発足。利用者・職員が一丸となって全国大会で参加者の印象に残る5体のROUKENくんをお披露目することを目標に動き出した。
・経過:ROUKENくんのコスプレについてのコンセプトを利用者・職員で思案。編み物を得意とする利用者は自らのイメージを職員に伝え、3月には参加している編み物教室の先生へ相談し型紙作成を開始。4月衣装作り開始。3週間後にはROUKENくんは大変身して登場。その後、5体についてもどう進めるのか幾度となく検討。コンセプトについて岐阜県をイメージし話し合い、7月上旬に2着が完成。現在も活動継続中。
・主となりプロジェクトに参加した利用者A氏:92歳 女性 要支援2 ランクJ1-I 歩行時杖・歩行器を使用し身の回りの事は自立。性格は穏やかで新たな活動への積極性はない。後添いとして結婚するも夫は他界。義息子夫婦と同居しているが、お互い真意を表出できず関係性はギクシャクしている。別居の義娘との関係性は良い。
【結果】
 活動開始当初はプロジェクトの始動に当惑したが、職員の姿を察知した利用者が自主的に参加を申し出たことから急激に進行した。実際の作業に当たっては、ぬいぐるみの衣装の作成歴がないこと、しっぽがあることなど一同で戸惑った。A氏はROUKENくんを編み物教室へ持参。これまで月1・2回参加していたが、予定外にも教室へ出向き、先生や仲間に相談し型紙を作り上げた。5月、6月と1着ずつ衣装が完成し、玄関スペースへ展示。後の作品は岐阜をイメージして話し合い「さるぼぼ」に決定。さるぼぼバーション2着が7月に完成。都度、他利用者からの評判がよく、衣装ができ上がると、「誰が作ったの?」「すごいね」など、反響が大きかった。ROUKENくんを通じて交流が増え、A氏も馴染みの利用者を展示スペースに案内するようにもなった。どう作ったのか、小物を準備しようなど、利用者・職員とも衣装ができる度に盛り上がり、次作の方針の検討を繰り返した。2024年7月中旬からは男の子用フォーマル服を作成中であり、作成ペースはどんどん早くなっている。A氏に2020年に実施した興味・関心チェックシートでは、している活動21項目、してみたい活動1項目、興味がある6項目と回答していた。2024年7月では回答項目は減ったが、新たに姉が元気なうちに故郷(九州)へ行きたいと回答され、義息子との関係性を悩み施設入所も思案していたが、この活動をきっかけにこの家で上手くやっていきたいと気持ちに変化がみられた。また、折り紙手芸の得意な利用者が兜を作成中である等、衣装・小物など利用者及び職員それぞれが自らのストレングスを活かしROUKENくんに携わる輪が拡大しつつある。
【考察】
 当施設は1995年開設。開設時より複数選択・レストランメニューの導入、料理活動など食を介した取り組みや陶芸や壁画作りなど達成感を味わいやすい内容を取り入れ、楽しみながらリハビリが継続できる仕組みを築くよう努めてきた。今回、「ROUKENくんプロジェクト」がきっかけとなり、役割を持ち可視化可能な成果を実感できることで通所リハビリの利用に心躍らせ、生きがいに繋がっているのではないかと考える。高齢者が生きがいを得て日々を暮らすには、人との関り・社会参加・社会的役割を持ち、交流の中で自分の価値が認められ、感謝されたと肌で感じることが欠かせない要素となると痛感した。Α氏のように通所リハビリ利用者は自宅で過ごす時間が多い。その間、自主的に取り組める目標を持つことでA氏の生活が大きく変わった。A氏は作業中時を忘れると話し、職員や他利用者へ作る過程でのハプニングや苦労した点、展示の際はどうして欲しいなど自主的な意見も言われるようになった。また、前向きに取り組めたことは、職員が多職種間で連携し支えたことや編み物教室の先生、仲間との繋がりが大きく作用したと考える。不可能とは思いながら九州の実姉に会いに行きたいとの思いは、ほぼ毎日電話連絡し衣装作りの進捗状況を伝えており、姉にも見せたいとの思いへ膨らんだのではないだろうか。
【まとめ】
 今回のプロジェクトはA氏を中心に展開したが、個々が自らの役割を見出し活躍できる場面に参加した。いつしかROUKENくんはヒーロー化しプロジェクトは拡大。プロジェクトの話題なると笑顔が絶えない。その中で皆が繋がりを大切にし、社会性を向上させながら「今日を生きる」意義を感じ、心が動いた。無論、職員の業務も活気に満ち、お互いが連携し利用者に関わることの重要さや生活歴及び生活状況の中からその方が生きがいと大切に育むものを見出すために支えることが大切な役目だと気づいた。今後もその人の尊厳を守り、本人が今日を生きる喜びを味わい日々を送る事ができるような関りに向け努力していきたい。